後編
あれから1週間
世界はニューノーマルに染まりつつあった。
俺は特に難しい事はしていない。広告をスキップ不可能にする動画を一覧から選ぶだけだ。「神ポイント」が加算され、たまに神が回収に来て喜んでいる。
だが、そんな中で異変は起きた。
「スキップできない広告は精神汚染だ」
「あれは【洗脳】だ」
最初はネットの書き込み程度だったが、やがて神の広告サーバーをハッキングされた。
彼らは名乗った。
「ノンコマーシャルレジスタンス」
通称:NCR
旧アドブロック界隈だ。
彼らは動画を差し替えて自らの主義を主張した。
「広告に支配されるな」「啓示は自分で選べ」
世界は2つに分断されていく。
ひとつは広告を信じる者。
もうひとつは広告を拒む者。
「広告は見るべきか、見ざるべきか」
この問いは人類の存続をかけた最終選択へと変わっていく。
――
数ヶ月すると街の景色も一変した。
至る所に落書きやチラシが貼られている。
『このまま広告を信じ続けると世界は終わる』:NCR
『私は神の啓示だけを信じる』:GOC
GOC:ゴッドオブコマーシャル
彼らも彼らで全員にコマーシャルを見せようとする神様過激派だ。
電車内で動画を見ている者は、広告を見ているか見ていないか周囲の乗客に監視される。
見ていればNCRが
見ていなければGOCが
どこかへ拉致する。
俺の友人達も分断されてしまった。
神が望んだ世界とはコレだったのだろうか?
その夜、俺は広告を使い神と話せないか試してみた。
「ピンを抜いて王様を助けろ!」
前回と同じで3本目の広告をクリアしたところで神が現れた。
馬車に乗って演出が派手になっている
「久しいな選ばれし者よ。無事に広告収入も増えてウハウハだ」
「あんたに聞きたいことがある」
「今は機嫌が良い、何でも聞きなさい」
神がホッホッホッと笑う
「レジスタンスについて知ってるか?【広告を見るべきではない】と反発してる」
神はため息をついた。
「彼らは【啓示】の意味を誤解している」
眉間にシワを寄せながら神が続ける
「我々は【広告】しか出していない。【見る者】がいなければただのデータだ。だから見るのを選んでいるのは常にそなたたちだ」
「しかし、反発するのもまた世界の真実だ。そなたのように真理に到達する者は、あまりに少ない」
神が雲を操作すると数字が浮かぶ。
——全人類広告スキップ率:40%
「そんな……スキップ不可にしてるのに」
「人々は答えを急ぎ、飛ばすことに慣れてしまった。最後の手段として【スキップ不可】を創造した」
「けど……それでも反発が生まれてる」
「その通りだ」
神の顔が慈悲に歪んだ。
「本当を知るそなたが、世界に【選択肢】を戻してくれ」
――
俺のスマホがアップデートされる。
「選択肢拡張プログラムがインストールされました」
【1】見る
【2】見ない
【3】見届ける
俺に世界の命運を決める事などできない。
それぞれの人間が決めるべきだ。
俺は【3】を押す。
「――あなたの選択は全人類に影響を与えています」
問われていた事はスキップできるか、できないかではない。
何を信じるかが問われていた。
そして俺は何も選べなかった。
……世界が俺を中心にして2つに割れていく音がした。
――
あれから、法律も整備され視聴は義務となった。
スキップ不可ボタンは【神印】と呼ばれ、初詣でレプリカを買ってきて神棚に崇めたりする。
そして、レジスタンスは地下へ潜った。
「見ざる者たち」は遮光バイザーとヘッドホンを付ける。
ひと昔前の未来人予想図のような格好になった。
これで終わったと思ったある日……神の財政が破綻した。
急に増えすぎた収入に贅沢をしすぎた。
神界確定申告に失敗し追加徴税をむしり取られている。
その時、神は……人間に助けを求めた。
「タナカ=カズマよ!我を広告に出してくれないか?」
「えっ、神様みずから?」
「信仰が足りぬのだ」
神は泣いていた。
「もうワンクリック祈りをしてくれるだけで良いのだ」
俺は悟った。
啓示は義務ではない。
神が人間と繋がるための方法だ。
神なりの愛情表現だったのだ。
俺はスマホカメラで神の写真を撮る。
広告に貼り付けて『スキップ可能』に設定した。
――
エピローグ
世界中のスマホに広告が表示される。
「ピンを抜いて、神を助けろ!」
SNSで「#神を救え」タグがバズり
全世界でピンを抜く指が一斉に動く
「人類もまだ捨てたものでは無い」
【完】
このすばの主人公がサトウ=カズマで同名だったのでタナカに修正しました
あいつ佐藤だったのか