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残火

あのころ私は未熟だった。いや、今でも私は先生に遠く及ばない。一応、筆頭宮廷魔術師を勤め上げ、現在は王立魔導大学院と王立防衛大学校の特任教授を兼任している。魔術師としては位人臣を極めたと言えるだろう。事実、魔術師でこのジョン=ホワイトを知らぬ者はないし、私の二つ名である【白煙】は敵国の子供たちだって知っているだろう。


 平和だ。実に平和だ。大陸統一軍による暴虐が吹き荒れた時代は終わった。対岸の我が国さえ戦火に巻き込んだ大戦争と言っていいだろう。人が大勢死んだ。多くの街が灰燼となった。多くの文化的遺産が失われた。

しかし、あの頃を懐かしんでしまうのは軍人の性というものだろうか。あるいは私も火の魔術師の因果に囚われているのかもしれない。我々は総じて血気盛んな節がある。

「いかんな。これでは、私も今の若者をなじる資格がない。」


 眼下には運動場があり、寒空の下を士官候補生たちが走りこんでいる。戦争を知らない世代。戦史、戦訓でだけ戦争を知っている子たちだ。

 平和は素敵だ。しかし、我々まで平和ボケしてはいかん。皮肉なことに、先の大戦で、議会も財務卿も平和が安く上がると信じてしまった。精強なる我が王立陸軍は数倍の敵をも打ち破ると信じてしまった。そして嘆かわしいことにわが軍の将校らでさえ、予算折衝の場ではともかくとして、我らが精強だと信じてやまない。


 もっとも、私が500倍の敵を降伏させたり、千倍の敵を撃破したり、1日で100㎞前線を押し上げたり、と一見それらしい実績を作ってしまったので、責任の一端は私にもあるのだろう。当時の軍広報が、「誇大喧伝にもほどがあるので100倍の敵を破ったってことにしておきますね。」と矮小化していたくらいだ。当時の私は憤っていたが、今では感謝しかない。今よりも予算が削減されていた可能性さえある。


 先生の教えは正しかった。我々は少し勝ち過ぎた。平和ボケの代償はいつだって戦争なのである。そして次の戦争に、おそらく私はもういないのだ。

先生の教えをわが軍に、わが国に広めなければならない。


 私は不義理で不出来な弟子だったと思う。先生に棺を用意できなかった。しかし、老境に至って思うのは、我々火の魔術師に棺など要らないということだ。重要なのは「火継ぎ」である。先生から受け継いだ火の魔道を、そのすべてを次の世代に託すのだ。


 パチリと音が鳴った。音がした暖炉を見やると薪は尽きかけていた。

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