第三話
バリン‼ 俺の頭に当たった皿が割れて、俺の頭から血が流れる。
「あーーもうっ、つまんねえ、つまんねえ、なんで最近、冒険者共こねえんだよ」
俺に皿を投げつけたことなど気にすることもなく、ドーラは暴れた。
ドーラのもくろみ通り、冒険者たちはこのダンジョンに来なくなった。だが、そうなればそうなるほど、ドーラは荒れていった。彼女はただ寂しかっただけなのかもしれない。
俺はそっと扉から外に出た。
ダンジョンをさまよっていると、一人の女冒険者を見つけた。俺は彼女を怖がらせて動画を撮ればドーラがまた喜んでくれるんじゃないかと思った。
俺はゆっくりと、できるだけおどろおどろしく少女の前に姿を現した。
「ねえ、君、ケガしてるね」
少女は俺を見るなり、怖がりもせずそんなことを言った。
あまりのことに唖然としている俺に少女は歩み寄り、そっとバンソーコを貼った。
「うん。これで大丈夫」
俺は嬉しさのあまり涙を流した。それは本当は酸性の粘液で、シュッと辺りの岩を溶かした。
「君泣いてるの? よかったら、私に訳を話してごらん」
少女は俺の気味の悪い粘液がどういうわけか涙だと分かったらしい。気がつけば俺は少女にドーラとのことを話していた。
「うーん。そのドーラさんは、あまりに君と長くいすぎて、君のありがたさを忘れてしまっているんだね。一度距離を置けば、ドーラさんも冷静になれるんじゃないかな?」
「そうかもしれない。でも、俺にはドーラの側しか居場所がないんだ」
少女は可愛らしく小首を傾げるとこう言った。
「じゃあ、ウチ来る?」
俺を自宅に誘ってくれた少女はネリーと言った。
俺はネリーの道具屋を必死に手伝った。するとはじめは俺を気味悪がっていた村人たちも、俺を認めてくれるようになった。俺はこの世界ではじめて本当の居場所を見つけたような気がした。でも、なら、俺にとってドーラはなんなのだろう? ただ依存していただけか。それとも……。
そんな生活が続いていたあるとき、村で悲鳴が上がった。
「逃げて優太‼ ドラゴンが攻めてきた」
道具屋に飛び込んできたネリーが叫ぶ。
俺は慌てて店を出た。辺りは一面火の海でその中心に佇む一人の少女がいた。ドーラだ。
「なんで、こんなことするんだ……」
「なんでって、みんなして私をのけ者にするからでしょう」
呆然と呟く俺の問いかけにドーラが答える。
「なんで、私を一人にしたの……私にはあんたしかいなかったのに」
俺はその言葉に愕然とした。
「この裏切り者おおおおおおお」
ドーラが火を吹く。俺は自分が燃えるのも構わず触手を伸ばした。
無数の触手がドーラを抱きしめる。
「ごめん、ごめん、もう一人にしないから……。でも、本当の気持ち打ち明けてくれたら、俺だって離れなかったんだぜ」
「こんな変態触手が好きだなんて、恥ずかしくて言えるわけないじゃんかあっ。ううう、うぇ、グスン」
こうしてわかり合えた俺たちはダンジョンに帰って行った。今ではドーラのダンジョンは前と同じように冒険者カップルがデートに訪れるお手軽ダンジョンになっている。そうして最深部を訪れたカップルは、ドラゴンと触手モンスター、種族の超えた愛を遂げた二人に、互いの永遠の愛を誓い合うのだ。