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15 学園に潜入



いつもは前髪を目が隠れるほど垂らして、髪はおさげに結い、そばかすと眼鏡を装備していたが今回の変装は大きく違う。



ストレートの金に近い茶色の髪はメイドに手伝ってもらって朝からふわふわに巻いてもらった。

そして前髪は目の部分に小さな赤い宝石をあしらった鳥がモチーフのピンでとめ横に流す。

メイクはしっかりめに施し、顔の印象が素顔と違いかなり華やかになるようにした。


そして、私の独特な目の色から視線をできるだけ避けるために、目元と口元にほくろを書く。

しっかりと鏡で確認して「よしっ」とつぶやき玄関に向かう。



玄関に到着するとベルだけが待っていた。

アリアとお兄様はまだのようだ。



「おはよう。ベル」

と声をかけてもベルは眉間に少しずつ皺を寄せていくだけなので再度声をかける。



「ベル。おはよう。この変装まずい?」


「……いや。

素顔を知っている俺からするとよく変装できてると思う……。

けど……」


「けど?」


「……男どもが群がりそうで嫌だ……」



どんどん寄っていった眉間の皺はもう深くなってしまっている。

少し背伸びをしてベルの眉間を指でほぐす。



「大丈夫だよ。変装した私に群がってきてもそれは本当の私を気に入っているわけじゃない。

それに私よりアリアの方が断然美人だし。公爵令嬢よ」



私がぐりぐりとベルの眉間を揉んでいるとその手をベルがつかむ。

そして私の頬にベルの大きな手が添えられる。



「だからだよ。

子爵令嬢だと手が届くと思って変な奴も寄ってくる」


「大丈夫よ。

うまく任務に利用させてもらうだけだから。

なにか起こってもきちんと対処するよ」



頬に添えられたベルの大きな手が暖かく、それに擦り寄るようにそう言う。



「そうじゃないんだが……。まぁいい。

今回は俺も同じクラスだしな。

できるだけ、けん制すればいいか」



後半はうまく聞きとれなかったが、ベルが納得してくれたことに安堵した。

しばらく待っていると、お兄様とアリアが到着して4人で馬車に乗って学園へ向かった。






学園に到着し、今日は学園長に挨拶があるので早めに登校した。

学生はまだほとんど来ていないことに密かに安堵する。

どちらにしても注目を浴びるだろうが、初日の登校くらいはゆっくりとしたかった。



無事に学園長に挨拶し、お兄様と別れる。

お兄様は一学年上なので別の先生に付き添われ自分の教室にむかった。

私たちも物腰の柔らかそうな男性の先生に付き添われ教室にむかう。



「学園の案内が必要でしたら、こちらで人員を手配しますがどうされますか?」


公爵令嬢であるアリアに先生は丁寧に問う。


「結構ですわ。

先ほど学園の見取り図もいただきましたし。

自分たちでいろいろな場所に赴くのも楽しそうですもの」


「ねっ?」と私たちの方をアリアが向いて言うので微笑みつつ頷いた。


「その……言いにくいのですが……」


かなり言いよどむ先生にアリアは堂々とした公爵令嬢の雰囲気で言う。



「大丈夫ですわ。先生。

なんでも仰ってくださいな。

私たちも心づもりが必要なことがあれば知っておきたいもの」


「その……アリア様方が編入されるクラスには……。

我が国の王太子エディハルト様が在籍されているのです……」


「先ほど学園長からも伺いましたわ」


「その……エディハルト様は少々……自由奔放というか……なんというか……。

ですので、もしかしたら皆さんが戸惑われることもございますかと……」



この言い方だと、おそらく問題児エディハルトにかなり先生は迷惑をこうむっているのだろう。

かといって身分を笠に着られると一介の教師ではどうすることもできない。


そのうえ、隣国の公爵令嬢まで留学してきたので、この優しそうな先生にはかなり負担だろう。



「先生。安心してくださいませ。

私たちはあくまでもこの国での学習と交流を求められて来ています。

少々の問題でどうにかするつもりはございません。

先生も私たちを他国の貴族や、代表留学生という扱いではなく、普通の生徒として扱ってくださいませ」



さすがにアリアも同情したのか、かなり寛大に優しく先生に伝えた。

先生は少しホッとした表情をみせ「よろしくね」と笑ってくれた。




教室に入り、先生が私たちを丁寧に紹介してくれる。



「今日から約三か月間、隣国クォーツ国より国を代表した留学生を迎えることになった。

こちらからアリア・マグネ公爵令嬢。

リユー・サウス子爵令嬢、エイベル・サウス子爵令息だ。

みんなもクォーツ国から学ぶこともたくさんあるだろうから積極的に交流してみてほしい」



私とアリアは淑女の礼を、ベルは紳士の礼をする。

アリアが代表して挨拶をする。



「みなさま、初めまして。クォーツ国より参りました。

グロリア国のことは書物での知識しかございません。

皆様に色々と教えていただけるとうれしいですわ」



アリアの公爵令嬢としての完璧な挨拶に全員の感嘆の声が漏れる。

しかし女生徒はあからさまに頬を染めながらベルを見つめる。

男子学生はにやにやとアリアを見るものが一定数居る。


女子生徒に関しては分からないでもない。

この国の男性は女性のように細い男性が人気のようで、このクラスのほとんどの男子学生がかなり細身だ。


そんな中、身長も高く、しっかりと筋肉がつきつつ、すらりとしたベルはかなり特殊に見える。

顔も涼やかでキリッとしており、アーロンおじ様譲りの真っ赤な髪に緑の目で情熱的に映るのだろう。

そんな毛色の違う男子学生が魅力的に見えるのだろう。



しかしアリアをにやにやと見ている男子学生の集団はいただけない。

私もベルもさっとそちらを確認して警戒態勢を取ることに決め二人で視線を交わしているその時。


まだ先生が挨拶の終了も告げていないのに、ツカツカと不躾にこちらに近寄る者たちがいた。

先ほどアリアをにやにやと見ていた集団の一部だ。


スッとアリアの前に出て警戒しようとすると、そのうちの一人が私の前に腕を組んで仁王立ちで話し出す。



「お前たちはなぜ先に私に挨拶に来ないんだ!

僕はこの国の王太子だぞ!」



偉そうにそう言い放ったのは王太子エディハルトだった。

細いし金色の髪は長く後ろで一つにまとめている、威厳も何もない人だった。

自国の王太子シーラス様と比べるとお子様すぎる。


しかも、代表なのはアリアで公爵令嬢だ。

彼女を差し置いて子爵令嬢の私に話かけてくるのもおかしい。


内心ため息をつきながら淑女の礼をしながら「申し訳ございません」と謝罪する。

隣のアリアがすかさず割って入る。



「まぁ。先日、グロリアの国王からいただいたお手紙をいただきましたの。

王太子も学園では一生徒ですので特別の挨拶は不要だと連絡がありましたわ。ですからご遠慮させていただいたのですが。

何か手違いがあったようですわね。

すぐに宰相様に確認をとりますわ。

ご挨拶が遅れて大変申し訳ございませんでした」



そう言って淑女の最敬礼のお辞儀をするアリアに続き、私とベルも最敬礼をする。

学生が一部ざわつき始める。

先生は真っ青な顔をして固まってしまう。


アリアの発言を要約すると、国王が必要ないといっていた挨拶を全面的に否定した王太子。

そしてそれをクォーツ側のせいにして謝罪させた。となる。


良識のあるものならばこれがかなり問題であることに気づく。

それに気づいた生徒をさっと確認しておく。

そしてそれとは反対に自国の王太子に隣国の公爵令嬢が頭を垂れて謝ったという優越感に、ニヤニヤとしているものも確認しておく。


最敬礼をとった私たちに以上高に「頭を上げよ」と言うエディハルト。



「まぁ挨拶の件は良い。お前は今後、僕のそばで侍ることを許してやる」



そう言って掴まれたのはまさかの私の腕だった。

一瞬にして周囲の空気の温度を下げていくベルの雰囲気に何名かは「ヒッ」と息をのむ。


なんとか取り繕うために一瞬ベルに目配せをするとしぶしぶ、殺気を収めるベルに少し安堵する。



「エディハルト様。

とても恐れ多いお誘いをありがとうございます。

しかし、私はアリア公爵令嬢の侍女でもありますので、ずっとお傍に侍らせていくわけにはございません。

しかしアリア様はとても寛大な方ですので学園では自由にさせていただくお時間も多々いただいております。

そのお時間にエディハルト様のお傍に侍らせていただければ、嬉しいですわ」



まぁ全部嘘だが。

彼らから得られる情報は助かるので、王太子に公爵令嬢を差し置き、見初められた子爵令嬢を思いっきり演じた。

頬を染めながら恥ずかしそうに言う私に満足したように、いやらしい笑みを浮かべながらエディハルトが言う。


「いいだろう。僕がかわいがってやる。

僕の事はエディと呼ぶがいい」


「恐悦至極にございます。エディ様」


軽くお辞儀をしながら微笑みつつ言う私に顔を染めつつ以上高にうなずくエディハルト。

隣のベルは表情を変えていないが私には最高潮に不機嫌なことがわかった。


教室は一時騒然としたがアリアが凛とした声を響き渡らせる。



「エディハルト様に我が国の淑女が認められたことを嬉しく思いますわ。

それでは皆様、短い間ですけれど仲良くしてくださいませ」



完璧な淑女の礼をして言ったことで教室の雰囲気も落ち着いた。


授業がはじまり、私たちは後ろの方の席を確保し私とベルでアリアを挟んで座った。

授業を真面目に受けるふりをしながら筆談で会話する。



『ベル。気持ちはわかるけれど、気をつけなさいね』

『分かっている』

『まさか私が目をつけられると思わなかった……』

『まぁ話通り、女好きのどうしようもない奴ってのは証明されたわね。

リユーには私と正反対のふわふわした雰囲気の令嬢に変装を頼んでよかったわ』

『お前たちまさかこれを狙っていたのか?』

『狙っていたわけではないけど、あそこに入りこめればラッキーだな。程度よ』



そう。私たちはエディハルトが女好きで勉強嫌いということを知っていた。

話だけでもベルが気に入られることは難しいと踏んだアル兄様が、私たちのどちらかに可能性をかけて今回の変装に決まった。


アリアはそのまま。

完璧な凛とした淑女で、髪も黒に一部銀色が混ざりストレートで瞳も紺色の近づきがたい淑女の鑑。

一方私はふんわりとした雰囲気の世間知らずの令嬢を演じている。


どちらかの見目をエディハルトが気に入れば今後、楽になると踏んでいた。

まさかこんなに簡単に釣ることができるとは思わなかった。

考えながら教科書をぺらりとめくるふりをする。



『まぁ今日はアリアとベルと居られるように次の休憩時間に

「まだ慣れないので今日はアリア様とご一緒しますが、明日からは休憩時間にエディ様の事を色々おしえてください」

とでも言ってくるね。

今日帰ってお兄様も踏まえて一回お話しましょう』



書き込めば二人とも「分かった」と視線を投げてくれた。


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