その5 三人目の嫁
さあ、畳みかけるわよ。
「そしてミヒカ先生のお父様こそ、このサホロで治療院と学校を開き、この街を大きく発展させた功労者、賢者ジロー様なの。歴史の時間で、習わなかったかしら?」
「うん、知ってるわ。だって、この敷地にお墓があって、そこに銅像も立っているじゃない。そうか、お爺様の名前を継いだのね、彼。」サユリが、うんと頷いた。
そろそろ、核心に迫るわよ。
「賢者ジロー様には、三人の奥様がいたの。クレア様の他には、人族のサナエ院長様、つまり貴女のお師匠ね。そしてもう一人は、カレン校長先生よ。だからジロー君にとっては、クレア様もサナエ様も、そしてカレン様も、お婆様ってわけ。」
サユリは、眼を大きく見開いている。
しばらくして、サユリは胸に手を当ててため息を吐いた。
「ふう、ミリア。もうお腹いっぱいだよ私。ジロー君って、聖母クレア様のお孫さんなのね。凄い家系を持っているじゃない。名門の跡継ぎ様ってことか。人は、見た目じゃあ分からないわねぇ。」
そこでサユリは、不思議そうに私を見てきた。
「それで? 確かに驚いたけど、ジロー君の素性を教えてくれるために私を呼んだわけ?」
さあて、最後の仕上げだわね。
「私ね、ジロー君に結婚を申し込んでいるの。そして、ジロー君はこのカーラのことが好きなのよ。」
「えっ! そうなの? それってミリアの横恋慕ってこと?」
「ううん、私は二人目の嫁でもいいってこと。」
「ええ~っ? カーラさんは、それでいいの?」
「うん、私もジローのことを意識しているうちに、好きになっちゃったかも、でもミリア先輩は私のお姉さんみたいなものだから、ジローがいいならそれもありかなって、、、」
「ふーん、複雑だわねぇ。で、どうしてそれを私に聞かせるわけ?」
「よ~く聞いてね、賢者ジロー様の奥様は、人族のサナエ様、魔族のクレア様、そして獣人族のカレン様の三人だったのね。」
「うん、そうなのね。」
「ジロー君は、その名の通り賢者ジロー様の直系の子孫。そして魔族の私のお師匠はクレア様、私もいつかは賢者、そして聖母を目指しているの。このカーラも後継者よ、あの大剣を振るう美しき鬼神と呼ばれた獣人族カレン様の、ね。」
「えっ、待って、待って、何? 何? それって、」サユリは、青ざめたり、頬を紅潮させたりで忙しい。
「そして、人族で薬師を極めたサナエ院長様の後継者が、ここにいるってわけよ。」これが私の最後通牒。さあ、どうするかしら。
「ええ~っ、何で私なのよ~!」サユリが大きな声を出したものだから、多目的室にいた皆がこちらに振り向いた。
◇ ◇ ◇
何だか、変な方向に話が進み始めたんですけど。ミリアったら、とんでもない事を言うじゃない。
確かに治療院ですれ違った時に、大好きなカズラ様と同じ波動を感じて驚いたわ。あの時にジロー君に興味を持ったのは確かよ。
なるほど、お母様がミヒカ先生で、そのまたお母様が聖母クレア様なのね。そしてあの賢者ジロー様の血を引いているなら、私が尊敬するカズラ様と波動が似ていて当然ね。
だけど、私だって選ぶ権利があるわ。運命で決まってるみたいに、押し付けないで欲しいわね。
だいたい何? カーラが一番目の嫁で、ミリアが二番目の嫁でもいいって、それって私にジロー君の三番目の嫁になれって言ってるわけ?
私は、三人の中で一番年上なんですけど。最初の嫁なら私でしょうよっ!て、そうじゃなくって、何で嫁が三人も必要なの!
◇ ◇ ◇
「待って、待って、ミリア! 私、ジロー君とは一度話したきりなのよ!」静かな夜の多目的室で、サユリの狼狽した声が響いた。
ほーらね、やっぱりクレア様から聞いた通りだったじゃない。と私は納得する。
「サユリ、その時にジロー君から感じるものがあったでしょ! ハッとしたように立ち止まったって聞いたわ。それを見ていたサナエ様が思ったんだって、『ああ、とうとう出会ってしまった』ってね。」
サユリが目を丸くした。ふふん、図星だったみたいね。
次は、私のとっておき情報よ。
「貴女、お父様に宿っていた神様の力を、受け継いでいるでしょう。」
(続く)




