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その1 ゼロとマイナス

入学試験なんて、聞いてない。

私があせっていると、部屋に誰かもう一人、入ってきた。いかにも学校の先生って感じ。横にいたジローが「僕の母だよ。」って言った。


魔族で聖母のお婆様に、よく似てる。きっと親子ね、でも角が小さいから人族との混血ミックスだわ。この人も、とっても綺麗。

このお母様に似たらジローはイケメンだったのに、人族のお父様に似たんだわ、残念だったわね。


その先生は、私を優しい目で見ると、「カーラさんね、どうして進学したいのか、先生に教えてくれるかしら?」って聞いてきた。

「えっと、私の家の薬草の仕事も嫌いじゃなくって、でも、もっといろんな仕事もあるかなって思って、です。」緊張して、上手く話せない。


「自分の可能性を広げたいのね、とてもいいことだわ。」先生が、優しくフォローしてくれた。そして、村の学校で習ったことを、いろいろと聞かれたので返事をした。読み書きと算数、剣術と、それに工作と料理、そして村の決まり事なんかです。


「得意な科目はあるかしら?」と聞かれたので、「剣術と算数です!」って答えた。家で薬草を出荷するとき、計算するのは私の役目なんだ。


「あら、算数が好きなのね。じゃあ、問題を出すわね。」

「13足す25は、いくつ?」 簡単だ、「38です。」

「そうね、では38引く19は?」 これも簡単「19です。」

「じゃあ、19を2倍すると?」 えーと「38です。」

「38を5で割ると?」 うーん「7で、余りが3です。」先生はニッコリ笑った。


「少し難しくするわね、3を2で割って、少数まで言えるかしら?」

「はい、1.5です。」

「それを分数で言うと?」

「2分の3だから、1と2分の1です。」


「じゃあ、そろそろ最後ね。5引く5は、いくつ?」

「なくなります。」

「あら、では5引く8は?」

「えーと、引く方が大きいから、引けません。」


「うん、そうね。いくつ足りないかしら?」

「3足りません。」

「なくなったことをゼロと言うの。そして足りない3を、マイナス3って言う数で表すのは、分かるかな?」

「あっ、はい。」


「じゃあ本当に最後。5引く8はマイナス3ね、じゃあ13引く22は?」

「えっと、マイナス9で、合ってますか?」


先生は、にっこり笑った。「賢い子ね、貴女あなた。よく出来ました。」褒めてくれたけど、私は今のでびっくりしていた。

ゼロとマイナスって数字があるんだ! 数がなくなるとゼロで、その先にマイナスの数字があるなんて! 何だか先生の言う通り、とても賢くなった気がした。


先生は、三人のお婆さんに向き直った。「お母様方かあさまがた、この子は、基礎はできているわね、そして理解力もある。だけど一足飛びには高等学校に進学は無理だから、入学前に補習をさせて下さい。」って言った。


先生は、私の肩に両手を置いた。「高等学校のお勉強は、少し難しくなるわ。でも貴女なら大丈夫、足りていないところを、進学前に学んでおきましょう。できるだけ早くいらっしゃい。待っているわね。」そう言って、先生は部屋から出ていった。


◇ ◇ ◇


人族のお婆様が、「よーし、勉強の方は合格みたいだね。」と言って立ち上がった。「次は、お嬢ちゃんの学費をどうするかだ。ついておいで。」そうして案内されたのは、治療院の診察室だった。


部屋の中は、薬草の匂いがした。治療が終わった患者さんに渡している湿布薬が、その匂いの元だった。

治療室のその先の部屋に入る。そこには壁の棚一面に、束ねられた薬草や、細かくされてビンに入った薬がズラリと並んでいた。


部屋の真ん中で、白衣を着た人がゴーリゴーリと薬草を磨り潰して粉にしている。これは薬研やげんっていう道具だ。うちの工場にも、いくつかあって、これで薬草を細かくして出荷するときもある。


「お嬢ちゃんは薬草屋の娘だけど、この道具は知ってる?」

「はい、薬研(やげん)ですね。たまに私も使ってます。」

「ほう、そうかい。なら話が早い。お嬢ちゃん、学校のない時には、ここで働かないか?」

「働いた分の給金は払うよ、それを学費の足しにするのさ。」


えっ、それって嬉しい。「やらせて下さい!」って返事をした。

「それとこれは相談だが、お嬢ちゃんの家の工場からあらかじめ粉にして出荷してもらうと、こちらも助かるのさ。薬草の粉の出荷を、もっと増やせないものかねぇ。もちろん手間賃は乗せてあげるよ。」


「その手間賃で、君んの工場で村の人を雇えないかな? 親父さんに相談してみないか?」傍にいたジローが考えてくれた。うん、名案だと思うわ。


「家族だけで働いてるんだろ? 人を雇っていないんだろ? その手間賃で村の人を雇ってさ、粉の出荷割合を増やせば売り上げは増えるし、薬草そのものの出荷量も増やせるかもな。」

「ここで作った湿布薬などは、この街から海辺の町へも渡っている。だから薬草の粉がいくら増えても、大丈夫なんだよ。」院長のお婆様も、そう言ってくれた。


「私の家の薬草が、お薬になって海辺の町まで届いているなんて、知りませんでした。」

「学校を卒業したら、お嬢ちゃんがそんな商売をしてみるのも、面白いかもしれないねぇ。」とお婆様が言うと、

「剣術に自信があるならさ、薬を運ぶ商人を護衛する仕事だってあるぜ。」と、ジローが教えてくれた。


そう、これよ! 私は、そんないろいろな事をやってみたいの! 私はすっかり嬉しくなってしまった。

(続く)

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