その4 使命
「ウルト・ゴール、門球を先ほどの時点に戻してくれ。私の船の質量ならば、そこを通過できるはずだな。」
「お前が過去に行くと言うのか、戻ってくるには時間がないぞ。門球を維持できるのは、あと50秒ほどだ。」
「魔石に魔素を圧縮すれば、核爆発を起こせるのは知っていたか? 魔人の言う根源解放の魔術と言うやつだ。」
「お前たちが小惑星を砕いた時に、見せてもらったよ。」
「これで至近からガンマ線を浴びせられる。そして残念だが、この搭載艇にはあの時の魔導機のように、魔石を打ち出す機能はない。ボット経由では魔法は発現しないのだ。私は、魔石を抱いたままゾラック16の傍でその時を待とう。」
「お前も滅することになる。」
「やむを得んだろう。私ならば、あの船の燃料供給装置を狙って、正確な時間に正確な範囲を破壊できるのだ。」
「お前の行為も、評議会の規定に違反する。」
「キュベレが私たちを、治外法権としたことを忘れたか!」
ウルト・ゴールの理解は早かった。
「分かったよ。神の実験を、お前が貫徹させるのだな。またしても年若い友を失うのか、儂は。」
「私たちが生きた歴史を正史とするぞ。私が滅するよりも、お前の覚醒が神の思惑なのだ。ウルト・ゴール、地球を頼んだぞ。」
私の船は、ソルマール号の舟艇ピットから浮き上がると船底ハッチを抜けた。時空間隙に滑り込むと、その先には過去への出口となる門球が私を待っている。
「ドーピンが盾となった時間の30秒前に送り出してくれ。」それだけあれば、私は魔石に魔素を充填しつつ、ゾラック16の推進機構まで肉薄できる。
私は、迷わず船を門球に突入させた。
忽然と過去の時空に出現した。ゾラック16の船体が現れる位置に、搭載艇を浮かべて待機する。背後では門球が閉じようとしていた。ソルマール号の動力が尽きかけているのだ。
既に魔石には、魔素の充填を終えた。もう一押しするだけで、根源解放の魔術は発動する。そう言えばこの賢者の秘術を、孫のジローには教えていなかったな。
そうだ、ジローには言っておくべきことがあった。私はダメもとで、感覚共有を接続した。孫に渡したスマホを呼んだのだ。
「どうした爺っちゃん、今どこにいるの?」孫の呑気な声が伝わってきた。
何と! これだけ時間的、空間的に離れていても、感覚共有アプリは機能したのか! キュベレの種族の科学技術は凄まじいな、私は素直に感動した。
「爺っちゃんは、遠いところにいる。そして、お前ともこれでお別れだ。お前に渡したスマホのストレージな、中身は全てお前のものだ。」
「えっ、いいのか! ラッキー!」
「カーラを大切にしろ。子供を作り、幸せな家庭を築く努力をせよ。」
「気が早いな、爺っちゃん。僕もそうしたいけど、あの娘が何て言うかな?」
「思い切って告白してみろ。」
「うん、そうだね。それを言うために、連絡をくれたのか?」
「そんなところだ。じゃあな。レベルアップ頑張れよ!」私は感覚共有を切りにした。
決行の瞬間が迫っていた。最後に可愛い孫の声が聴けたのが、嬉しかった。
私が属してきた時空の円環を今、自分自身で閉じる。待ち受ける私の心は、静かだった。
時が来た!
ゾラック16が通常空間に浮上する。同時にドーピンが実体化してガンマ線を遮り、閃光と共に消滅した。さあ、精密に同期させて、私は魔石を解放した。
周囲が真っ白になり、私の意識は霧散した。




