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兄さんは強いんです

 サッと光が射しこむと同時に、ひとりの人物が降りてきて、剣を一閃!

 魔王を縦に真っ二つに切り裂く!


「シロナ!」

「兄さん!」


 もちろんそれは兄で、魔王を一刀両断した兄は、そのまま私を抱き締めた。

 ギュウギュウと縋りついてくる。


「シロナ! シロナ! シロナ!」

「はいはい、兄さん、私は無事よ」

「シロナ!! 会いたかった!」

「私もよ……兄さん!」


 感動の再会なのだが、兄が号泣しているものだから、なんとなく締まらない。

 涙と鼻水で、せっかくのイケメンが台無しだ。


 それでも、私の目には涙が滲んだ。

 兄の胸に縋りつく。





「…………なるほど。それが此度の勇者か」

 その感激に水をさしたのは、真っ二つにされたはずの魔王の声だった。

 見れば、兄の肩越しに、何事もなかったかのように魔王が立っている。


 ……まあ、あれくらいで、魔王が死ぬわけないわよね?


 ある程度予想はしていたのだけど、やっぱり魔王は強い。

 兄は、私を抱き締めたまま、視線も向けずに背後で剣を振り切った!

 今度は、魔王は上下二つに切り裂かれる。


 ――――ところが、見る見るうちに魔王の傷は塞がり、元通りになった。

 どうやら魔王は、普通に切ったくらいでは、痛くも痒くもないらしい。


「たしかに、強いな」


 魔王は、感心したようにそう言った。

 ノーダメージの奴に言われても、なんだかなぁと思ってしまう。


「それに、呆れるほどの執着だ……いささか、面白くない」


 続く魔王の声は、不満そう。

 ここで、はじめて兄が魔王を見た。



「黙れ! シロナを見るな! 話しかけるな! 近寄るな! ……この場から、サッサと出ていけ!」



 まるで、威嚇する獣である。


「出て行けと言われても、ここは私の城なのだが」

「どこであろうと、そこにシロナがいる限り、その場の(あるじ)はシロナだ! 他なんて認めない!」


 いやいや、それは違うわよ、兄さん!

 慌てて否定しようとするのだが、その前に魔王が「フム」と頷いた。


「その意見には、同意してもいいのだが……主が彼女なのだとすれば、私がお前の言葉に従う必要は、ないな?」


 ……は?

 ……同意するの?


「僕が、一番シロナのことをわかっている!」

「それはお前の主張であって、事実かどうかはわからない」

「きさま!」


 兄は、魔王へ振り向きざま、剣を叩きつけた!

 今度は、魔王も剣を取り出し、ガッシ! と受け止める。


「……フム。重いが、この程度か」

「その口、叩切ってやる!」


 兄と魔王は、超高速で剣を交わしはじめた。

 二人の姿は見えないが、キン! キン! ガシッ! と、音だけが周囲に響き渡り、重なり合う。



 ……へぇ~、兄と互角に渡り合っているのね。


 私は、少し感心する。

 魔王は、名実備わった魔王であったらしい。


 ――――とはいえ、勝つのは兄だ。

 二人の戦いの邪魔にならないよう、壁際に下がりながら、私は疑いもせずにそう思う。


 たしかに魔王は強いけど、兄には敵わない。


 身びいきでもなんでもなく、ただ事実だ。


 伊達に十五年、兄の妹をやってきたわけじゃない。


 兄の強さは、誰より私が知っている。


 だから――――。




「……兄さん、私そろそろ帰りたいな」


 私は、ポツリとそう呟いた。

 兄は、この場に来ているけれど、アレンさんたちがどうなっているのか心配なのだ。

 きっと兄のことだから、彼らを置き去りにして走ってきたに決まっている。

 今のアレンさんたちの実力なら、魔獣の群れのど真ん中に放り出されても、全然心配ないとは思うけど……それでも早く合流してあげたいのが心情。

 なにより、彼らも私を心配していると思うから。



「――――わかった」



 兄の返事が聞こえた。

 途端、爆発したかのように膨れ上がる兄の覇気!


「……これは?」


 驚いたみたいな魔王の声が耳に届いた。


 次の瞬間、ドン! と空気が破裂する!


 私の周り半径一メートルを除き、そこにあったすべてが、崩れ吹き飛んでいた。

 壁も、床も、天井も、壊れて転がっていた置物たちも、みんな、みんな、みんなだ。



 ……残ったのは、兄と左胸の辺りから腕一本千切れ失せている魔王だけ。



 見渡せば、そこは荒野で、草木一本生えていなかった。


「兄さんったら、やりすぎよ」


 この場の元の姿がどうだったのかは知らないが、これほどなにもない荒野ではなかっただろう。


「ごめん。……だって、これくらいしないと、こいつを倒せなかったから」


 兄は、どこか悔しそうにそう言った。


 ……まあ、それもそっか。腐っても魔王なんだものね。

 魔王は、明らかに致命傷を負っているけれど、吹き飛んではいなかった。

 それに、膝をつくこともなく立ったまま。


 つまりは、このくらいの威力でなければ倒せなかったということだ。




「じゃあ、仕方ないわね」


「…………ひどいな。仕方ないで済ませるのか」


 私の言葉に反応したのは、死にかけの魔王だった。

 すごい、まだ普通に話せるのね。


「あなたが強すぎるのが、悪いんです」

「勇者は、私以上に強いのに?」

「……スゴいでしょう? 私の兄なんですよ」


 私は、胸を張って自慢した。


 魔王は……笑おうとして、ゴホッとむせる。

 美しい唇の端から血がこぼれ落ち、形のよい顎を伝って落ちた。


「そうだな――――たしかに、強い。お前が兄を特別扱いするのも頷ける強さだ」


 どうやら、兄の強さを魔王に理解してもらえたらしい。


 兄は特別なのだ。

 魔王などと一緒にしてもらっては困る。




「……羨ましいな。私もお前の特別になりたい」


 死に瀕しているはずの魔王が、そんなことを言いだした。


「え?」

「きさま! ……今すぐ死ね!」


 兄が、魔王にとどめを刺すべく、剣を振り上げる。


 魔王は、フッと笑った。

 その体が、キラキラと輝きはじめる。




「――――え?」




 兄が剣を振り下ろすのと、魔王の体から、カッ! と光が弾けるのが同時だった。


 兄の剣は空を切り、魔王の姿は消え失せる。




 ……魔王、どこ行った?


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