勇者の狂愛(クリス視点)
シロナが消えた。
僕は、すぐにそれがわかった。
だってシロナは僕のすべてだから。
気配が消えれば、世界が変わる。
僕にとっては、それくらいの変化だ。
即座に立ち止まり、シロナの気配を探る。
同時に、周囲に満ちていたイラナイモノを、すべて消し去った。
生きているモノも、死んでいたモノも、動物も、植物も、一部の例外を除いてすべてをきれいさっぱり塵と化す。
これでシロナの気配がたどりやすくなった。
「……あっちか」
呟き、走りだそうとする。
しかし――――。
「ま、待て、クリス!」
声が聞こえた。
僕の邪魔をしたのは、先ほど消さなかった一部の例外――――ここまで一緒に旅してきた『騎士』と『聖女』と『戦士』だ。
……やっぱり一緒に消してしまえばよかったかな?
いや、そんなことをしたらシロナに叱られる。
なにはなくても、シロナに嫌われることだけは、避けたい。
「シロナさんを探すんだろう? 私たちも行く!」
大胆にも僕を呼び止めたアレンが、さらに大胆なことを言った。
命知らずだな。
怒った僕が彼を殺すとは思わないのだろうか?
……思わないのだろうな。
だってこいつは、僕がシロナを愛していることと、それゆえにシロナの嫌がることをしないことを知っている。
「――――邪魔だ」
だから僕は、僕としては精一杯の思いやりをこめて答えてやった。
大切なシロナを探しに行くのに、こんな足手まといを連れていくはずがないだろう?
「み、みんなで探せば、早く見つかるはずよ!」
今度の命知らずは、バルバラだ。
僕は、ほんの僅かだが驚嘆する。
目に映るすべてを消去させたこの現状を見て、まだそんなことが言えるんだな。
これもシロナの教育の賜だろう。
「僕に協力したいのなら、今すぐこの場から立ち去れ」
それが、唯一彼らにできることだ。
これから僕は、シロナの気配を探り、彼女がいないとわかった場所に在るモノすべてを消し去りながら進むのだ。
こいつらがいなければ、余計な気をつかうことなく思う存分力をふるえる。
「俺たちだって嬢ちゃんが心配なんだ! 手伝わせてくれ」
だから手伝いたいのなら、さっさと消え失せろと言っているのに。
……やっぱり消してしまおうかな?
いや、今はその手間さえも惜しい。
むしろこの状態で、彼らとこんなに長く話しただけでも、僕にとっては異常なことだ。
ここにシロナがいたら、きっと褒めてくれるのに。
それとも怒るかな?
どっちにしろ、僕にはシロナが必要だ。
僕は、彼らに一瞥をくれることもなく走りだした。
――――シロナ、待っていて。今お兄ちゃんが助けてあげるから。