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12 作戦会議



ベルと帰宅し、夕食を食べ終える。

歓談室にミハエルお兄様とベルと3人で向かう。

3人でお茶を飲みながら雑談をしていると扉のノックのあとすぐに、アル兄様とアリアが入ってきた。


「お疲れ様リユー。

それじゃあ、今日の報告を聞かせてもらおうか」


一人掛けのソファにゆったりと座り、飲んでいたお茶を置いてアル兄様が私に言う。


「それでは今日の報告を始めます」


私は見聞きしたことをそのまま、みんなに話す。

今日新たに2人の令嬢と1人の令息が加わったこと。

隣国の占い師の話。

『エデンローズ』の物語の話。

そして今日入手した二つの香水と香についてとカリン嬢の人柄について。


「なるほど……」とミハエルお兄様が考え込む。


「まずはその香水と香は分析だな。」


アル兄様の言葉にテーブルに置いた二つをアル兄様の方に手渡す。


それを手に取り掲げながら「見た目は普通だな」とつぶやいていた。

じっくりと香水と香を確認したアル兄様はその二つをベルに手渡す。


「ベル。頼んだ」


そういわれたベルは神妙に頷き二つを受け取った。


「『エデンローズ』のお話をしてもいいかしら?」

アリアが全員に声をかける。


「頼む」

というアル兄様の声にアリアが話し出した。



「『エデンローズ』のお話ですが、確かに学園で流行っていますわ。

どうやら原本ではなく、代筆屋が複製したもののようだけれど。

何冊か令嬢の間で回っています」


「アリアは読んだのか?」


ミハエルお兄様の言葉にアリアは頷き、物語の内容を話しだした。



「内容は恋愛小説のようなものですわ。

ただ今までにない雰囲気の物語でしたわ。

ですので、令嬢たちには目新しく流行ったのでしょう。

物語は、一人の平民の女の子が実は男爵家の子供で、引き取られて学園に入るところから始まります。

しかし、元平民ということで様々な嫌がらせを受けているところに、王子とその側近たちに救われていく話です。


側近や王子の心の蟠りをほぐし、そして元平民ということもあり、明るく天真爛漫な主人公に王子たちの心は癒されていきます。

そして嫌がらせの犯人を突き止めていく……。

すると側近や王子の婚約者が犯人だと分かり、全員婚約破棄をし、王子は主人公に求婚し側近たちと共に幸せになる。

という話です」



私はちらりとベルをみる。

やはり複数の相手と仲を深める主人公に不快感があるらしく、眉間に皺が寄っていた。


「なるほどな。

この物語の主人公がカリン嬢だということか」


アル兄様の言葉に頷く。



「占い師が言うには、占いで見えたことを物語として書いたそうです。

そしてカリン嬢と出会い、この主人公はカリン嬢と言ったそうです」


ミハエルお兄様が納得したように続ける。



「ではその物語に沿ってカリン嬢は行動していたということだな。

確かにシーラス様の婚約者が誰かも知らず、学園の者だと決めつけ、あの話になったのも頷ける」



「リユーの報告書を私も読ませてもらっていたのですが、どこか既視感があったのはこれだったのですね。

確かに物語に出てくる主人公は騎士団長の子息には『あなたが心配』といって無理しないように進言するのです。

そして今まで守ってもらって当たり前という態度の婚約者との違いに心惹かれていきます」



「ルマン様の婚約者はキャロライン嬢だろう?

あの二人は切磋琢磨しているし、キャロライン嬢は守ってもらおうと考える女性ではないな」



ベルが驚いたように言うのを、アリアは困ったように笑いながら見て更に続ける。



「物語の中の宰相子息は勤勉で、いつも図書館で勉強しているの。

元平民の主人公を見下していたのですが、ある日、図書館で質問してきた主人公の勤勉さに惹かれていくのです。

そしてその宰相の婚約者はお茶会や夜会三昧。

綺麗に着飾ることだけが生きがいのような女性でしたわ」



ミハエルお兄様が額に手を置き、うなだれながら言う。



「パベルの婚約者は学園では稀代の才女として有名だ。

パベルはモニカ嬢の知識の豊富さと、未だ尽きない探究心に惹かれているからありえないな」



「そうですの……。

そして物語の中の王子は自分が王子であることの重責に日々つかれていて、

『あなたのままで素敵』という主人公に癒され心が惹かれていきます。

そして婚約者は気の強い学園での女王のように振る舞う女性です」



アル兄様が声をあげて笑いながら言う。



「王女の見た目は可憐だが相当のおてんば娘だぞ。

シーラスとの初対面もお忍びで城下に来ていた王女に出会ったんだ。

護衛を巻いて、城下の子供達と遊んでいるところにシーラスにぶつかったんだからな。

2人とも王宮で出会ってびっくりしたそうだぞ」



笑いすぎてお腹を抱えながらいうアル兄様を見ながら私は疑問を口にする。


「それではどの方も物語通りにはいってないんですね?

でもアル兄様のような人はその物語に出てこないの?」


私の疑問に今度はアリアは笑いながら答えてくれる。



「出てくるわよ。氷の公爵令息として。

見た目も表情も冷たい氷のような次期公爵なの。

心に闇を抱えていてそれを主人公に見透かされて解きほぐされていきますの。

そして婚約者は、浮気三昧のわがまま令嬢よ」



「俺のイリーナは浮気も贅沢もしない!!」


先ほどまでお腹を抱えて笑っていたアル兄様が怒りのあまり立ち上がり言う。


「アル、落ち着け。物語の中だ。

そもそも今のお前が氷のように無表情ではないじゃないか」


からかうようにいうミハエルお兄様の言葉に思わず笑ってしまう。


「そもそもイリーナは友好国ヘルダに留学中だ。

王女のカラスとして傍にいるしな」


アル兄様が自分を納得させるように自分に言い聞かせていた。


「では物語とは全く違っていますね」


ベルの冷静な一言で全員が頷きながらそれぞれ思案を始める。


「あの、もう一つ今日気づいたことがあるんです」


私の言葉に全員の顔が上がる。

アル兄様とミハエルお兄様が視線で話すように促される。



「カリン嬢の髪はピンクなのは昔からでしょうか?

というのも今日初めて近距離でカリン嬢を見たところ、髪に違和感がありました。

おそらくカリン嬢の元の髪は茶色なのだと思います。

髪の根元が、よく見なければ分かりませんが色が違っていました。」



「それは……」


「そうです。おそらく染めているのだと思います」



この国の貴族は髪が独特な色の者が多い。

それは高位貴族になればなるほど希少な色合いになる。

しかし下位貴族になり、平民との婚姻が重ねられた過去がある家は茶色に近くなる。


とくに偏見があるわけではないが、この国で公の場で髪色を偽ることはかなり信用が問われる。

というのも、髪色を変えて詐欺を行うという犯罪が横行した過去がある。


そのため、髪色を公の場で偽ることは信用を失うことで同義になる。

それらの理由から、この国では基本的に洗い流せば落ちる染粉しか売られていない。



「確かに他国では定期的に染めれば洗髪でも落ちない染粉はあるな」


「あそこまでの鮮やかなピンクはなかなか居ない」


「確か『エデンローズ』の主人公がピンクの髪色という表現がありました」



「これは調査が必要になるな。

確かにボールック男爵は茶色に近い金の髪で、夫人が赤髪だ。

違和感は無かったが確かにあそこまでのピンクはいない。

しかしカリン嬢が養女ではない事は既に情報に出ている。

ただ物語の主人公に合わせた髪色にしただけのような気もするな」



全員がそれぞれ意見を言い、お互いの意見に納得した。




今日はこれで話し合いが終わった。


私は継続してカリン嬢の調査、アリアは『エデンローズ』を手に入れることと、引き続き女子生徒の情報収集。

ベルは香水と香の分析と今日のお茶会に参加した令息たちの観察をそれぞれ命じられた。


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