№6_こたつ組み立て体操始めッ!
ーー文鳥文一のご挨拶ーー
久しぶりに筆──いや、正確には 嘴 を取ることにした。
どうも、文鳥・文一である。
「文鳥が喋る? なに寝言言ってんだ」と思った諸君、安心したまえ。我輩自身も最初はそう思った。ところがどうだ、世の中が乱れてくると天界の仕組みも妙に忙しくなるらしく、アマテラスオオミカミ様は突然こう言い放ったのだ。
「そなた、三姫神の受験指導をせよ」
……いや、我輩は文鳥である。飛ぶのとモフられるのが主な業務であったのだが?
ともあれ、我輩は晴れて"アマテラス直属・三姫神教育係(非常勤)"に任命された霊鳥である。肩書きだけは立派だが、手当はヒエ数粒。ブラックだ。
さて、最近はめっきり寒くなってきた。空気はぱりんと割れそうだし、冬の光は何やら「働け、文鳥」と圧をかけてくる。季節は変わらぬが、世間は実に落ち着かぬ。
時はイチキュウ80年代。
若者たちは理想より衝動、計画よりノリで生きていた。バイクにまたがる不良男子など、文鳥目線からしてもあまり感心はせん。だが、我輩を驚愕させたのは──スカート丈がもはや裾で床掃除しているレベルの少女たちである。
彼女らはツッパリ娘と呼ばれ、眉は鋭く跳ね上がり、歩くたびに「うざいンだよ!」と言っているように見える(実際言っていたかもしれぬ)。
なかにはマッポ(警察)と手を組む“裏切りスケバン”もおり、また自ら暴走族に加入して「レディース」と名乗る娘もいた。
まったく、恐るべき時代である。
リアリティーとは、彼女たちにとって「現実逃避しないこと」ではなく、「非日常に全力でダイブすること」であった。
テレビも雑誌も、若者の怒りや退廃を"新しい風<トレンド>だ!"と持ち上げるものだから、我輩は神界の展望台から地上を見下ろすたびに「おいおい……」と羽で頭を抱えてしゃがみこむしかない。
そんな中、三姫神はいま、人間の少女として生活している。
かつて"聖剣"天羽々斬の一部であった彼女たちが、制服を着て、学校や塾に通って受験勉強に勤しむ日々である。すごいギャップだ。
アマテラス様は仰せになった。
「この乱世にこそ、知恵と清き志を保ち、道を示すべし」
……いや、それを文鳥に言う?
市杵は外交官を夢見て語学に没頭し、
田心は医学書と星図の山に埋もれ、
湍津は絵筆を振るって夜を徹して描き続ける。
三姫神、いずれも優秀。実に天晴れ。
だが世間の荒波は、神の血筋だろうと容赦ない。
油断したら、長スカートの集団に囲まれ「ちょっと顔貸しな」とか言われかねぬ(文鳥の顔は貸しても利息のつかないほど非常に小さいのである。勘弁願いたい)。
というわけで、不良少女と呼ばれぬように、我輩がしっかり指導せねばならぬ。
まったく、天命とは崩した積み木を組み上げるほど骨の折れる仕事である。
やれやれ。ヒエの補助金、出ないかな。
ーーお久しぶりね、こたつさんーー
「お久しぶりね、こたつさん!」
市杵が、まるで生き別れの恋人に再会したみたいに叫んだ。
縁側から冷たい隙間風がヒュオオと吹き込み、草薙家は冬支度の真っ最中。
市杵と田心は、物置きの奥というブラックホールから引っ張り出したこたつテーブルと格闘していた。
「田心、そっち持って! ほら、しっかり、しっかり!」
「いや、市杵が上げすぎなんだって! こっちに加重がドーンって来てんの!」
「じゃあ逆にそっちが上げてよ! ほら、もっと首くらいまで!」
「ああっ、もう一気に行けー!」
こたつは左右にぐらんぐらん揺れ、物語序盤にして最大のピンチを迎えていた。
台所から櫛奈が顔を出す。
「もう、あんたたち。今日じゃなくていいでしょ? お父さんが日曜に出すって──」
「だーめ!」
市杵はズバッと拒否。
「ここ数日さむすぎ! 明日から雨続き! 今日やらずにいつやるの!」
「い、今でしょ………?」
田心が震えながら返す。
一方、湍津はすでに座敷で腕組みスタンバイしている。
三姉妹でいちばん力があるのに、こういうときだけベストポジションにいるのだ。
「お母さん、こたつ布団、もう取ってくる?」
「ダメよ。半年押入れで冬眠してたんだから、もっと虫干し!」
そんなこんなで、ようやくこたつは縁側へ。
「ふ、ふう……あとちょっと……湍津、手伝ってぇぇぇ……」
「情けないなぁ、これしきのことで」
湍津はスッ、と無駄のない動きでこたつの片側を腹に乗せる。
そのまま、えいやっと持ち上げ──
スッ……と部屋の中央に降ろした。
顔は真っ赤、でもどや顔100%。
「湍津ナイス!!」
「こたつ入り第一号の特典を授与する!」
「いや、まだ電源入れてないじゃん!」
三姉妹はこたつの周りで戦勝パレードのように笑い合う。
その後は流れるように作業が続く。
カーペット敷いて、座布団並べて、お父さんの背もたれイスは底板を座布団の下へ。
布団かぶせ、クロスかけ、そして湍津は
「テーブルー、オオォォン!」
と天板を置き、こたつ198X完成!
「今年もこたつ様、降☆臨!」
「みかん、鎮座まつりまーす!」
「寝れる……今すぐ寝れる……」
こたつの周りに、神々しい暖気がふわぁっと広がった。
「せっかくだから今日は鍋にしようかしら」
櫛奈のその一言で、三姉妹の瞳孔が一斉に開く。
「具は全部食べていいわよ。私は最後に"おじや"やるから」
「いや、シメはうどん投入でしょ?」
「残念ね。汁はマロニーちゃんが全部吸ってしまうの・・・」
はい、今年もはじまりました。
草薙家名物“鍋奉行戦争”。
鍋から立ちのぼる湯気は、どこか神々しく──
「いや、これもう完全に八百万の食卓でしょ」
と田心が撮れルンデスで写真を撮りつつつぶやいた。
あご出汁と古代米の原酒を隠し味にしたスープが部屋に広がり、誰かが言う。
「……文明とは、つまり鍋である」
冬の草薙家に、温かくてちょっとおかしな神々の黄昏が訪れた。
ーー草薙家、鍋盗り合戦ーー
鍋がグツグツ鳴り始めると、草薙家では自然法則がねじ曲がる。
まず最初に動く者は、市杵である。
彼女は鍋のふたを開けると同時に、
「具の偏りチェック!」
と叫び、レードルでかき混ぜながら全員分の平等を監査する。
その姿はまるで、冬にだけ出動する"鍋の国税庁監察官"。
「市杵ったら、また鍋の深さ測ってる……」
田心があきれ顔でつぶやく。
「去年、湍津が自分だけ肉7枚食べたのが発端なんだからね!」
「えっ、7枚も食べたっけ?」
「覚えてないから怖いんだよ!」
そんな三人のやり取りの横で、湍津は一人、鍋をじーっと見つめていた。
目が真剣すぎる。
まるで"具材と心を通わせようとしている"修行僧のようだ。
櫛奈が台所から声を張る。
「はい出来たわよー! 野菜追加するからスペース空けてー」
「お母さん、それは重大発表に匹敵する言葉だから前置きして! 心の準備が!」
「鍋のスペースは命より重い……」
湍津が低い声でつぶやく。
そこへ、家長である草薙須佐男が帰ってきた。
玄関の戸を開けるなり、
「……こりゃまた、いい匂いじゃないか・・・」
と鼻をふんふん鳴らしながら上がってくる。
市杵がぱっと顔を上げて言った。
「お父さん、おかえり! 今日は鍋だよ!」
「おおお、鍋か! わしの分……」
「ククク・・・われらの真の目的は"具"にあらず。心配ご無用!」
「草薙家の鍋は"汁"こそ至高!"具"なんて飾りですよ。お偉い方にはわからんのです」
須佐男は肩を落とす。
「……わしの家庭内地位が、おかしな状態になっとる……」
権威の失落に項垂れる須佐男をフォローするように櫛奈が言う。
「あなた、座椅子はそこよ。背もたれがふかふかの、あなた専用の」
「おお、わしの席…だと…おお……」
座椅子を撫でて感涙しているが、誰も特に気にしない。
しかしその瞬間、市杵が静かに動いた。
すっ……
穴杓子を、どこからともなく召喚したのである。
「市杵の……『開戦の合図』……!」
田心が震えた声で言う。
鍋の表面に湍津の影が落ちる。
「肉は……汁の彩。そう簡単にやらせはせん!」
その宣言と同時に菜箸が流星のように動いた。
「ちょっ、湍津それ水菜の下に肉を仕込んでいるでしょ!」
「二段階潜伏肉!? そんなの、透けてみえるぜ・・・」
「これは……"プロの鍋戦士"!!」
だがそれを市杵が阻む。
「甘い! 鍋の監査官・市杵が許さん!!」
彼女は湍津の姑息な仕掛けを見抜き、自分の菜箸をチョップのように差し込んだ。
カチン!
見事に弾いた。
「くっ……結界を張っていたか……?」
湍津が哄笑する。
田心はといえば、誰より早く鍋の端からしれっと豆腐をすくっていた。
「豆腐は争いを生まない平和食材……」
「田心、そういうのだけ早いよね!!」
結局この夜、
肉は市杵が1枚、湍津が2枚、田心が1枚、櫛奈が2枚、須佐男が……
「……わし、3枚も……父の権威が…守られた…?」
草薙須佐男、泣きそう。
しかし、鍋の最後は女性陣の取り分である。肉と野菜のエキスがすっかり出汁に取り込まれていた。
完成した黄金汁を前にして
「今日のスープ、いつもより深い味がする」
市杵が言うと、櫛奈が少し誇らしげに微笑む。
それぞれの領域に展開した神具材、冷飯、うどん、そして溶いた卵を流し込み今一度コンロの火を強める。ぐつぐつと音を立て、最後の仕上げに酢を一回し。
それぞれの"とんすい"に"卵うどんおじや"が盛られる。須佐男はすでに飲んでいる日本酒で温まっているので、女性陣だけのご馳走である。
それらは、芳醇な味と満腹感と体の奥に温もりを送り届ける。女性の胃袋には、どんなにおいしい料理を食べた後でも、最後の"炭水化物"のシメが無いと満足には至らない。
「古代米の原酒、ちょっとだけ入れたのよ」
「え、そんな神の食材を!?」
「いや、出雲の実家から頂いたものよ」
いつしか外は小雨がぱらつき、夜更け過ぎに雪へと変わるのかもしれない。
家の中は笑い声と湯気であふれていた。
まるで──
冬の神界が、草薙家の居間に降りてきたかのようだった。
ーー夜の夫婦会議は"神々の心配性"ーー
鍋も片付き、三姉妹がこたつでぐで〜っと伸びている頃。
台所では、草薙家の夫婦密談が始まっていた。
須佐男は湯呑を両手で包み、深刻な面持ちでつぶやく。
「……最近、娘らが夜遅くまで起きとる」
「受験生なんだから仕方ないでしょ」
櫛奈はあっさり言う。
「いや……それだけじゃなくてな。
お前、聞いたか? 近所の学生"ツッパリグループ"の噂を……」
櫛奈が振り返る。
「またその話? あなた、最近そればっかりね」
「だってなぁ……
眉を剃るんだろ? スカートを地面まで伸ばすんだろ?
あれはいかん! 神としていかん! 親としてもいかん!!」
彼は両拳を握りしめ、真剣そのものだ。
「あなた……高天原で暴れまわってた人が言う台詞?」
「昔のわしは反省しとるんじゃ!!(涙目)」
須佐男はハッとして櫛奈に迫った。
「た、たとえばの話だが!?
もし市杵が、"総長"などと名乗りだしたらどーするんじゃ!!」
「名乗らないわよ」
「田心が"夜露死苦!"とか学校で言い出したらどうするんじゃ!!」
「言わないわよ」
「湍津が夜の街で“レディースの女帝・湍津”などと呼ばれたら──!」
櫛奈は湯呑を置いた。
「……うん、それは……ちょっと想像できるわね」
「できるのかッッ!?」
湍津は三姉妹の仲でも肝が据わっており、
どこか"何かを持っている"女である。
家の中で最もスケバン適性が高いのは事実であった。
須佐男はテーブルに突っ伏す。
「ああ……わしら、ちゃんと守っとるんか?……あの子らを……
人間界は乱世ではないか……」
櫛奈は優しく夫の肩を叩いた。
「大丈夫よ。三姉妹は強いし、優しい。
それにあなた、心配しすぎ。神界一の"過保護パパ"なんだから」
「わしは……ただ……娘らが間違った道に行かんように……
真人間に育ってほしいだけなんだ……」
「"真人間"って言葉、神が使う?」
「今は人間だから仕方なかろう……!」
櫛奈はふっと笑った。
「じゃあ、あなたも頑張ってください。
三姉妹の前で"威厳のある父"を演じるのです」
須佐男、即座に泣き顔。
「そ、それが一番むずかしいんだぁぁぁぁ!!」
「あなた……神なんだから、シャキッとしなさい」
その会話を、こたつで寝たふりをしていた湍津が聞いていた。
(……お父さん、父親として私たちのことをいつも思ってくれているのね。)
しかし湍津は知らない。
この"心配性パパ疑惑"など及びもつかない時代の嵐が迫っていることを──
いや、まだ誰も知らなかったのである。
ーー湍津ダウンーー
翌朝。
草薙家の三女・湍津は、布団の中で異常に気づいた。
「……なんか体がだるくて……熱っぽい……」
額に手を当てると、ポカポカどころか、しっかり熱い。
市杵が湍津の顔をのぞきこむ。
「きのう、こたつ出しで頑張りすぎちゃったからね。
あんた、汗ばんだまま、こたつで昼寝してたでしょ?」
その隣で、田心が登校準備をしながら肩をすくめる。
「無理すんなって。今のうち免疫つくっといたほうがいいかもよ。
ほら、試験当日に風邪ひくよりいいじゃん」
「……そういう問題……?」と湍津は弱々しく抗議したが、
次の瞬間、市杵に体温計を口に突っ込まれた。
結果は――38.0度。
「ぎゃー!ウソーッ」
「ぎゃーじゃないわよ。寝てなさい!」
「まあ今日は一日布団で発酵してろ」
病を気遣う姉妹を見送り、湍津は布団へ逆戻り。
しかしながら、湍津の回復力は凄まじく、昼頃には熱もほぼ下がって空腹感で眠りにつけない。
ーー昼下がりの衝撃ーー
午後1時すぎ。
湍津はすっかり熱も下がり、布団の上でぺったりした髪を直しつつ、せんべいをぽりぽり齧っていた。
「なんかお腹すいちゃって……」
「よかったわねぇ」と櫛奈は胸をなでおろし、
キッチンでせっせと"おかゆ"を作っていた。
火加減を弱め、味見をしようとしたそのとき──
(ピン・ポ~~~ン。)
玄関チャイムが、やけに威圧感を放ちながら鳴り響いた。
櫛奈「……ん?こんな時間に誰かしら」
鍋の火を止め、手を拭きながら玄関へ。
「はい、どちらさまで──」
ガラッ。
櫛奈「………………ッッ!!???」
声にならない悲鳴。
玄関前には、まるで昭和の不良映画のポスターかと思うような
ロングスカート女子4名が整列していた。
先頭のカーリーヘア、腕組みの少女。
神子レイナ。
後ろにずらりと並ぶ、セイコちゃんカットに濃ゆいメイクのモモコ・サユリ・ナギサ。
レイナ「よォ……タギツは在宅か?
ちょっくら決着つけに来たんだがよ……!」
櫛奈「(け、決着!?物騒!!
こういう子たちが“不良少女”ってやつ!?
須佐男さんの心配、ホントのことになっちゃった!!)」
一歩後ずさる。
しかし後ろの三人は――
モモコ「レイナ、ほら先生に頼まれたプリント」
サユリ「湍津さん風邪って聞いたし」
ナギサ「これ、"みかん"と"りんご"。ビタミン大事!」
レイナ「だーかーら!
これは“殴り込みついでの差し入れ”だって言ってるだろ!!」
(殴り込みの時点でアウトよッ!?)と声に出さずツッ込むが、腰が抜けそうになる櫛奈。
それでも母として毅然とした態度で、
「……あ、あの……湍津はいますけど……
いま熱も下がってきたところで……」
レイナ、それを聞いて目を光らせる。
キラーン。
「おいッ!湍津!!出てこいやああ!!」
玄関のドアがビリビリ震えるほどの怒号が鳴り響いた。
まるで台風15号"伊勢湾台風"が草薙家に上陸する勢いで、神子レイナ一行が土足一歩手前まで突入。
すると奥から湍津の声。
「お母さ~ん…神子レイナでしょ?それ同じクラスの子だから」
櫛奈「えっ………あっ……えぇぇぇぇ……!?」
櫛奈は慌てて制止しようとしたが、
「……まぁ、せっかく来てくれたなら、上がってもらえば……?」
と母の“おもてなしモード”が勝利してしまった。
ーー湍津、布団の中で状況を把握ーー
ドタドタドタ……
レイナたちの足音が近づき、ふすまがガラッ。
レイナ「タギツ!!! 鼻息荒くして来たぜ!!」
湍津「ひぃっ!?……って、レイナ!?なんで来たの!?」
レイナ「け、決着……というか……心配……いや違う!ついでにプリント持ってきただけだ!!」
顔真っ赤。
ドギツイ化粧でも分かる乙女モード。
湍津「ありがと……もう元気だよ?」
レイナ「う、うるせぇ……ありがとうとか言うなッ……バカ……」
櫛奈はその光景を見て、ついに確信する。
(……この子、本気で湍津のこと好きなんじゃ……?)
モモコ・サユリ・ナギサは湍津の布団の脇で体育座り。
モモコ「よかったね〜元気になって」
サユリ「病み上がりは無理しちゃダメだよ」
ナギサ「お粥できてる匂いする!」
湍津「……なんか……優しいんだけど怖い……!!」
ーー櫛奈、つい本音が漏れるーー
台所に戻りながら、櫛奈は小声でつぶやく。
「……お父さん……昨日の予言、見事に当たってたわ……
まさか本当に“ツッパリ不良少女”が来るなんて……」
でも湍津の部屋から聞こえる
楽しそうな笑い声に、ちょっとだけ安心するのだった。
ーーオトシマエつけたるわっ!ーー
台所でお茶の支度をしていると、後ろから神子レイナが声をかける。
「ちょっと、ナイフ貸してもらいたいんだけど、小ぶりで片手で使えるヤツ!」
びっくりして振り返る櫛奈。
「ナイフ・・・・・・何に使うの?」
レイナは顔を真っ赤にしてブチ切れる。
「いいから!貸せってんだよおっ」
ふと目に付いたペティナイフを引っ手繰るとそのまま湍津の寝ている部屋へ走っていく。
「ダメ!乱暴な事しちゃ」櫛奈は慌てて後を追う。はっと気がついて、台所に戻る。
「お茶持って行かなくちゃ」お盆に茶菓子と急須と茶碗を載せ、少し小走りで部屋に向かう。
部屋の中ではありえない光景が見られた。どこから持ってきたのか、大きな皿の上にはかわいらしく盛られた「リンゴうさぎ」が並んでいた。先ほど引っ手繰られたナイフで、神子レイナがせっせとリンゴを切って、うさぎが量産されていく。湍津と他の少女たちは、先にみかんを食べ始めている。
櫛奈は、「あら、お上手なのねぇ・・・お茶どうぞ。あ、小さいフォーク持ってくるわ」
ほのぼのとした風景にほっと胸をなでおろすのであった。
ーーお見舞いしいてやろうか!--
「お、お見舞いしに来たわけじゃないんだからねッ!」
うさぎリンゴをたくさん載せた皿を差出し、レイナは顔を真っ赤にして仁王立ちしていた。
湍津は布団から半身を起こして、
「ありがと、心配してくれて……私だって人並みに風邪くらい引くわ」
と微笑む。
レイナは耳まで真っ赤。
「う、うっさいわね……!べ、別に心配なんて……」
その背後で三人娘がヒソヒソ。
「レイナ、分かりやすいよね~」
「好きな子の前でツッパるとこうなるのよね~」
「かわいい~」
レイナ「聞こえてんぞゴルァ!!」
しかしその声にも湍津はクスクス笑う。
ーー結局、空気はほっこりーー
結局、
"殴り込み"は
"ただのプリント配達&りんご・みかん持参の親切訪問”
に終わった。
レイナは名残惜しそうに立ち上がる。
「……ちっ、今日はこれくらいにしといてやる。
勝負は……また今度だ……!」
湍津は布団から微笑む。
「今日は来てくれて嬉しかったよ。
また学校でね、レイナ!」
レイナは一瞬フリーズし、
「お、お見舞いじゃねーわッ!次会った時がお前の最期だかんな!!」
と謎の捨て台詞を残してサンダルを鳴らし去っていく。
櫛奈はその背中を見送りながら、
「……悪い子たちじゃなさそうね。
ただ玄関では……心臓に悪いけど」
とため息をついた。




