表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
72/72

エピローグ

音と光を感じて、俺の意識はポカリと浮上した。ここは深層睡眠スリープポッドの中だ。

柔らかな音色のアラームが鳴って、目の前が黄色に染まっている。トラブル発生で当直員を起こす際に灯る光が、白を基調とするポッドの中を黄色で満たしていた。

俺の目覚めを感知して、ポッドの蓋が開き始めた。


ポッドから身を起こしながら、俺はAIに呼びかける。「ゾラック、何があった?」

隣のポッドの蓋も、ほぼ同時に開くところだ。栗色の髪に茶色の瞳、身を起こしたのはオルだ。そうか、俺の当直仲間だったな。彼女はこちらを見て怪訝な顔だ。


「連続ジャンプ中に、リープ機関(エンジン)が異常動作を起こしました。現在調査中ですが、お二人はブリッジに向かってください。」ゾラックの無機質な声がスリープ室内に響く。


俺たちがブリッジに移動して席に着いたところで、軽い浮揚感があった。船内重力が切り替わる、あの感覚だ。俺は、反射的に隣の席に座るオルを見る。

「おかしい、連続ジャンプ中のはずよね。」オルは、その顔に緊張を浮かべていた。


「ゾラック! どうなっている。」俺はAIに呼びかけた。

「通常空間に浮上しました。リープ機関(エンジン)が停止しています。」

「原因を調査して報告を!」オルが命じた。

「了解。」


それまでは淡いクリーム色の壁に同化していたブリッジの全周スクリーンは、漆黒の宇宙空間を映し出した。

前方にはうっすらと、後方にはより鮮明に、漆黒の空間に輝く銀河が流れている。

銀河はゆっくりと回転していた。もちろん、この船が銀河面に対して回転運動をしているのだ。何か船体に、外部から力が加わったためなのだろう。


 ◇ ◇ ◇


しばらくして、ゾラックの人工音声が流れてきた。

「お二人に、残念なお知らせがあります。」疑似人格を付与されているAI:ゾラックの声が重く沈んでいるように聞こえる。俺は嫌な予感がした。

「リープ機関(エンジン)が、燃料供給系統(エネルギーサプライ)の異常から緊急停止しました。リープ機関本体は、正常動作が可能です。」


「原因はなに? 修理は可能なの?」オルが問いかけた。

「高エネルギーのガンマ線に、瞬間的に暴露されたようです。燃料の連続供給機構が溶融してリープ機関に貼り付いており、修理のために手を付ければリープ機関本体を損傷する恐れがあります。」


「ジャンプできないのかしら?」

「リープ機関本体は無事ですから、燃料供給を直結すれば単発のジャンプは可能と思われます。またジャンプを繰り返すプログラミングは可能です。」


無意識に席から立ち上がっていたオルは、ドスンと席に体を下ろした。

「連続ジャンプができないのね、それじゃあ意味がない。隣の恒星系まで一年は掛かる。この船は、銀河を渡るどころか恒星間航行の機能をほぼ失ったと言う事ね。」


もう母星には戻れない。

一瞬、唇をかんだオルが続けた。「現在位置は分かる? ここはまだ私たちの銀河かしら。」

「はい、渦状腕(かじょうわん)を二つ渡り、比較的短い腕が目前です。前方の腕までの距離はおよそ2千光年。」とゾラックが応える。


「何とかそこまで辿り着かないと。そこはハビタブルゾーンよね。」とオル。流石に物理学者だけあって、生き物係の俺より論理的思考が早い。頼りになる姉貴は、恒星を選び、居住可能な惑星を探して、降り立とうと考えているのだ。


「ゾラック、何とか前方の腕まで行く方法を考えましょう。」とオル。

「はい、燃料の接続を工夫すれば、複数回のジャンプを継続することが出来そうです。」とゾラックの声が頼もしく聞こえた。


この船の推進方法を考えるには、俺はお呼びでない。ゾラックと共に検討を進めるオルの邪魔にならぬよう、俺は観測機器が並ぶ席に移って、目前に広がる渦状腕の恒星スペクトルの調査を始めた。母星に似た太陽をリストアップし始めたのだ。


 ◇ ◇ ◇


しばらく作業に没頭した。そして、あっという間に時間が過ぎて行った。

「お二人とも、本日の就業時間を超過しました。お食事をとりお休みください。」ゾラックにそう通告された。


「とても眠れそうにないわね。」作業の手を止めたオルは、俺に言うともなくつぶやいた。二人で夕食を取り、当直日誌をまとめたら、俺はシャワーを浴びてベッドにもぐりこんだ。

「ああ、散々な当直だったな。」つぶやいた俺は、意外にも睡魔に襲われた。

あれれ、俺は眠いンだな。スリープから出たばかりだけれど、緊張続きの一日だったからな。


ベッドの端末にメールが届いていた。

「良い夢を!」オルからだ、有難う姉御。

そう考えながら、俺はあっさりと眠りに落ちていった。


(生き物係ですが四部作:完)

暇を持て余して、駄文を捏ね繰り始めて、もう二年が過ぎようとしています。

そのうちに登場人物が勝手に動き始めて、いつの間にか四部作になってしまいました。


全部で65万文字か、長いだけ、だけど、、、

二作目と三作目と四作目が、偶然同じような長さになったなぁ。まあ、この辺りがまとめやすいってことか。

一作目が、現在と過去からと、二方向から書き始めたので、二つ分ってことかな。


ここに来て、ようやくお話の作り方が少し掴めてきた気がしています。

何事も、やってみるものです。私の経験値が、ちょっと上がりました。


なおウォーゼルは、レンズマンに登場するキニスンの友人の竜の名を、ゾラックは星を継ぐ者に登場するガニメアンの恒星間宇宙船のAIの名を借りました。

あとは、キラ侯爵が吉良上野介とか、アビオンとオーレスは民間農法の名前とか、ルメナイとアバパールは牧草の品種名とか、、、


最後までお読みいただいた方々に、長寿と繁栄を! とこれは、バルカン星の挨拶でしたね。

宇宙の距離感の把握と、子作りの参考にしていただければ幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ