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14 いざ隣国へ



ガタゴトと馬車が揺れる音がする。

私たちは今、隣国グロリアに続く道を公爵家の馬車に乗って進んでいた。



馬車にはミハエルお兄様とアリア、ベルと私でそれぞれ隣あって座っている。

私の向かいのアリアは淑女らしく刺繍をして時間をつぶしている。

ミハエルお兄様はそんなアリアの肩に頭をもたれて居眠りをしている。


ベルは読書をしていて、私も先ほどまで本を読んでいたけれど気分転換に外を眺めていた。

公爵令嬢の留学というのにふさわしく数人のメイドと従者。


そして護衛の公爵家騎士もついて来ている。

全員がカラスな事を除けば、ごく普通の貴族の団体である。



隣国グロリアとは馬車で5日の距離。

宿に泊まりながら進む旅程はかなり時間がかかる。

全員がカラスであるので本気を出せば3日とかからず到着する距離だ。

しかし今回は公に公爵令嬢とその一行が国の代表として留学する、ということなのでゆっくりと進んでいる。


「どうした? 疲れたか?」


ベルが優しく私を覗き込みながら問う。


「ううん。大丈夫。

グロリアの表向きの情報とジョエルおじ様と国王陛下に伝えられた情報の乖離がすごくてまだ少し混乱しているの」




私たちは旅立つ三日前に王宮に呼ばれた。

そこには国王サイラス様とアリアの両親であるジョエルおじ様とアイラおば様がいた。

サイラス様とジョエル様は腹違いの兄弟でとても仲が良い。



そんな大物三人に呼び出され、少し緊張の中で伝えられた情報にかなり愕然とした。

隣国グロリアは大国としてかなり歴史が深い。


歴代の国王も賢王として他国からも称えられるほどだ。

今代の王も問題ない治世を収めているというのが表向きの情報。


しかしサイラス様達が教えてくれた情報は問題だらけだった。

曰く、今代の王は甘言に弱くプライドが高い。

そのため数々の問題を起こしている。


国王に言い寄り、甘言を囁き、自身の都合の良い採決を求める貴族たち。

まるで飴玉に群がる蟻のように国王に付いているらしい。


そのせいでグロリアは国内で荒れかけていた。

そこで現在は王弟が宰相として政治を動かしているらしい。


王弟はかなり優秀で、国王に群がる貴族をなんとか制し国を正しい方に舵を取ろうとしているそうだ。




そして王太子である第一王子は国王にそっくりで、学園でも様々な問題を起こしているらしい。

しかし5歳年下の第二王子は小さなころから王弟が教育係を担当し、教育したのでかなり将来有望だと。


王と宰相である王弟。

王太子と第二王子で国が二分されているらしい。

そのせいで、水面下では犯罪などが増えているのが現状だそうだ。



他国と市井にはなんとか体裁を整えているが、それで精いっぱいの状況なので貴族がかなり好き勝手しているらしい。

話を聞いて余計に行きたくなくなったが、任務なのでしかたがない。


今回はどこから違法薬物が密輸されたかのルートの確認。

そして占い師がなぜカリン嬢に近づいたかを調べることにある。


ちなみにカリン嬢の家には調査が入り、占い師を捉えることはできた。

しかし私たちが留学する直前に、口の中に隠していたらしい薬を服毒して自死していた。


よって占い師の調査がこちらに回ってくることになった。

ボールック男爵家とカリン嬢に関してはアル兄様が中心になって後処理に追われている。





私が難しい顔で考えていたからか、ベルが私の眉間を指で優しくマッサージしてくれる。


「ダメだ。癖になるぞ」


そういって私の頬に手を移動させる。


「ごめん」と小さくつぶやくとベルが優しく微笑んでくれる。


そのまま「少し寝ておけ」と私の頭を自身の肩にもたれさせる。

頭を優しくなでられて私は言われた通り目をつぶった。





ベルに優しく起こされれば、どうやらグロリアに到着したらしく、とある屋敷の前だった。

ジョエルおじ様が準備してくれていた屋敷である。

先行して屋敷を整えてくれていたマグネ公爵家の使用人たちに出迎えられた。



私たちは案内されて各々の部屋に向かう。

私はアリアの隣の部屋で、ミハエルお兄様とベルはコの字型になっている屋敷の中庭を挟んだ向かい側にある。



それぞれ、旅の汚れを落として楽な服装になってから食堂に集合して夕食を共にとろうことになっている。

学園には私は侍女、ミハエルお兄様とベルは護衛として留学する予定だ。


しかし事情を知っているこの公爵家の使用人たちには、アリアの友人として客人の対応をしてもらえる。

だから私たちはアリアと共に夕食を取ることができる。




さっぱりしてアリアに声をかけて二人で食堂にむかう。

お兄様とベルはすでに席に着き、レモン水を飲みながら待ってくれていた。



「ごめんなさい。お待たせしました」



アリアの言葉に私も一緒に頭を軽く下げ席に着く。

何もしていないけれど馬車に揺られて体力を少し消耗していたのか空腹を感じた。

4人で他愛もない会話をしながら夕食を食べ勧める。



「リユーはこちらの学園でも変装するのか?」


お兄様の質問にベルの機嫌が急降下する。



「今回は私の侍女兼友人ということで留学するから雰囲気が変わる変装になるわ」



これは出発前にミレッタお母様とアリアによって決められたことだ。

公爵令嬢の友人ということなので、いつものもっさり変装ではおかしいとお母様とアリアに注意された。

私はあの変装結構気に入っているのに、もっさりとは……。


少し納得できない部分はあったが、侍女と言うことを考えれば確かにと思い直した。

私はいかにも令嬢と言ったような変装をすることになった。


それを知らされたベルはかなり機嫌が斜めになった。

しかし数か月の短期留学ということと、素の状態ではないということで何とか納得してもらった。



「そう。今回は令嬢風になるから。態度や話しかけ方に気を付けてね」


今回はベルにも接触することが許されている。

だからクォーツの学園生活と違い、普通にアリアやベルと過ごせる学園生活に少し楽しみがある。



「明日はさっそく学園長に挨拶して留学が始まるわ」


アリアの話に全員で首肯して話を聞く。



「私と、リユー、ベルは同じクラスになることが決まっているわ。

情報収集は様子を見ながら始めましょう。

ミハエルは一学年上のクラスだから行動は共にできないけれど……」



少し寂しそうに言うアリアにお兄様はアリアの頭をポンポンと撫でて慰める。



「まぁ今回は期限も決まっているが、学園や街も留学という体だから歩き回りやすいからな。

街にも時々出よう。

学園への朝と帰りの馬車は一緒だし、昼食も護衛だから基本的に一緒だ」



お兄様の言葉に嬉しそうに微笑みながら、アリアは「うん」と頬を染めて頷く。



「まぁベルとリユーも無理しないで、最初は様子見だから気を張りすぎないようにしろよ」



ミハエルお兄様の言葉に私たちも素直に頷いた。

任務への緊張感だけでは長続きしないことはお母様やお父様からよく言い聞かされていた。


私たちは初めて訪れるこの国、そして学園生活を楽しむことも念頭に置いて四人で顔を見合わせて頷いた。



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