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13 作戦会議(2)



学園で各々、任務と勉学で私たちは顔を会わせることが無かった。


私は相変わらず、意味不明な行動をとるカリン嬢の尾行をする日々だった。

作戦会議が行われた日から数日経った。


今日も再び、アル兄様、ミハエルお兄様、アリア、ベルの5人で集まっていた。



「さぁ今日はベルから話があるらしい。話してくれるかな? ベル」



アル兄様の一言で皆がベルの方に向き直り、ベルはゆっくりと話し始めた。



「近頃、最初に香を手に入れた男子学生が見るからにやつれた姿になった。

本来、分析にはもう少し時間がかかる予定だったのですが……。

嫌な予感がしたので、アイラ様のところのクリストファーさんに手伝ってもらって分析を急ぎました。

……結果なのですが、かなり事態は深刻です……」



かなり深刻な表情に本当に良くない事態になっていることが読み取れる。

ミハエルお兄様が「それで?」と先を促す。



「香には微量ですがこの国の違法薬物が入っておりました……」



ヒュッという誰のものか分からない息をのむ音が聞こえた。


「ということだ。

すでに学生の我々だけで、どうにかできるレベルのものではないことが分かった」


アル兄様はすでにご存知だったようで落ち着いて話し出した。



「分析で出てきた違法薬物は、隣国グロリア独特のものだ」



「そんな!!」



ショックを受けたように顔色を真っ青にしてアリアが立ち上がった。

そっとミハエルお兄様がアリアの肩を抱きしめるようにしてソファに座らせる。


アリアはひどい顔色のままミハエルお兄様に寄りかかったまま小さく「申し訳ありません……」と呟く。

それを痛ましそうに見ながらアル兄様が話を続ける。



「アリアの気持ちはわかる……父上もひどく憤られていた。

ここにいる皆は知っていると思うが、父上の産みの親はこの国の元側妃だ。

既に亡くなられているが、彼女が隣国と共謀して起こした事件。

父上と母上の結婚への妨害、そして現王太后、当時の王妃殺害未遂。

我が国への違法薬物、毒物の密輸供与で北の塔に幽閉された。

当時、違法薬物や毒物はカラスと騎士団によって出回る直前に回収し、一切出回っていないことは確認されている。

そして当時回収された違法薬物と同じものが香に少量ではあるが混ぜられていた」



全員が息をのみ静かにアル兄様の話を聞いていた。

ベルが補足して今回の違法薬物について説明する。



「今回、分析によって発見されたものはクリンナーと隣国では呼ばれている特別な花の種から抽出されているものだ。

効果としては一時的に頭が冴える。そして精神が安定するという。

しかし常用することで、不眠、食欲減退、脱力感、疲労などという副作用が出る」


「ではおそらくは男子学生は常用していることで、副作用によってやつれているということ?」



私の疑問に首肯して答えるベル。



「少量でも使い続ければ依存性は高い。

テスト関係なく使ってしまっているのだろう」



なるほど。と頷く。

アリアが震えた体のままベルを見て話し出す。



「女子生徒の様子を確認しておりましたが、そのような変化は一切見られなかったわ。

香水に入っているものは薬物とかではないの?」



それを聞いて安心させるように微笑みながらベルがアリアを見ながら答える。



「大丈夫だ。香水はかなり薄められていてほぼただのローズウォーターだ」


「ほぼということは?」



私もベルを見て聞く。



「ほとんど効果が出ない量の媚薬が検出された。

あの量で効果が出るものは、かなり心に隙のあるものだ。

シーラス様たちが効かなかったのは、精神が強いというのもあるが、婚約者を心から愛しているからだ。

あの程度ではなんの効果もでないだろう」



「私もシーラス様もある程度の毒物や媚薬の類に耐性はあるからな。

香水に関してはほぼ無害だろう。

カリン嬢についていた令息たちが影響されたかどうかははっきり言えないが……」



アル兄様に続いてミハエルお兄様がかなり不機嫌に吐き捨てるように言う。



「その程度で影響されるというのは同じ男として情けないな」


「確かにそれは間違いない。

ただあの媚薬は花街では使用されているものだ。

そして用法容量に関してはかなり厳しく取り扱われている。

違法薬物には指定されていない。

今回は含まれている量もかなり微量だったから、この件はできて注意勧告程度になるだろう」



ベルが苦笑いをしながら同意する。

ということは、今回は隣国グロリアから密輸された薬物が大きな問題になってくる。


果たしてそれをどうやってカリン嬢が手に入れたのか。

そしてカリン嬢は香や香水が問題のあるものだと認識しているのか。

問題はすべて一つに集約される。


「隣国の占い師……」


私の呟きにアル兄様が反応した。


「そうだ。おそらくそこが原点だろう。

カリン嬢は知らずに香や香水を配っている可能性がある」


少し顔色が落ち着いたアリアが話し出す。



「『エデンローズ』の原本を見た子がおりました。

その子の話だと、原本はよく読めばグロリア語だったそうです。

我が国とグロリアは微妙に発音や単語の綴りが違うだけなので意識しなければ気づかないのですが……。

その子は婚約者の影響でグロリア語関連の資料をよく見るそうなのですぐ気づいたそうです。

そしておばあさまとミレッタおば様が視察先で占い師を小ばかにしていたのもグロリアです」



そういえばお茶会の時に思った占い師に関するお母様の話はグロリアの事だった。


「やはりすべてはグロリアに関連しているな……」


全員が思った事をミハエルお兄様がぼそりと言った。

その言葉をきっかけにアル兄様が空気を変えるようにパンッと手をたたき明るい笑顔で言う。



「というわけで君たち4人はグロリアに留学してもらうね」


「「「「えっ!?」」」」


全員が一斉にアル兄様を見る。


「アル!! 聞いていないぞ!!」


ミハエルお兄様がアル兄様に詰め寄る。


「言ってないよ。だってさっき決まったことだからね」


なんともないようにあっけらかんと言うアル兄様にミハエルお兄様も毒気が抜けたようにソファに沈み込む。



「本当にさっき決まったことなんだ。

父上と母上、アーロンおじ様にミレッタおば様が今回のベルの分析結果と今までの報告書を確認して決めたんだ。

今回、僕はシーラスのそばを離れられないのとカリン嬢関連の方で残るように言われたんだ。

かといって君たちサウス3兄弟だけだと身分的にも子爵だから留学には微妙な立場だ。


そこに学園での成績が全方向に優秀なアリアの留学に、侍女としてリユー、護衛にミハエルとベルが付き添うのが一番自然だろ?

もう手続きもサイラスおじ様が始めてくれているから、我が国の国選留学生という形で来週には旅立ってもらうよ」



さすが持つべきものは権力のある身内である。

今回の事は国王であるサイラス様もかなり問題視されているのもある。

そしてグロリアとの因縁や不信に関しても決着をつけるタイミングだと見ているのだろう。



「ミハエルには引き続きまとめ役を。

ベルは伝令役を。

アリアとリユーはミハエルの指示に従ってね。

くれぐれも、特にリユーは無理をしないで。

ベル、ちゃんとリユーから目を離さないでね」



全員が納得したところで私だけ何故か問題児扱いされていることに不満が生まれる。

隣に座るベルが私の頭を優しくなでてくれる。


「俺がちゃんとリユーから目を離さないようにするから、リユーは思うとおりに動けばいいよ」


ベルの優しい言葉に、やさぐれていた機嫌はすぐに持ち直し笑顔で「うん」と笑いかけた。



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