その6 サナエの抱擁
「サユリ、貴女、神様の力を受け継いでいるでしょう。」ミリアの眼が光った。
「えっ、どうしてそれを?」思わず私は、反応してしまった。
「貴女のお父様が、ジロー君に言ったのよ『我が友の治療師カズラに、よく似た波動を持っている』ってね。」
「ジロー君は、父と会っているのね。」
「そう、多分その時に一度だけね。その場に、私たちもいたの。去年の夏休みよ。」ミリアがぐいと身を乗り出してきた。
何だか私の知らないところで、いろいろと動きがあったみたい。
「どこまで知ってるの?」私は、迫るミリアの顔を、静かにのぞき込む。
「貴女のお父様に、神様が宿っていたこと。その神様は、不思議な力で貴女のお父様を助けていたこと。そして、お父様からその神様は離れたの。ジロー君やカーラや私の目の前でね。」
夏休みかぁ、私は思い出す。
私がハルウシからサホロに戻った後で、父から神様が離れたって聞かされたっけ。
「あの場面は、今も目に焼き付いているの。だからルメナイ様の娘の貴女が、ジロー君を見て反応したって聞いて、ピンときたわ。」ミリアも、静かに言葉を返してきた。
仕方がないわね、私はこの二人に秘密を打ち明ける決心をした。
「分かったわ、確かに私は他人の波動が見えるわ。魔力もある程度は測れるの。だけどそれだけだよ、ジロー君の波動に驚いたのは確かだけど、それだけ。」
するとミリアが言った。
「貴女、ジロー君を呼び止めて、何やら熱心に話したそうじゃない。それを見たサナエ様は、かねてからの取り決め通りにクレア様に相談をした。そしてお師匠から私に指示が来たのよ。今のうちに、カーラと私のことを貴女に話しておきなさいって。」
前から分かっていた、ってこと? まだ私の知らないことがあるみたいね。でも、だんだん私、腹が立ってきたわ。
「ふーん、よく判らないけど、それって私がジロー君にいずれ惹かれる、ってことかしら?」
「そうらしいわね。」
「それを今、私に聞かせるってことは、私の恋の楽しみを奪うってことじゃない。」
「そうなるかもね。」
「ぜんぜんタイプじゃないけどさ、それってひどくない、ミリア。」
「だって貴女たち人族は、一夫一妻に拘るじゃない。でもこのままでは、ジロー君の嫁は三人ってことになるわ。」
「そうだったわね、魔族や獣人族は多夫多妻もアリだったわね。でも私は、もしも好きになった男に、他に嫁がいるのは嫌よ。」そういって、私はミリアを睨んでやった。
「貴女は素敵なお友達だわ。でも、彼を独り占めにしたいって言うのなら、私たちは譲るつもりはないの。できれば穏便に済ませたいけれど、私も護国卿の娘 戦いになったら負けるつもりはないわ。そして言っておくけど、カーラも強いわよ。」ミリアは、私をキッと睨み返してきた。でも、すぐに眼の光が弱まったのが分かった。
「ミリアは手強そうね。確かに敵にしたくない。そしてカーラが相手でも、私に勝ち目は無さそうね。私には、魔法も剣技もないもの。」私は思わず溜息が出た。
「だいいち私はまだジロー君に恋したわけじゃないし、ジロー君が私を好いてくれるかも分からない。だから、今は喧嘩はしないわ。」
眼の光を消したミレアが、ゆっくりと私の手を取った。
「ご免なさいね、今日言いたいことは、これだけ。貴女の知らないところでいろいろあったのよ。今度、貴女のお師匠サナエ様と、じっくり話をしてちょうだい。」
◇ ◇ ◇
学校では新学期が始まった、卒業して一度故郷に帰っていたサユリは、再びサホロに戻ってきたところだ。
学校の寄宿舎に置いてあった私物は、既に治療院の職員宿舎に移してある。あてがわれた部屋の扉を開けた。ここが、これからの私の住処ね。
サホロに戻り、同じ敷地に建つ宿舎とはいえ、サユリにはその部屋の空気が新鮮だった。
明日は初出勤だ、今日のうちにお師匠様に会いに行こう。挨拶を交わした後で、話は先日のミリアとの会話に及んだ。
「そう、そんなことがあったのね。変に身構えたのかしら、あの娘。でもね、大昔に見た私の夢の話を、貴女に伝えても如何かしらって考えて、とりあえずジローの周辺を知っておいて欲しいと思ったのよ。ほら貴女、ミリアさんとは親しかったでしょう。」
そう言って、サナエ院長様は昔見た夢のお告げを話してくれた。
私がお師匠を継ぐって、身が震えるほど嬉しかった。だけどジロー君を支えるのが私って、本当なの?
「あんなことを聞かされたら、変に意識しちゃいます。今度ジロー君と会ったら、私どうしたらいいのでしょう?」
「あら、普通に話せばいいじゃない。あの子は自慢の孫だけれど、好きになるかどうかは貴女次第だわ。そうでしょ。」そう言って、お師匠様は私を優しく抱き締めてくれた。
◇ ◇ ◇
今日から僕も二年生か、僕は自室の机の前で悩んでいる。
ミリア先輩は、卒業まであと一年だ。結婚は卒業してからでって言われてたけど、そろそろ先輩とはちゃんと話さなくっちゃなぁ。
それより、僕がカーラに告白するのが先だよなぁ。嫌われているとは思わないけど、ミランダさんとの一件のあと、何だか距離を置かれている気がする。
「爺っちゃん、相談していい?」ボットに話しかければ、画面が明るく灯った。
「僕、カーラに何て言えばいいの?」
「恋愛に関する質問には、答えんぞ。自分で悩むものだ。私も、四人の女しか知らないのでな。しかも、私から告白した経験はないのだ。お前に教えてやれることは多くない。」爺っちゃんの返事は、いつになく冷淡な気がした。
ちょっと、ムッとした僕だ。
「四人もいれば十分でしょ。」と言いかえす。
「告白したことがないの? はいはい、爺っちゃんはモテ男で良かったですね。」僕は、画面に向かって文句を言ってやったのさ。
(続く)




