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髭よ髪へ  作者: トッピオ
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黄金龍の影

なんの構想もなく始めました。

仕事が忙しいので不定期で更新したいと思います。

次は部屋に無いはずのものが見つかり記憶の相違にきづくとこまで

朝起きたら、髭がなくなっていた――。

異常な事態だ。慌てるほどのことじゃないと思うかもしれないが恐ろしい何かに巻き込まれているのは間違いない。なるべく細かく覚えていることを書き出して、整理する必要がある。


今朝は6時に起きた。遅くまで悩み事をしていたせいで4時間ほどしか眠れなかったのとクリスマスが迫って仕事の忙しさが佳境に迫ってきた影響で、昨日は布団に入ってすぐに寝付けた。普段はバイトの時間ギリギリの10時まで寝ているから、かなりの早起きだ。こういう日はなんだか得した気分で気分がいい。イイ!なんだか妙なテンションになって調子に乗って朝ご飯を作ってみようと布団を出た。だが布団の隙間から入り込む冷気からすでに察してはいたが、部屋は今年始めての本格的な寒さになっていた。俺は冷蔵庫に押し込まれた冷蔵ご飯を手に取り、レンジで3分温め椅子に掛けてあった上着を羽織りのそのそとベッドに向かった。トレーと皿と海苔を用意しご飯を乗せる。海苔と御飯があれば今は十分だ。

バイト先のレストランで賄いが出るから、それで栄養を取ればいい...どうせ朝ごはんなんか普段から食べていないのだから関係ない。不摂生が板についている、そんな感じだ。こんな生活ももうそろそろ二年目に差し掛かっていた。

食事はいつも勉三さんスタイルでこたつはないが布団をかぶって頭の位置に立てかけたモニターを見ながら行う。ずぼら症はさらに年季が入っていてベッドに穴まであけて作った夢のパーソナルスペースは人に見せたら呆れられるそうで少し怖い。土曜の朝PCを付けて過ごすことは滅多にないので、今日は珍しいことが起こった。

友人がログイン状態に気付いて通話をかけてきた。このあとは寝ない程度にウトウトするつもりだったのに…。

一時間ほど付き合って彼が用事があると出かけて行った時には、すでに9時9分辺りになっていた。

そのあとのことは…よく覚えていない。前後の出来事が印象に強く残りすぎているのか、とにかく気付いた時には10時28分。完全に遅刻だ。

本来なら気付いた時点ですぐに店に連絡すべきだが、俺はそうはしなかった。簡潔に書くと希望通りにいかないシフトに会話もろくにできない上司、勝手に休む同僚のアルバイトたちに振り回されて自分のやりたいことができない苛立ちやら焦燥感が限界に達してきたこの頃、条件が合わないなら別の仕事をと始めた次の職場探しにめどが立ってしまったのがつい先日。加えてワザとではないが今から遅刻するという状況が重なり、ついに頑張ろうという意思がくじかれてしまった。人はなにか言い訳を探して生きているものだ。かっこわるい話だが、二度寝を始めた俺が考えていたのは遅刻の理由ではなく辞める言い訳だった。こういうのを病んでるというのだろうか。



あきらめの境地――。まあ午後からは出ないわけにはいかないので行くが、今は開き直って横になっていたい。

まあもう怒られることは確定だから、電話がかかってきた段になったらそれに出て今起きた体で家を出発することにするかな...。

布団をかぶってひきこもことにした。足を畳んでうずくまる。自分のクズさ加減に気付かない振りができるのは、こういうときだけだ...。



慌てる気持ちはそこまでなく嫌な汗もかいていない。だがやけに寝苦しい。薄目で窓の隙間から差し込む光を覗き込む。気温が上がっているようだ。今朝着た上着を脱ぎたいが何もしたくない。そうか。うとうとしていた9時ごろから急に気温が上がってきて気持ちよくなって寝てしまったのか。

ひたすら自分の身の振り方について考えた。もう時計は見ていない。さっそくあのチラシの求人に連絡しようか。今日のディナーは混むから行かないわけにいかない……。出かけるなら支度をしないと――。


出来ればシャワーを浴びて、ゆっくり髭をそりたかった…そう思い顎に手を伸ばし、違和感を覚えた。

髭がない――? いや、そんなはずなかったような...最後に剃ったのは木曜日の昼、バイトにいく直前だ。少なくとも昨日は絶対剃ってない。俺はズボラだが人目は人一倍気になる方だ。開き直って剃らなかったりマスクで隠したりはするがそれは完全に無頓着というわけでもないのだ。こういうことは忘れない。

仕事に行かなければいけなくなるのを恐れて、寝返りをうつことすらためらっていた男がどうやら現実に引き戻されたようだ。きっかけは、目の前で起こった非現実だった。

つるつるだ――。何故?久しく感じていなかったこの感覚、唇の延長といってもいいほどの滑らかな感触、これが異世界転生か...?そんなわけないか。髭がないのは確かなようだがここまでくると誰でも冷静になるだろう。冗談の一つも頭をよぎるってものだ。信じられないが、記憶違いに違いない。きっと昨日剃ったんだ、そうだ、今朝もしかすると寝ぼけて剃ったかもしれない。なんせ絶賛仕事をバックレ中だからな。その動揺で記憶が定かじゃないのだとしたら、今の俺にはどうすることもできない気がする。

心身のダルさ加減を計って布団を出る決心をした。鏡でよくみてみたい…。それにしても、この程度のダルさでよくサボれたもんだ。まあ職場自体に不満があることを言い訳にしたばかりだが、それにしたってもう少し頑張れただろう。罪悪感は消えないが髭は消えるんだな。今はこの非現実と向き合っていたい…。


髭は嫌いだ。青髭が少しでも残ると嫌気がさす。おまけに俺は薄毛なので、いつも髭やムダ毛が全部頭に行ってくれないかと妄想していた。全身の毛の中で一番濃いのが髭なのでこいつが一番憎たらしい。腕とか足はそうでもない。多分剃刀のせいなんだろう。

鏡が見れない。醜形恐怖症というやつがあるらしいが俺も昔はそんな感じだった。今はそうでもないがたまに意を決するまで鏡の前で立ち尽くしてしまうこともある。そうだ、始めは周りより早くムダ毛が生えてきたことが恥ずかしくて、風呂場の鏡に泡をつけないと全裸になれなかったんだ。まあそれも、高校生になって周りに背も内面も成長が追いつかれてからは自分より毛深いやつなんてざらに現れてきてどうでもよくなったんだけど…とふと自分の右手に目をやって驚いた。腕の毛もないじゃないか!

今度は迷ったりしない。眼の前の鏡を覗き込んで眉毛を確認した。ある。足の毛は?右足を持ち上げて近視の顔に近づけてよく見てみた。足の指の毛がない。ズボンの裾をめくりあげてみるがすね毛もない。

もう一度顔をよく見てみる。たまにT字カッターで揃えるだけの不細工な眉毛はいつもと変わりないように見える。よくみるとまつげもある。そういえば今確認したが耳の毛もないような気がする。要するに今の俺はムダ毛だけが無いのだ。もちろんあそこの毛も。この年になっても未だに怖くて見れなかったケツの毛もだ。あいつのことは、撫でてやることしかできなかったな…綺麗サッパリなくなっている。

おかしいだろこれは。異常な事態に頭が追いつこうと、まず恐ろしい考えが頭をよぎる。誰かが寝ている間に侵入した?

確かに最近クレジットカードを不正利用されたばかりだし、仕事でほとんど日中にいない賃貸物件の住人相手なら合鍵の一つや二つ勝手に作れるのかもしれない…のか?少なくとも用心深い人物とは言えないだろう。だが、そもそもなんのために?

自分の頭がおかしくなったとかそういう別の可能性は思いつかなかった。代わりに俺はより飛躍した発想に取り憑かれた。キャトルミューティレーションされたんじゃ…?

もしや…ためしに鏡の前で自分の恥ずかしい部分の一つをかき分けてみる。額の生え際だ。ここ数年で随分後退して、指二本分程おでこが広がってしまったので正直見たくもないのだが、直感が見ろと告げたのだ。

あった。みじかくて密度の狭いだが黒黒とした毛が、いわば干潟のようなもと生え際…というと余計分かりづらいか。もうこの際なんでもいいが昨日まで額だった筈の場所に生えている。明らかにトップ側の毛髪とは文字通り毛色が違う。比べたことはなかったが、やはり薄毛になった俺の頭髪より、ひげのほうが太かったんだな…よく探してみたが腕の毛や足の指の毛のような細くて長い毛は見当たらない。

これは絶対に、俺の仕業じゃない…。


部屋は散らかり放題で、正直誰かが入ったかどうかなんて自分では判別が付きそうもない。洗濯物はドアにかけっぱなしだし、着替えは棚に積み上げられて明日着る服だけ玄関前に置いてある。ベッドと着替え以外には殆ど気を配らない毎日を送っているせいで自分の部屋の状態が思い出せない。なんだかこの冴えわたった頭なら、今すぐ仕事にも行けそうな気がする…俺は現実逃避も兼ねて、PCで考えをしたためることにした…。小説になろうの会員登録はとても簡単だった…。俺はすぐに執筆を始めた。



なぜ俺がキャトルミューティレーションだと思ったのか?なぜだろう…今となっては説明は難しいが単なる直感というわけでもなかった気がする。当てずっぽうの勘に頼ることもままあるが今回は確かな違和感を感じた。そう、なにかの違和感を予兆として読み取ってそれを精査することで自分の感覚を確かめる。そうやって他人に説明できる感覚が直感と呼ばれるものだと思う。人は思ったより物事にいちいち立ち止まって考えない。結構多くを断定して生きているものだ。どう捉えていいかわからない感覚というものは確かにあるが全てじゃない。そう、今は立ち止まって考えるときだ…バイトにも行きたくないし。因みに俺はそういう自己分析能力や他者への共感性に優れた人物だと自分では解釈している。まあ仕事はできないが。とにかく、今回は予兆となる違和感が山ほどあった。

…はずだと思ったがそうでもないな。人が押し入ったなら一目見ればわかるだろう?少なくとも髭がないという痕跡ははっきり残っている。整理してもしきれないほどになければおかしいはずの痕跡が殆どないのはなぜだ? …そうか。恐ろしい想像を駆り立てるには充分すぎる状況に、無意識に気づいていたんだ。普通に起きて普通に遅刻した。なのに髭だけがない。恐ろしさの正体はこの違和感だ。


仕事が完了しそうになると、終わってもいないのに一息つきたがるのはどうしてだろう。…いや、それは大仕事だったときだけな気がする。階下の大荷物を運び上げるくらいの小さな仕事では、いちいち足を止めたり襟を直したりなんかしない。きっと今日の出来事は、俺にとって大きな出来事だったってことだろう…。少し余裕が出てきたのでもう少し具体的に整理しよう。ついでに風呂に入ってしまおう…。もう今日は行かなくていいや…。なまじ忙しくて頼りにされている分、クビにされないのがわかっているので今回のことは心苦しい...。


最初の疑問は、これを誰かがやったことなら、そもそもどうして勝手に髭を頭髪として移植した?隠れてやるようなこととは思えない、ということだ。

そんなことができるならむしろ感謝される行為のはずだ。同意もなくやる必要があるとすれば手段が真っ当ではないということ、つまり美容外科クリニックなんかがやるような地道な手作業による植毛施術とは異なる、なにか思いもよらない飛躍的な手段ーー。宇宙人の技術とか政府のなんらかの秘密の研究の副次効果とかそういう可能性に思い至ったわけだ。まあ突拍子もないとは思うが改めて起こった事を整理して考えてみても例えばキャトルミューティレーションのような大きな力と普通には思いつかないような思惑があった可能性がぬぐえない。

今初めて思いついたが、これが自然に起こった現象だとは考えられないだろうか?いや、部屋に誰かが入った可能性に比べたら、脅威度が高いとは考えづらい…何が起こったか確かめるには、まず他の異変を探すことだ。だいたい、これが自然現象だったのなら、妄想が実現するなんていうありえないことが起こったってことだ。俺はオカルト小説を書き始めたんじゃない。これはきっと危険で謎めいたミステリーに違いないんだ。

部屋の探索を始める…。








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