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17 秘密のオークション会場に潜入(アリア視点)



リユーが手に入れたオークションの紹介状をあっさりとミハエルが複製をした。


私とミハエルもオークション会場に向かう準備をする。

目立つ髪色を今回はかつらで豪奢なウエーブの金髪に。

いつもは着ないような肌の露出の多い、濃い緑の体の線に沿ったドレスに高いハイヒールの靴を履いた。


玄関に向かうと、ミハエルも金色の鬘をかぶりグロリアの貴族男性のように長い髪のかつらを紺色のリボンでまとめていた。


グロリアの貴族男性は細身である方が人気らしい。

ベルはミハエルよりも体つきが良いので少し浮いてしまうが、ミハエルであればぎりぎり大丈夫そうだった。

細身に見える服でさらに体を細く見せるようにしていた。



今回のために急いで準備した真っ黒の塗装の馬車

もちろん家紋はつけていない。

その馬車に二人で乗り込む。


「こんな機会で初めてアリアをエスコートするのは残念だ……」


その言葉に思わず嬉しさがこみ上げる。


「私はこんな機会でも堂々とミハエルにエスコートしてもらえるのは嬉しいわ」



クォーツの社交ではミハエルにエスコートしてもらえない。

婚約者でもない私は両親の仲が良いという理由だけで、子爵家のミハエルにエスコートしてもらうことはいらぬ問題を生む。


お父様もお母様も私がミハエルを好きなことは知っているから気にはしていないようだけれど……。



「いつか必ずアリアを堂々とエスコートできるようにするから……」



私に聞こえないように、ぼそりとつぶやいたミハエルの声は私にはしっかりと聞こえた。

私は聞こえなかったふりをして、窓の外を見るふりをして赤くなった顔を隠した。



「今回の俺たちの設定をさらっておくか」


ミハエルが気を取り直して私に話しかけ始める。


「そうね。私たちはクォーツから来た新興男爵家の若夫婦ね」


「そうだ。貿易で財を成した成金男爵家。

新しいものや希少なものに興味津々の妻になんでも買い与える夫。

妻は完璧な淑女というよりも娼婦のような雰囲気を醸し出している。

ってことだがアリア大丈夫か?」


「大丈夫に決まっているでしょ?

ミレッタおば様の弟子よ?

花街のクラブでも修行済みよ」


「なっ!!! いつの間に!! どこで!?」


「公爵家が裏で経営している花カラスのクラブに決まっているでしょ?

お客様の前には出ていないけれど、花カラスのお姉さまからも直接合格いただいているのよ」



お客様の前に出ていないことを伝えると、あからさまにほっとしたミハエルに微笑みがこぼれた。

私は足を妖艶に組み、ミハエルにしなだれかかりながら、指で彼の顎を撫でる。


「楽しみにしておいて……」

と言ってみた。


ミハエルは顔を真っ赤にしながら、私がしなだれかかっていない方の手で自分の目を覆い

「やりすぎだ……」とつぶやいた。


私はミハエルから離れて声を出して笑った。





目的の場所はどうやら、もともとは貴族か豪商の屋敷だった建物。


茶色のカラスの話だと数年前までは、ここも治安が良い場所だったらしい。

しかし最近は空き家が増え、見回りもなくなったことで治安も悪くなっているそうだ。



怪しげなその屋敷の周りには、貴族のお忍びの馬車が入れ替わり立ち代わり出入りしていた。


私たちの番になり、ミハエルの手を借りて馬車を降りる。

通常のエスコートではなく、ミハエルの腕に抱き着くようにして歩き始めた。


一瞬ミハエルが驚いたような仕草をしたが、すぐに気を取り直したのか歩き始めた。


入り口に用心棒と主催側の使用人と思われる人間が紹介状の確認をしている。

私たちも列に並び少し緊張しながら待っていると、ミハエルは堂々と「頼む」と紹介状を堂々と差し出す。



「なるほど。シモン・イルハ様のご紹介ですね。

今回初めてお越しのようで。楽しんでいってください。

ドラリスご夫妻様。

詳細はのちほど」



使用人は丁寧にお辞儀をして入場を促す。

内心ホッとしながらも「ありがとう」と妖艶に微笑みながらミハエルに着いて入場した。



会場では様々な貴族や豪商のような風体の人たちが入り乱れていた。

特に変装をするわけでもなく、堂々と本名を語っている貴族もいた。



通常のオークションと違い、色々な場所に商品が飾られ興味のある所へ自由に行けるようだ。

ちょっとした展示会のようだった。

一人の案内の男が私たちに近寄り話しかけてきた。



「ドラリス様、奥様。本日はようこそお越しいただきました。

初めてのご来場とのことですので、私がご案内とオークションの説明を担当させていただきます」


恭しく礼をする案内係に「頼む」と答えるミハエル。

私は「たのしみだわ~」とミハエルに微笑みながら腕に再度抱き着く。


「仲睦まじくて羨ましいです」


「えぇ妻があまりにも綺麗なもので、ついつい欲しがるものを与えてしまうんだ。

好奇心も旺盛で少女みたいだろう?」


惚気のように言うミハエルに「もう~」と頬を膨らましつつ声をかける。


「今日すごく楽しみにしていたんだから、意地悪言わないで」


甘えた声をだすと「ごめんよ」と言いながら額に口付けられた。

思わず素で赤くなってしまう。


それを見ていたずらが成功したような笑顔をミハエルが見せる。

それを見て私は素で自分の額を抑えながら「もう」と言った。



案内係の男はマイクと名乗った。

まぁどう考えても偽名だろうが。


「まずは女性のご興味を惹く宝石類のエリアにご案内しますね」


「まぁ宝石ですって!」


声をはずませてミハエルの腕に絡みつきながら案内係に着いていく。


「こちらになります」

と数種類の宝石がガラスケースに収まっている場所に案内された。

男女問わず、様々な客が感嘆の声を上げながら宝石を見ている。


「まぁ見て。これなんかロワールルビーよ!」


ロワールルビーは100年近く前に鉱山が閉山したため、現在出回っている分しかない。

そしてその質がかなり良く、真っ赤ではなく赤紫に見える。


「ほう。これは間違いなくロワールだね。

しかしカッティングが現代のものだ。かなり贅沢だね」


「おぉさすがでございます。

こちらは大粒のロワールルビーを現代のカッティング技術で再度、磨きなおしたものです」


「妻はたいそうお気に入りのようだ」


本物のロワールかどうか近づき見極める私を見ながらミハエルが言う。

私は本物だという合図になっている「かなり素敵だわ」とはしゃいだように言う。



「なるほど。ではこちらにしようか。

オークションの参加方法を教えてくれるかい?」


気前よくミハエルが購入意欲を見せる。

すると驚いたように案内係のマイクは目を丸くする。


「まだご入場から5分なのですが……すばらしい!」


思わずと言ったように喜びながら入札方法を教えてくれる。



「あちらの黒板をご覧ください。

番号が二つと金額が記入されております。

最初の番号は商品番号。次の番号がお客様の番号になります。

こちらのロワールルビーの番号はガラスケースに記載しております9番となります。

これからあちらの入札スペースに行っていただき、ドラリス様の番号をお渡しします。

そして入札金額をお伝えいただきます。

もし値段が上がり再度入札される場合はお声かけいただき、入札スペースに行っていただくことになります。

今ですとロワールルビーは85万ルーですね」



「では案内を頼む」



悩むふりは一切せず、即案内をしてもらうように言うミハエル。


正直、85万ルーも出して欲しいものではないが、情報のために今回は何かしら購入することになっていた。

ルビーは好きな宝石だし、あまり宝石を身に着けることはないが……。


ルビーであればということで決めることにした。

要は良い客であるというパフォーマンスだ。


案内係は驚きながらも私たちを丁寧に入札スペースに案内してくれる。

入札スペースはオークション会場と分厚いカーテンで仕切られており、案内係と三人だけになる。


「それではこちらがドラリス様の番号になります」


「7番か。分かった」


「ではこちらにご金額をご記入ください」


9-7と書かれた紙にためらいなくミハエルが金額を記入し案内係に手渡す。

渡された紙を受け取り確認した案内係のマイクは目を見開き驚いた。


「しょ……少々お待ちいただけますか!?」


「もちろんだ」「もちろんよ」

と私たちは余裕たっぷりに微笑みながらマイクを見送る。


思った以上にいい反応だったことに、内心ほくそ笑みながら優雅に足を組みミハエルにもたれかかる。



「うまくいきそうだな」「そうね」

とさりげなく小声でやり取りを交わす。



「ドラリス様お待たせいたしました。

今回のオークション責任者のローランでございます」



マイクと分厚いカーテンから入ってきたのは小太りの男だった。

内心で小物感がすごいと思いながらも妖艶な微笑みをする。


「あぁローラン殿、我々オークションが初めてだったので何か失礼でもしたのかな?」


「まぁ! あのロワールルビーが手に入らないの?」


悲しそうにミハエルにしなだれかかる。

苦笑を浮かべて私の頭を優しく撫でながらミハエルが言う。


「ごめんね。オークションについて勉強不足だったのかもしれない。

またどこか別のところで、君に似合う宝石を探すからそんな顔をしないでおくれ?」


『別のところ』というミハエルの発言に小物感満載のローランドは、額に浮かんだ汗をハンカチで拭きながら焦っている。



「いいえ! いいえ! 違います!

ご記入いただいた金額が金額ですので確認のために伺わせていただいただけでございます」


「記入金額は300万ルーだが何か問題が?

今日はその倍以上の金額を持ち合わせてきている。

払えないことはないぞ」



不機嫌なオーラを纏わせていうミハエル。

ローランは先ほどよりもさらに汗をかきながら、7必死でハンカチで汗をぬぐっている。


「いえっ! 疑っているわけではございません!

その……急に金額が跳ね上がったもので……。

それに過去、数えるほどの高額な入室だったもので」


「あぁなるほど。すまない。

オークションは初めてだったもので。

妻にプレゼントしたいがために相応の金額を記入してしまった。

金額を下げようか?」


あおのロワールルビーは300万ルーもしない。

したとしても200万ルーほどだろう。

あえてそれ以上の金額を記入している。



「いえいえ! ドラリス様がよろしければそれでよろしいのです!

300万ルーが出たので即決で、入札止めにいたしますがいかがでしょうか?」


「まぁ! よろしいの?」


「君に似合う宝石がプレゼントできそうで嬉しいよ。

それじゃぁお言葉に甘えてローラン殿の言うようにしてもらってもいいかな?」



ミハエルと私の反応に大喜びしながら

「お待ちください」と言ってカーテンからローランが出ていく。


「この度はおめでとうございます」


マイクが嬉しそうに言うのを満足そうな笑みを浮かべ返答する。


「いいえ。こちらこそいいお買い物をさせていただいたわ。

ねぇ旦那様? 私まだいろいろ見たいのですけれど」


「でしたらお帰りの際にご購入の手続きをしていただきましょう。

まだほかにも奥様のご興味が惹かれるものがあればこちらも嬉しいです」



マイクがローランにほかの商品も見る旨を伝えに行き、戻ってきたところで再度オークションのフロアに案内される。



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