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11 お茶会潜入任務(2)



「あのお話と言っても、今日初めて参加される方もおられるので、少し説明してもいいかしら?」



全員が嬉しそうに頷くのをカリン嬢は満足そうに眺める。

一度紅茶に口をつけもったいぶったように話し始めた。



「学園入学前に、お父様にお願いして一度だけ、お父様のお仕事に同伴して隣国にお邪魔しましたの。

そこで私、運命の出会いをしましたの」



うっとりとその時を思い出すように話し出すカリン嬢。

令嬢令息たちは静かに、そして真剣にカリン嬢の話に耳を傾けていた。

そしてクスクスとおかしそうに笑いながら続ける。



「運命の出会いと言っても殿方との出会いではありませんのよ。

隣国では、貴族の中で占いが流行っているらしく、皆お抱えの占い師を雇うほどなの。

私もお父様について、いろいろなところにご挨拶に伺った時に、とある貴族の方に占い師を紹介していただきましたの。

そして占いをしてもらった時に、彼女に私の運命について教えてもらいましたの」



確かに隣国では占いが流行っている。

ご婦人や令嬢がお抱えの占い師を家に呼び、お茶会などで自分の雇う占い師の占いを披露したりしている。


あくまでも、夫人や令嬢は参考にする程度ですんでいるらしいが、中にはどっぷりとハマっている者もいる。

自分の選択をすべて占い師に尋ねる方もいるそうだ。




お母様と、前公爵夫人がこの話を仕入れたときに興味を持って隣国に視察に行ったほどだ。

帰ってきた二人はおもしろそうに話してくれた。


『まぁ本当に善良な占い師の方もいたけれど、あくどい者ほど都合の良いことしか言わないようね』


『会話の誘導で聞き出せる内容をいかにも占いで当てました。と言うように信じ込ませているだけね。

あとは適当なことを言ってお金をいただく感じだったわね』



『『あのくらいなら私たちのほうがよほど腕のいい占い師になれましてよ』』



おほほと黒い笑みで話していた。

お母様と前夫人の暗い笑みを思い出し思わずぞっとしていたが、カリン嬢に意識を戻して話に再度集中する。




「その占い師に一冊の本をいただきましたの。

彼女が言うには誰かは分からなかったけれど、自分の見えた話を物語にして書いたのものだと。

そしてその主人公は私だと言ったのよ。

それを読んだ私は居てもたってもいられなくなって、お父様にお願いして急いで彼女をこの国に呼び出したの。

今では彼女は私の専属占い師よ」



自慢げに語るカリン嬢に令嬢たちは口々に話し出す。


「物語の主人公だなんて素敵だわ」


「早く続きが読みたいわ」


「もしかしてその物語とは今、学園で流行っている『エデンローズ』の事ですか!?」



羨ましそうに、そして憧れを持ってカリン嬢をキラキラとした目で見ていた。

そしてもったいぶって微笑みながらカリン嬢がゆっくりと口を開く。



「そうよ。『エデンローズ』の事なの。

学園でも、私のことは伏せてあなたたち以外の方にも本をお貸ししたりしているの。

皆さんとても素敵だと言っていただけていて嬉しいわ」



カリン嬢に尋ねた令嬢は頬を染め「まぁ!」と嬉しそうにしている。

私は『エデンローズ』は知らない。

しかし、おそらくアリアが知っているだろうと思い、帰宅後尋ねてみようと頭の中にメモをした。




「それから今日皆さんにお近づきのしるしに特別のものを準備しました」


令嬢も令息も全員がそわそわとし始める。


「まさかあの噂の!?」


「話に聞いていましたわ!」


「すごく楽しみにしていましたのよ」


「本当にあるとは!」


今日初めて参加した令嬢たちと令息が感嘆の声をあげる。

カリン嬢は嬉しそうに全員を見まわしながら、ベテランメイドに何やら準備を促す。


全員に物が行き渡ったところで私は令嬢や令息の言葉に内心ものすごく驚いた。



「これで私もあの方に振り向いてもらえるわ」


「そうよ。それがあれば目が合う回数が増えるんだから」


「私はそれを使い始めてから、話しかけてもらえるようになったのですよ」


「私は学園でお姿を見かけることが少ないので、まだわからないのですがいつか皆さんのようになれると信じていますわ」



令嬢がうっとりとしながら見ているものは小さな小瓶だった。



「それほど量が多いわけでもないので、気を付けて使ってくださいね。

バラの香りがほんのりとして、とてもいい香りのものなのよ」


カリン嬢が注意をしながら振っているのは香水瓶だった。

話の内容からあれが噂の『意中の人に振り向いてもらえる香水』だと判断する。


本当にあったことも驚きだが、カリン嬢がその持ち主だったことにも驚いた。

しかし驚きはこれだけではなかった。


「あーこれでもう補修からおさらばできる」


「俺もずっと補修続きだったのが、この香を焚いて勉強をするようになってから一度も補修受けてないぞ」


「今までは机に向かっても全然集中できなかったのが、今や時間が経つのも忘れるくらいだからな」


「やはり集中していると頭にもしっかり入ってくるからな」


令息の言葉に内心唖然とした。



「そちらも数がないので気を付けて使ってくださいね。

5分ほど香をたいたらすぐに消してください。

5分ほどで十分効果が得られると言っていましたわ」



私の心とは反対の可憐な声でカリン嬢が令息たちに言う。


「こんな素晴らしいものをいただけるなんて、カリン嬢と占い師の方に感謝だ」


「あら嬉しいですわ。占い師も喜びますわ。

わざわざ隣国から占い師が直接手にいれておりますのよ」



尊敬の眼差しを向けられ満足そうにカリン嬢が言う。

おそらくこれが例の『集中力のあがる香』なのだろう。

実際に噂のものが目の前に二つとも出てきたことに私の内心は大荒れである。


あれをどうにか手に入れられないものかと私はそのあと考えていた。

しかし以外にもあっさりと手に入れられることになる。




お茶会が終わり、カリン嬢と令嬢令息をお見送りし、片付けに庭園に向かおうとしたところを呼び止められた。

呼び止められたのは、私ともう一人雇われた臨時メイドだった。


「二人に私から今日のお礼を渡したいわ」


カリン嬢のその言葉に、心根は悪い人ではないんだなと思う。


「いえ、お給金もいただきましたしお心遣いだけいただきます」


いかにも感謝しています。

と言うように言うと嬉しそうに微笑むカリン嬢。


「いえ私からの気持ちよ。

先ほどよりも少ないけれどこちらをお二人に」


先ほどよりも小さな瓶を差し出しながらカリン嬢が言う。

もう一人の臨時メイドは嬉しそうに声を上げ

「ありがとうございます」と受け取っていた。


私はなんとか両方を手に入れたいのでカリン嬢に話しかけてみることにした。


「お嬢様大変ありがたいのですが……。

実は私……。

今、侍女になるための勉強をいたしておりまして……。

けれど仕事の疲れもあってなかなか集中できないのです……」


申し訳なさそうに言う私にカリン嬢はにっこりと笑う。


「ではあなたにはこちらの香をお渡ししますわ。

けれどあなた、想い人はいなくて?」


予想通りの展開に内心ほくそ笑みながら、顔は恥ずかしそうに頬を染め、カリン嬢に続けて言う。


「お……想い人は……おります。

私には手の届かない……執事見習いの男性です。

代々執事をしている家系の方なのです……。

私には手の届かない方です……」


俯きながらそういう私の手を取ってカリン嬢は目をキラキラさせながら言う。


「そんなことないわ!

特別にあなたには香水も贈らせて頂戴。

恋も勉強も諦めないでほしいの。

そしてまたぜひ臨時メイドに来てほしいわ」


力強く握られた両手を握り返し、頬を染め感動した声音で「ありがとうございます」と答えた。




仕事を終え、男爵邸を後にして私は公爵邸へ向かう道とは違う方面に歩いている。

空には鴉が一羽飛んでいる。

目的の場所には、今日の夕日のように真っ赤な髪のベルが立っていた。



「遅くなってごめんね」

「何もなくてよかった」



言いながら私の手をギュっと握るベルの手を私は安心してもらうために軽く握り返した。


「どうだった? 危ないことは無かったようだが……」


「帰ったら早速アリアも呼び出しよ」


私の返答に心配そうにベルの少し垂れていた眉がもとに戻り「よかった……」と呟いていた。



ベルの乗ってきた馬に私も乗せてもらう。

私のお腹に回された腕は昔とは違いだいぶ逞しくなっている。


時折、ぎゅっと力が入れられ私はそのたびに驚きで少し胸がドキリと脈打つ。

私はベル胸に後頭部を預け、上を向きベルに声をかけた。


「もう子供じゃないからそこまで支えてもらわなくても、落ちないわよ?」


そういう私をちらりと目線だけ下げてみたベル。


「俺がこうしたいだけだから……。

危ないから前向いておけ」


そっけなく言うベルに少し不満を覚えながらも大人しく正面をむく。

また二人とも無言になったので、私はベルに預けた体の力を抜き、もたれかかりながら真っ赤な夕日を眺めた。


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