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少女大陸周遊記  作者: Tanaka葵
第1章
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5話 魔導列車②

「すみません!」


シアはオブニを連れて、食堂車中央の本部に駆け込んだ。難しい顔をして集まっていたディヨンたちは驚いた顔をした。あからさまに緊張した顔をしたシアにアリアが声をかけた。


「どうしたの?シアさん」

「あ、ああああの、私には、その、出来ることは、ないんですけども、その役立たじゅで申し訳なく…」

「まあまあ落ち着いて」


金髪の男が手を上げてシアを諫めた。

シアはいきなり噛んだ恥ずかしさに顔から火が出そうなほど赤くなった。しかし息を吸い込むと、ひと息に話した。


「こちらのロボットは私の護衛で、その、彼なら皆さんのお役に立てると…計算とか、通信なんかも」

何人もの視線がオブニに向いた。


「ソンナにジロジロ見ラレルト弊機のパーフェクトボディに穴ガ空キソウデス」

「「「喋った?!」」」

「あはは…」

「ハア…弊機モ人間ガ話スたびニ驚クコトニシマショウカネ。『喋った?!』ト」

本日二度目のロボットが人語を話すというショックはオブニの不満顔に迎えられた。



◇◇◇



「すごい!すごいよキラさん。魔法剣士なんてすごく難しいのに!かっこいいな〜!めちゃくちゃかっこいい!!!」

「鍛錬の成果だ。君こそ、この若さでよくその強さを手に入れたものだな」

「迷宮出身は強くなりやすい環境に置かれてるから。あと運が良かったのかも」


どうやら金髪の男はキラと言うらしい。なぜかアリアが目を輝かせて話しかけている。いつになくテンションが高い。


「先生、結界(バリア)は持つでしょうか」

「ちょっと待っておれ、ふむ。砂嵐はおそらく問題ないだろう。付近の魔力濃度が高まっているのが功を奏したな。だが、どの巨獣が来るかわからん以上、あまり油断は出来んだろうな。おい!そこの機械頭!本部や周辺都市との連絡は取れたか?あと今の魔力濃度の数値は!」

「今ヤッテルトコデショ…通信ハ微妙デス。レベル4」

「やはり高いな…この辺りの標準魔力濃度は2だぞ」


ディヨン、そして先生と呼ばれた獣人の男とオブニは短い間に随分と仲良くなったようで、軽快な口調で仕事をしている。先生は話を聞く限り、なかなか尊大な性格なようだが、同時に結界(バリア)術の権威でもあるらしく、実地で試せるいい機会を伺っていたそうだ。

そして、シアはと言うと。


(なんか、なんかすごく場違いなんだけど?!私、ここにずっと座ってるだけで結局なんの役にも立ってないよ〜)


泣きそうな顔で本部のなぜか中央に座らされていた。


(私もニコくんと同じ料理班か、ヘレンさんと同じ補助班が良かった…!そっちなら手伝えることがあるのに!なんで私はまだここにいるの?!ちょっとオブニ〜〜〜!!!!)


残りの2人の魔術師たちにより、残りのメンバーはいくつかの班に再編されていた。とりあえず食事は重要だと、ニコは真っ先に料理班に志願し、ヘレンは補助班として様々な雑事をこなしている。


そしてシアはというと、今はなんの班にも属していないお荷物状態であった。一応、ごねるオブニを宥めすかして、なんとか彼らに協力させた後、シアはしれっと本部から抜け出そうとしたのだ。けれど、オブニが


「弊機はシア様から半径3m以上離れて活動できません」


と本当か嘘かわからない駄々を捏ね、そのうちにあれよあれよと言う間に椅子を勧められ、抜けにくい雰囲気のまま周囲を専門家に囲まれてしまったのだ。


(めちゃくちゃ気まずい!助けて2人とも!)


助けを求めるように2人の顔を見つめると、ヘレンはウィンクし、ニコはエプロン姿でグッドサインを送って激励してくれた。救世主はいない。シアは撃沈した。



◇◇◇



やることの特にないシアは仕方なく地図を見た。先ほどのものよりアップデートされ、空間に浮かぶ映像は、無慈悲にも列車の進行方向と、無数に存在する点の進む方向が合流することを表している。


(この時期の巨獣で群れっていうと…猛牛(タウロス)怪鳥(ディアトリマ)かな?でも大移動とは言っても、時期が早すぎるよね…)


大砂海には乾季と雨季がある。砂漠の高地に住むものはともかく、巨獣や低地に住むものたちは雨季が来ると住む場所を移動させるのだ。それを大砂海に住む者たちは大移動と呼んでいる。

しかしまだ、砂漠に雨季は訪れていない。現に列車が走行しているのだから当たり前なのだが。


「ドウカシマシタカ?お嬢」


オブニはめざとく考え込んでいるシアを見つけ、ぴこぴこと忙しなく動きながら声をかけた。シアは地図を見て唸りながら返答した。


「うーん巨獣の大まかな種類くらいはわからないかなーと思って。沢山点があるってことは巨獣は群体みたいだし、この時期はまだギリギリ乾季だから、砂トビウオなんかの魚類系の巨獣じゃないと思う。そうなると猛牛(タウロス)怪鳥(ディアトリマ)になるのかな〜とか…時期としては早いけど、この辺で大移動が始まってるならそうかなって」


「飛行型ノ巨獣ノ可能性ハ?モシクハ、巨獣デハナイデスガ、狂竜ノ可能性ナド」

「飛行タイプは砂嵐に弱いから、今の状況だと考えにくいよね。あと竜は群れないからナシかな」

「飛行タイプは砂嵐に弱いのか…となると、地上タイプということですか」

「うん。あと一番最悪なのは大暴走(スタンピード)だけど、それはこの前砂の人(ダークエルフ)と巨獣狩りが大規模な狩りをしたって毎年恒例のニュースになってたから違うと思う…ってアレ?」


途中からオブニではない声にも生返事をしていたことに気がつき、シアは冷や汗をかいた。顔を上げると、周りの3人は難しい顔で地図を覗き込んでいた。


「シア様は砂漠の巨獣にお詳しいのですか?」


ディヨンが訝しげにたずねた。シアは焦って首を横に振った。

「いいえ詳しいわけでは!私は大砂海中央の出身なので、常識としてちょっと知ってるだけで……そうだ!他の中央出身のお客さんにもお話を聞いてみるべきかと」

「なるほど…もちろんデータでは調べますが、私はこの辺りは仕事で通るだけですので、現地の方の証言はとても参考になります」


ディヨンは納得したようだった。残りの面々も頷いた。 


「確かにそうですね。こちらで生活している方々ならではの気づきがあるかもしれないな」

「巨獣がだいたいでも特定できれば、対策も考えやすいし!」

「我々は皆が大砂海出身というわけではない。地元民の方がわかることもあるだろう。餅は餅屋だ」

先生も老眼鏡を拭きながらぶつぶつと同意した。


「なら私が聞いてきます!」

シアは顔を輝かせ、ここぞとばかりに立候補した。この機会を逃せば、また何もやることなしでずっと座り続けることになる。

ここから離れたいという彼女の気持ちを薄々察していたキラは苦笑しつつ

「ではお願いします」

と頼んだ。


結局オブニはシアと離れても活動は可能なようで、不満げに周囲の分析を行っていた。肝心のシアはというと、守備よく同じ出身の乗客に話を聞くことができ、意気揚々と本部に戻って来た。


「皆さんの意見、集めてきました」

「ありがとうございます」

「はい。それで巨獣候補なんですが、オブニ。画像は出せたりする?」

メモした内容を見ながらシアは聞いた。

「可能デス」

「ありがと。この辺りのお客さんたちによると、やっぱり群れで行動するなら、猛牛(タウロス)じゃないかという意見が多かったです。あとは、砂サソリと鼻長獣(マンモス)の可能性もあるんじゃないかって言ってる方もいらっしゃいました」

 

オブニは空中のウィンドウにこれら3種の画像を表示した。どの巨獣も優に3mを超える体躯を持っている。それぞれ猛牛(タウロス)は牛型、砂サソリはその名の通り大きな蠍、鼻長獣(マンモス)は象型である。この中で特に砂サソリは毒を持ち危険性が高いが、他の候補たちは普段であれば刺激しなければそれほど害のない巨獣でもある。しかし、大移動で刺激されているとすればそれも望み薄だろう。

先ほどシアが挙げていた怪鳥(ディアトリマ)は却下された。シアは知らなかったが、この近くの怪鳥(ディアトリマ)は群れを作る習性はないそうで、乗客が首を振っていた。


「コレラノ巨獣はドレモ砂漠地帯デよく見ラレルモノデス。炎ト土にヨル攻撃ニハ耐性ガアリマスガ、反面水ヤ氷、雷ニハ弱イ傾向ニアリマス」

「物理攻撃は効く?」

アリアが尋ねた。

オブニは首肯した。

「打撃ニハ強イデス。しかし斬撃は比較的通用スルヨウデスヨ」

「良かった〜!僕、まだ魔術は使えないから物理攻撃が通らなかったらマジで役立たずになるとこだったよ」


オブニが他にもすらすらと巨獣の弱点について述べた。対策本部チームは真剣な顔で情報を頭に入れている。

アリアは安堵のため息をつき、シアはフレイがオブニに巨獣図鑑を学習させていて良かったと思った。

ディヨンは少し考え込んだ後、腹を括った様子で本部の面々を見渡した。


「列車付属の砲門による攻撃はこれらに対応可能ですが、念のため私も出ます。運転士の護衛に一人、その他の列車内部の護衛に一人魔術師の部下をつけるので、私ディヨン、キラ様、アリア様の3人でできるだけ寄ってくる巨獣を追い払い、その間先生に防御結界(バリア)の展開と維持をお願いします。」

「「了解!」」


ハキハキと返事をするキラとアリアに反して


「あまり期待はするな!私は学者だし、||結界《バリアだって結局は列車の既存のシステムを流用して強化しとるだけだからな」


先生は苦虫を噛み潰したような顔で告げた。

そして

「私たちはどうしましょうか」

とおずおずと手を挙げたシアの方を見て、

「そこの小娘と機械頭は私の手伝いだ!機械頭は計算、小娘は雑用をしろ。本やら杖やらをこちらに運ぶことになるからな」


と勝手に命令すると、自分の荷物を取りに忙しなく部屋を出ていった。シアとオブニは顔を見合わせると、急いで彼の後を追った。



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