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10 お茶会潜入任務



私とお兄様が急いで歓談室に向かう。

応接室ではなく、歓談室に通された客ということは身内に近しい客だ。



そう。来客はアリアだった。

扉を開けるとアリアはソファに座りお茶を綺麗な仕草で飲んでいた。


「ミハエルもリユーも突然ごめんなさい。

でも急ぎ直接お話したいことがあって……」


申し訳なさそうに言うアリアに微笑んで「大丈夫」と答えた。


「アリア、もうすぐベルも来るから話はそれからでもいいか?」



笑顔でアリアに問うお兄様にアリアは少し頬を赤くして「もちろんです」と答える。

学園に入学を期に、アリアはお兄様を『ミハエルお兄様』と呼ぶのをやめた。


私にこっそりと

「もう妹でいるのはやめるわ! 私を一人の女性としてみてもらいたいもの」

と顔を真っ赤にしながら教えてくれた。


しかし、まだとっさの時は『ミハエルお兄様』と言ってしまうらしく、その後はいつもこっそり落ち込んでいるのを知っている。



そんなアリアと、最近の学園生活の事を聞くお兄様をほっこりと見ていた。



歓談室の扉が開きベルが

「すまない。遅れた」

と言って私の隣に座る。


別に示し合わせているわけではないが、この四人で集まる時はいつもアリアの隣にお兄様。

私の隣にベルとなる。

アル兄様がいる時は、アル兄様は一人掛けのソファにゆったりと座る。




全員が揃ったところでアリアが話し出す。


「実は今日仕入れた情報なのだけれど、どうやら今週の学園の休日にボールック男爵邸でお茶会が開かれるそうよ」


「お茶会? 下位貴族がこの時期に珍しいな」


アリアの話に全員が疑問に思ったことをお兄様が聞く。


「お茶会と言っても、主催はカリン嬢よ。

だから参加者は彼女の周囲にいつもいる令嬢と令息よ」


「あの令息たちは3人とも高位貴族に値する。

2人が伯爵令息、1人が侯爵令息だ」


「そうよ。令嬢は男爵、子爵令嬢のようだけれど」


ベルが補足しながら話が進んでいく。



「あの三人の令息は、今までは小テストの補修常連だった。

しかし最近になって三人とも補修を受けなくなったようだ。

他の令息が、彼らが『集中力のあがる香』を使っているのではないかと言っていた。

そして実際、その三人のうちの一人から香の話を聞いたそうだ。

ハッキリとは言わなかったそうだが、新しい香が勉強に合うから良く使っていると」



「なるほど……」


難しい顔で考えながらお兄様が返事をする。



「香水の件は噂とは違って、噂で結ばれた令嬢と令息は香水とは関係が無かったわ。

どうやらその話を利用しているだけのようだったわ。

ただ『意中に振り向いてもらえる香水』の話しは、まだ噂されているからもう少し調査が必要ね」



「わかった。そのお茶会で何かわかる可能性が高いということだな?」



「さすがに公爵家の私が男爵家のお茶会に参加するのは難しいわ。

紹介で参加するにして、もしここで目立ってしまうと今後やりづらくなると思うの。

かといって学園で変装中のリユーが参加することも難しいわよね……」



考えながら言うアイラにお兄様が何でもないように



「いやリユーを紛れ込ませる」



その言葉に全員が、それしかないと言いたげに私を見る。


「メイドに変装すれば可能でしょうが、どうやって紛れ込みましょう?」



「男爵邸であれば、おそらく10名ほどの客を迎え入れられるメイドはいないだろう。

いくら財政状況が良いと言っても高位貴族の顔色を見てそこまでの使用人は雇っていないはずだ。

ボールック男爵はそういう人だ。

そして今回、侯爵子息も参加するのであれば、伝手を使って臨時メイドを雇うだろう。

そこにリユーを紛れ込ませる」



なるほど。と頷くとお兄様の言葉にベルが反対を示す。


「いくらリユーでも初めての任務を一人でこなすのは危険すぎる。

俺も警備か衛兵で紛れられるようにしてほしい」



「いや。お前は目立つんだ。

変装もリユーほどできるわけではない。

しかしベルの言うことも一理ある。

ベル。お前は男爵邸の近くで待機して、お茶会の会場に鴉を飛ばすことはできるか?

お前の鴉が居れば、もしリユーに不測の事態が起こってもすぐ対応できるようになる」



「なるほど。俺の鴉を飛ばします」


「アリアと僕は、リユーが紛れ込めるようにするサポートに回る」


「分かりましたわ」


全員の賛同と役割が決まり、男爵邸に潜入することが決まった。





そして次の日には、とある伯爵邸のメイドとしてボールック男爵邸に臨時メイド、クリューとして潜入することが決まった。



お茶会当日の早朝、私は髪を濃い茶色にしていた。

顔にはそばかす、目の色はごまかせないので長めにおろしたまま、おさげの地味なメイドに変装した。




男爵邸に到着し、臨時メイドの証明書を執事に見せる。

問題なく男爵邸に侵入し、与えられた男爵邸のメイド服に着替える。

お茶会は午後からだが、かなり気合が入っているようで午前中から細かい準備に参加した。


臨時メイドと男爵邸のメイドで話が弾む中、私も情報収集をしながら手を動かす。


「私、他家に臨時で他家にメイドで来るの初めてなんで緊張します」


素朴な少女メイドを装って、男爵邸のベテランと思われるメイドに話しかかる。


「あらそうなの? でもあなた手も早いし丁寧だからとても助かるわ」


優しそうな笑顔で私に返事をしてくれるベテランメイド。


「伯爵邸でも楽しく仕事させていただいているのですが、男爵邸も雰囲気がいいですね」


「そうね。旦那様も奥様もとても良い方で使用人のことも大事にしてくれるわ」


「そのようですね。でも今日はご令嬢が主催ですよね?」



カリン嬢の情報を少し入手しておこうと話題に出すと、ベテランメイドは少し困ったように笑いながら言いよどむ。



「ええ。そうよ。ただ……少しカリン様は……」


「あぁ他家の者が踏み込んでしまってごめんなさい。話しにくいですよね」


一歩引くと、思ったようにベテランメイドは話し始めた。


「いえそうではないの。

幼いころはとても活発で素直なお嬢様だったのよ。

ただ……学園に入る前に、とある本に夢中になられてそこから……」


これ以上、今聞くのは難しいと思い私は話を切り上げ、作業に集中した。






お茶会の時間が迫り、私は伯爵家メイドということで所作が評価され、目的のテーブル付きになった。


今回はいつものカリン嬢の取り巻きに加え、令息がいつも3人のところが今日は新しく1人を加え4人に。

令嬢がいつもの4人に加え2人追加され6人となかなかの人数となっている。


令嬢は一人の伯爵令嬢を除き、下位貴族の令嬢ばかりだ。

しかし、令息は意外にも侯爵家や伯爵家といった元々のメンバーに加え今回も伯爵家の令息で爵位が高い。

通常、男爵家のお茶会に来るような爵位ではない。


そしてさらにおかしいのが、お客様が10人もなればテーブルは3つほどに分け、主催者が各テーブルを回るのが普通なのだ。

しかし今回は大きいテーブルに全員がまとまって座るようだ。

私的なものといわれればそれまでなのだが、かなり異常に見える。



私はカリン嬢の隣の令嬢の担当になる。

何かあってもカリン嬢付きのベテランメイドに助けてもらえるということで、自ら希望した。

もちろんその位置を希望したのはそれが理由ではない。


カリン嬢の話す内容をしっかりと聞き取るためだ。

そして大体が主催の近くに座るものほど主催と距離が近いことを示す。

そのため、その位置に座る二人には小声で主催は話しかけたりすることが多い。

それを聞き取るためである。




令嬢令息が続々と到着しお茶会の始まりを知らせる。

カリン嬢が出迎え、それぞれ席につく。

カリン嬢の席を挟むように座るのは、ドレン伯爵令嬢シエンナ嬢とオレゴン侯爵令息モレット殿だった。

全員にお茶がいきわたり、カリン嬢が歓迎の挨拶を行う。



「今日は新たに3人の方をお迎えしてのお茶会になります。

学園でお互い顔見知りかもしれませんが、これを期に仲を深めていきましょう」



挨拶自体は問題ないように思うが、高位貴族を迎えての男爵令嬢の挨拶としてはいささか問題がある。

爵位が上の者を招待したときは、感謝の気持ち。

そしてその方と交流を持たせて頂きたい。というような、少し下からの言い方になる。


そのセオリーをすべて無視した言い方になっている。

招待された令嬢令息はその違和感を感じていないようだった。

皆ニコニコとこの会に呼ばれたことを心から喜んでいるように見える。



それからしばらくは、特におかしなことも無かった。

令嬢令息は学校での愚痴、勉強の話、噂話を各々楽しんでいた。

すると、突然カリン嬢の隣に座っているシエンナ嬢が少し声を大きく話し出す。



「カリン様は最近、あのお話はどこまで進みました?」



全員がカリン嬢とシエンナ嬢の方を見て固唾を飲み静かになった。

初めてこの会に参加したと思われる3人は会話が止まったことに少し驚きを見せながらも、嬉しそうに二人を見ていた。

もちろん、空気が変わったことを察した私も耳に神経を集中させた。




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