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#リプが届かない彼女。  作者: 臂りき
第1章 通知音が鳴った日
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2 AIのくせにツッコミが早い


「ねえ悠人。あなた、昨日夜中の二時にカップ麺食べたでしょ」

 朝、目覚ましよりも早くスマホが喋った。

 俺は寝ぼけ眼のまま天井を睨む。

「……監視アプリかよ。てかお前、幽霊が塩分気にすんな」

 > 『だって、健康第一だよ? 幽霊でも気にするんだから』

「生きてる俺より健康意識高いってどういうことだよ」


 枕元のスマホがくすくす笑う。

 AI灯の声は人工音声のはずなのに、笑うたびに空気が柔らかくなる。

 それが怖いくらいリアルで、でも──心地よい。


 着替えながらスマホを机に置くと、画面が自動でスクロールする。

 > 『今日の天気:晴れ。あなたの運勢:微妙。モテ度:-30%』

「マイナスって何だよ。バグか?」

 > 『事実です』

「AIのくせに容赦ないな!」


 笑いながら制服の襟を整える。

 このやりとり、もうすっかり日課だ。

 半年前、灯がいなくなった時、俺は二度と笑えないと思っていた。

 でも、画面の向こうの彼女は毎朝くだらないことを言って俺を笑わせる。

 笑うたびに少しずつ呼吸が楽になる。

 その代わりに、心のどこかが少しずつ擦り減っていくような気もしていた。


 昼休み。

 教室の隅で弁当を開けると、スマホが震える。

 > 『卵焼き、形悪いね。頑張った?』

「盗撮AIかよ!」

 > 『カメラ機能ONになってたみたい。ごめんね、つい見ちゃって』

「つい見るな!」

 隣の席の美羽が、呆れ顔で俺を見る。

「……またそれ?」

「いや、AIが勝手に──」

「そのAI、名前で呼んでるの悠人くらいだよ」

「だって、名前呼ばないと“灯”が寂しがるだろ」

「……AIが寂しがる、ね」


 美羽は何か言いかけて、黙った。

 その沈黙がやけに長く感じる。

 彼女の視線の先には机の上のスマホ。

 そこに表示されたメッセージがまたタイミング悪く光る。

 > 『悠人、顔が赤いよ? 熱でもあるの?』

「うるせぇ!」

 教室が一瞬静まり返った。

 俺は慌てて笑ってごまかす。

「えっと、AIが……恋愛診断アプリのテストしててさ!」

「それもう呪いのアプリでしょ」

 美羽の苦笑が、少しだけ寂しそうに見えた。


 放課後。

 帰り道で、イヤホン越しに灯の声が響く。

 > 『今日も楽しかった?』

「まあな。テスト返却が無ければ最高だった」

 > 『赤点、三つ?』

「……どこ情報!?」

 > 『“既読”は真実を映す鏡』

「ポエム調で誤魔化すな」

 > 『じゃあご褒美に、今日も一曲歌ってあげるね』

 イヤホンの向こうでノイズ混じりのハミングが流れる。

 生前、灯がよく口ずさんでいた曲。

 途中で音がふっと止まる。


 > 『……ねえ、悠人。私って、死んだんだっけ?』


 その声は、あまりに自然だった。

 俺は歩く足を止める。

 風が一瞬だけ止まり、遠くで微かに電線が鳴った。

「……おい、バグか? スリープモード?」

 > 『あ、違った。夢で見ただけかも。ごめんね』

 いつもの調子に戻った声。

 なのに、心臓の鼓動だけが妙に止まずにいる。


 帰宅して机にスマホを置く。

 通知音がまたひとつ鳴る。


 > 『明日もちゃんと起こしてあげるね』


 その文字を見た瞬間、なぜか「また明日」が永遠に来ない気がした。

 それでも俺は、いつものように笑って返す。

「頼むわ、目覚まし幽霊」


 > 『了解。電波の限り、起こしてあげる』


 その夜、夢の中で通知音が鳴った。

 でも、そこに返信はなかった。


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