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その3 ガンマ線バースト

目前(もくぜん)(まぶ)しく輝いて、宇宙空間を貫く巨大な光束(こうそく)。およそ百年前、私が乗った恒星間学術調査船ゾラック16が遭遇したガンマ線バーストを、(いま)私は見ている。


「あれがバースト・ビームか。」今やソルマール号に取り込まれた私は、もう電波を発する必要もない。電子(サイバー)空間で、ウルト・ゴールとの会話が可能となっていた。


「何とも巨大な代物(しろもの)だな、あそこに私たちの船が浮上すると言うのか。」

「10光年ほどの幅がある、あと二時間は存在するようだ。そしてお前たちの船が実体化するのはあの中ではないぞ、船など瞬時に蒸発する。ある程度離れた場所に浮かんだから、船体の一部が溶融しただけで済んだのだ。」


「そして、奴はここだ。」画面が光束から離れた一点にズームする。

姿は見えないが、ドーピンがそこで待機しているのだろう。やがてその場所が一瞬チカリと眩しく輝いて、同時にその手前にゾラック16らしき船影が浮かんで、そして消えた。


「やりおった、奴は盾となって放射線に打たれ、エネルギーに還元されて消滅したぞ。」ウルト・ゴールの思考が、電子(サイバー)空間に悲しげに響く。「リムゾーンに続いて、またしても儂は年若い友を失った。」


「私たちの船は、どうなった?」

「また超空間に(もぐ)ったな。次の跳躍(リープ)に移ったのだろう。」

「船は無事と言うことだな。」

「おそらくな、これで歴史が書き換わった。大きな時空震がくるぞ、そして儂らが属した時間軸は、儂ら諸共(もろとも)に消滅することになる。」


そうか、ドーピンにしてやられたのだ。

私が辿(たど)ってきた歴史は巻き戻されて、地球での出来事は無かったことになる。

私の過去百年間の人生も、消し去られる。

四人の嫁とその子や孫たちと過ごした日々も失われ、可愛い孫のジローの初恋が(かな)うこともない。茫然自失(ぼうぜんじしつ)とは、このことだ。


 ◇ ◇ ◇


「短い付き合いだったな。」私はウルト・ゴールに話しかけた。

「うむ、これで儂がお前と出会うこともなくなった。地球では、楽しい思いをさせてもらったと言っておこう。」

「私も礼を言うよ。お前が憑依していたルメナイには、随分と世話になった。お前も地球のために、働いてくれたしな。」


沈黙して、その時が来るのを待った。

数分が過ぎ、ウルト・ゴールが会話を再開した。

「この船の動力からみて、そろそろ過去に繋いだ門球(ポータル)が維持できなくなる。それにしても、、、」

「それにしても、何だ?」

「時空震が起こらんな、いくら遠い過去に干渉したにせよ、そろそろ時空改変の波が届いてもいい頃合いだ。だが儂らはまだ存在している。」


もしかしたら、と私は(ひらめ)いた。まだ諦めるのは早かったのかも知れない。

「ウルト・ゴール、過去の門球(ポータル)はまだ維持できるか?」

「うむ、あと120秒ほどだがな。」

「やはり、船に損害(ダメージ)があったのではないか? 燃料供給機構(エネルギーサプライ)が破壊されたのならば、跳躍(リープ)浮上(アウト)した先で船は見つかるはずだ。」

「船は既に超空間に(もぐ)った。いまさら後を追うのは不可能だぞ。」

「いいや、私はゾラック16が難破した座標を記憶しているのだ。」私はウルト・ゴールに、宙域の絶対座標を伝える。「ここまで門球(ポータル)を動かしてくれ!」


「人使いの(あら)い奴め、時間を(さかのぼ)って開いた門球(ポータル)を動かすのは、簡単ではないのだぞ。」しばらくして、また融合炉の音が高まった。ボットが新たな座標に投入されたのだ。


 ◇ ◇ ◇


送られてきた画像には、もはや眩しいガンマ線の光束はない。ドーピンが消滅した座標から、数百光年は離れたのだ。

そして広大な宇宙空間に、白く光を反射するゾラック16の船体(シルエット)が浮かんでいた。ゆっくりと回転している。尾部には、焼け焦げた跡があった。


「おお、いたぞ。では船は、やはりガンマ線に触れたのだな。」私はそう言いながらも、船が難破したことを喜ぶ自分が可笑しかった。

「いや、奴はうまくやったはずだ、放射線を(さえぎ)ったのを、儂は確かに見た。」


私は記憶装置(ストレージ)から、あの瞬間の画像を呼び出してみた。

確かに、ドーピンがいた場所に光が見える。ガンマ線の盾になったのだ。そして、手前に見える船影にも光が見て取れるではないか。


違和感を覚えた。これは私の見た過去ではない。

「おい、この二つ目の光は、さっきは無かったよな。」

「そうだな、儂も覚えがない。これは、過去が改変されたのだ。二つの事象(じしょう)が精密に同期されたので時空震は起こらず、儂らにも感知できなかった。」


「誰がやった? 評議会の仕業(しわざ)か?」

「いや、違うな。奴らは信条として、歴史には手を出さん。例えドーピンによって改変された過去であっても、時を(さかのぼ)って修正することはせぬはずだ。」


 ◇ ◇ ◇


ここで突然、私は自分の使命を悟った。

「ならば! 私だ!」

私が船のAIに転生したことも、AIの身の上ながら魔力を振るえることも、そして魔法の行使(こうし)のために今や魔石を船内に保持することも、その理由が()に落ちた。


全ては、この時のためだったのだ。

(続く)

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