第一話
気がつくと俺は触手になっていた。
何を言っているか分からないが、事実なんだからしょうがない。
そう、その姿はまさに、エロアニメでヒロインを陵辱する触手まみれのモンスターだった。
俺は、水面に映る己の姿に涙した。
と言っても目がどこにあるかさえ分からないんだからそれは比喩表現に過ぎない。
彼女を作って、仲良く手を繋いでデートするのが俺の夢だったのに。それともなにか、純愛を夢見ながら、触手陵辱ものを見ていた罰を神が与えたのか?
そんなのあんまりだ。神様、あんたはエロアニメ見ないのか? だったら、あんたに神を名乗る資格はない。
俺は混乱する頭を振って辺りを見回した。
どこか、洞窟のようだ。もしかして、ダンジョンってやつじゃないか。
ガサッ、もの音がした。慌てて俺は振り向く。
そこには、憤怒の表情を浮かべた赤ん坊のような醜いモンスターがいた。
そのモンスター、ゴブリンは近づいてくると、手近にあった俺の触手の一本を鉈で切り落とした。
ああああああ、っっっ、痛いいいいい。
激痛に襲われた俺は触手を振り回し、気がつかないうちにゴブリンを絡め取っていた。
ぬらぬらとした触手に捕まって粘液まみれのゴブリンはとてもおぞましかった。
ボキボキッ、思わず触手に力を入れると、ゴブリンの体から異音がして、ゴブリンは息絶えた。
それから俺は何か月もダンジョンをさまよった。
途中、何度もモンスターと戦ったが、レベルアップしてステータスウィンドウが開くことも、チートスキルを手に入れることもなかった。
そうして俺はダンジョンの最深部に辿り着いた。
重厚な鉄の扉を触手で押し開ける。
そこはこの世の楽園だった。
床中にマンガが散らばり、壁にはアニメのポスターがところ狭しと貼られていて、おまけに最新のゲーミングPCが静かにファンを回していた。
ここは最高のオタク部屋だ!
「何やつじゃ、余の宝物庫に忍び込んだのは」
そう言ってベッドからむくりと起き上がったのは、褐色巨乳で角の生えた美少女だった。
おれはムラムラと欲求が込み上げるのを感じた。
どうせ、この姿ではまともな恋愛なんてできっこない。それなら、触手モンスターの宿命にしたがって思う存分女の子にエッチなことをしてやる!
無数の触手が女の子を絡め取る。触手が胸の周囲に沿って這って進む。
マシュマロのような柔らかさ、触手に味覚はないが、胸を触っている部分がほんのり甘いような錯覚を覚える。
「んっ、やめんかっ」
女の子が甘いと息を上げる。次第にそれは熱を帯び、やがて煙を吐き出した。
え? 煙?
「やめんかーーー‼」
女の子が叫ぶと口から炎が吐き出されて俺は真っ黒になってしまった。
思わず女の子を落とす。尻餅をついた女の子は立ち上がると胸を反らす。
「余こそは誉れあるドラゴン族の末裔にして、異世界へと通じる門を守護する者、人は余を恐れこう呼ぶ、魔王ドーラと」
ドーラは大きな瞳で俺を見つめる。その真っ直ぐな視線に俺は自分のこれまでしようとしていたことを恥ずかしく思った。
「おまえ面白い奴だな。どうだ余の配下に加わわらんか?」