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少女大陸周遊記  作者: Tanaka葵
第2章
11/23

10話 環状墓所群バシュ

今回は短めです。

環状墓所群バシュに着いてからまずシアがしたことと言えば、看護師にたっぷり体力回復の不味い薬湯を飲まされたことと、病院を出た足で買った切符を払い戻したことだった。

臨時列車はもうすでに出発したと聞いた。そして途中で下車してしまったのだから、同じ列車には乗れないのだし、そもそも大量の巨獣と砂クジラの遺骸をなんとかしないことには次の列車もしばらく来ないと会社側のアナウンスでわかっていたからだ。


しかも事故の補償ということで、乗っていた列車の運営会社であるスチルベル社からかなりの補填が出たので、シアはそれを元手に列車が来るまで観光することにしたのだった。



───そして現在。


「うそだ…」

「嘘デハアリマセン」

「そんな…」


シアは悲痛な顔で崩れ落ちていた。そのへんの路上で。周りの人々が不審なものを見る目でシアのそばを通り過ぎる。

シアは震える声で呟いた。


「財布…落としちゃった」


そう。正確に言えば落としたのではなく盗られたのだが、シアはそのことに気がついていない。完全におのぼりさん状態が見え見えのシアはスリにとって格好のカモだったようで、ものの見事に財布をスラれていた。


褒賞は駅で故郷の星軌都市に発送するように指定したし、財布に現金以外のものは何も入っていないとはいえ、ショックは大きかった。


「こんな、こんなことって…」


シアは悲痛な顔でこんなことになるまでに買っていた砂トカゲの串焼きを食べた。バシュのご当地食で、脂が滴り落ちて独特のタレが効いている。とても美味しい。

オブニは呆れたように体を回転させながら述べた。


「観光地ナノデ気ヲつけるヨウ再三申シタと思いますが」

「ごめん…」

「ダカラ弊機ガ持チマショウカッて言ッタンデスヨ」

「返す言葉もないよ…」


しおしおの顔でシアは観光協会の案内所に向かった。バシュは観光業が盛んな街である。届け物が運良く届く可能性もあった。とりあえずシアたちは一縷の望みをかけて窓口を訪ねた。


しかし、係のお兄さんは快活な笑顔でシアの訴えに応じてくれたものの、結局財布は見つからなかった。(盗られているのだから当然なのだが)。


バシュにはシアたちがお金を預けている銀行はなかったので、お金を引き出すこともできない。しかも貰ったお金はすでに配送に出している。つまりシアたちは唐突に資金難に陥ったわけである。


「財布が…ない!!!つまりお金がない!!魔力も使い果たしてすっからかんだから、魔力払いも出来ない…!私はバカだ……」


金もない上、昨日結界(バリア)に魔力を回しすぎたせいで、シアの魔力は底をついていた。魔力量に自信のあったシアだが、列車を守るとなると流石に尋常ではない魔力を要求される。回復には暫くかかりそうだ。


絶体絶命のピンチにシアは顔を真っ青にした。

係のお兄さんはそんな2人があまりにも哀れに見えたのかアドバイスをくれた。


「えーと、もしかして、旅費ごと落としちゃったとか…?」

「は゛い゛」 

シアは渋い声で返事をした。


「あちゃーなるほど…とりあえず遺失届は出しときます」

「ありがとうございます」


お兄さんは書類に必要項目を書き込むと、自分の頭をわしゃわしゃと掻いて迷いつつも周りを窺ってから小声でひそひそ囁いた。


「それで〜…よろしければ、あちらの幟の方にですね、」

「幟…ですか」


お兄さんが指差した先には新しそうな見た目の小さな建物と、暇そうに幟の横にぼーっと立っている旅人族らしき女性がいた。白い幟には大きな字で『探索者組合』と書いてあった。


「はい、あの女性に相談されることをオススメします。」

「アノ人ニ?」


訝しげにオブニは聞き返した。何かの冗談だと思ったのだ。 

しかし、係員は至極真面目な顔だ。


「そうです」 

「探索者組合って書いてる、あの?」

「ええ、はい」


女性は誰にも見られていないと思っているのか、大きなあくびをしている。

苦々しい顔で受付係は頷いた。もしかすると知り合いなのかもしれない。


(なんか暇そうだな…)


その女性を見て、シアは若干の不安を覚えた。今後が懸かっているというのに本当に信用していいモノだろうか。

係員はその気配を敏感に感じ取り、慌てて


「怪しい組織とかじゃないですよ!探索者組合は、軽めの依頼なんかが受けられるところで…働いてもいいなら旅費分くらいなら稼げますし、とにかく詳しくは彼女に聞いてください!こちらでも財布の届け物がないか見ておきますから」


と弁解した。

シアは探索者組合がなんであるのかよくわかっていなかったが、まあ曲がりなりにも都市公式の観光協会の人間が、怪しい所に人を案内するはずもないか、と考えた。


(これって大丈夫なの?)

(恐ラクは)


オブニもそれ以上特に何も言っていないので、嘘ではないのだろう。

旅行先で旅費を稼ぐというのもなかなか虚しい話だが、背に腹は変えられなかった。


「あの、ありがとうございました」

「いえいえ、良い滞在を!」


シアは係員にペコリと礼をすると、その女性の方に向かっていった。


紹介された女性は艶やかな黒髪と軽装鎧を纏った美女だったが、明らかにやる気がないことが透けて見えて逆に面白いほどだった。本来は呼び込みなどをすべきなのだろうが、目の前を通る人々に対して特に何もしないでつっ立っている。


さらに2人が近づいて件の幟をよく見ると槍に無理矢理布をくっつけたものだとわかり、シアは元々抱いていた不安が倍増するのを感じた。 


(ほんとに大丈夫かな…)


往来を行き交う人々を避けて、


「すみません…」


おずおずとシアが声をかけると、その女性は眠そうな目をかっぴらいてシアの肩を強く掴んだ。


「ウッソ!!!もしかして会員志望の子?!」


シアは困惑した。

「え?会員?えっと観光協会の方に教えていただいて、お金を稼がないといけないんですけど…」


(なんか言い方ちょっと良くないな…)


そう思いつつシアは元来た方を振り返って、経緯を説明した。さっきの係員は感情の読めないアルカイックスマイルで遠くからこちらを見ている。


女性はそちらとこちらを何度も見ると、ぶんぶんと首を縦に振って頷いた。


「そう、そう!あってる!!お金ね、もちろん稼げるよ〜〜!!!」

「でも、会員?にならないといけないんですよね?」


オブニも警戒しながら、2人の間に入った。

「アヤシイ仕事ハ駄目デスヨ」

女性はぶんぶん首を振って、

「そんなヤバい仕事ないから大丈夫!しかも今なら入会金無料!話だけでも!どう?!」


明らかに怪しい商売の手口のような勧誘にシアの口は引き攣ったが、女性の圧は強かった。とうとうシアは断りきれずにこくりと頷いた。


「とりあえずお話だけ…」

「そうこなくっちゃ!」


女性はぶつぶつと

「やるじゃないアキ、いつもそれくらい親切にしなさいっての」


と1人で呟いて、幟を地面から引っこ抜くと、花が咲くような満面の笑みでシアとオブニを建物の中へと案内した。


次回:「11話 探索者組合」掲載予定

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