第二話
「我こそは魔王ドーラ配下の四天王(俺一人しかいないけど)の一角、触手怪獣テンタくるん。愚かな冒険者共よ、この触手で陵辱してくれるわ」
異様に甲高い声で俺が叫ぶと、冒険者コンビ、というかカップルの片割れの女が、ガタガタと震え、男の冒険者に寄りすがった。
「大丈夫だよ。エミちゃん。こんな奴僕が倒してみせるからね」
男が女を庇って言う。
「がんばって、アーくん。私、応援してるから」
女が甘ったるい声で言う。あーやだやだ見せつけてくれちゃって、こっちは触手モンスターなんかに転生しちゃって、人生ハードモードだって言うのに。そんじゃあ、まあ、世の中の厳しさを若者たちに教えてあげますか。
「うおおおおおお」
俺は剣を抜いて襲いかかってくる冒険者の男を触手でいなした。
ベチン。男が岩にぶつかって伸びてしまう。
「…………」
「…………」
冒険者の女と俺は見つめ合う。
「いやー、服が溶ける粘液で絡め取られてあられもない姿をさらしてしまうなんていやーッ」
「おい‼ まだ、なにをするかなんて言ってないだろ。人を見た目で判断するなっ‼」
女は涙を浮かべた瞳で俺を見つめる。
「じゃあ、私を助けてくれるの」
「いや。今回に限って言えば、あんたいい勘してたよ」
ビュルルル俺の触手が女に襲いかかるとあっという間に女は裸に剥かれる。
「いやあああああああああ」
女の悲鳴がダンジョンに木霊する。その光景を少し離れたところに浮かぶ映像水晶がじっと観察していた。
「ククク、いい映像が撮れたのぉ」
先ほどの冒険者との戦いの記録映像をビール片手に見ながらドーラがほくそ笑んだ。
「もう、食っちゃ寝ばっかしてないで、少しは手伝ってくださいよ」
俺は料理、洗濯、掃除を無数の触手で同時にこなしながら、ドーラにそうぼやいた。
「バカめ、これは崇高な使命なのだ。この動画を編集し近くの町のいやらしい店で売ってやるのだ。そうすれば、余のダンジョンをデートスポット代わりに利用する新米冒険者カップル共を一掃できるだろう?」
ドーラはこのダンジョン最深部にあるこの世界と俺の世界を繋ぐ門を管理するドラゴン族の末裔で、あっちの世界から流れてくるオタクコンテンツにドラゴンの長い寿命を費やしてひたっていたため、重度のオタクだ。そのせいでリア充を激しく憎んでいるのだが、このダンジョンは初心者冒険者向きで、冒険者のカップルたちが仲を深めるためにやって来るのだ。ドーラはそんな冒険者カップルを根絶やしにするため触手モンスターである俺を利用して、冒険者女のエッチな動画をばらまきカップルを破滅させようというのだ。
俺は、ドーラの雑用兼四天王としてこき使われていた。この生活も慣れてみれば割と楽しかった。ドーラは俺の姿を気味悪がらないし、冒険者の女の子たちと戯れる? のも楽しかった。けど、そんな生活は長くは続かなかった。