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その3 薬師見習い

魔法のお師匠であるクレア様から、ジロー君にもう一人の嫁候補がいると聞かされたのは夏休みの特別講義の時だった。


あれから、もう半年が過ぎたのだ。

短い秋が終わり、冬になって雪が降り、冬休みが過ぎた。そして雪が溶けて、サホロの街には春の足音が聞こえている。あと数日で、ミリアの高等部二年生としての生活も終わる。短い春休みを(また)げば、ミリアも三年生だ。


相変わらずお昼休みや放課後には、見習い治療師として治療院を手伝っている。

最近メキメキと回復魔法の腕を上げているジロー君には負けたくない。でもジロー君は、生き物係の技能(スキル)を持っている。この知識があるとないでは、治療の成果に大きな差が出るのだ。


もっと私も、生き物を学ばなくっちゃ! いつかは私も、お祖父様(じいさま)の生き物係の技能(スキル)を駆使できるようになりたい。

(ほか)の魔法の修練も大切だけれど、あと一年は回復魔法を頑張って、卒業したらこのサホロの治療院で働きたい。それがミリアの目標なのだった。


 ◇ ◇ ◇


治療院では、新年度に三人の薬師を雇うと聞いた。

三人とも高等部の薬学課程を今期卒業する者たちだから、ミリアよりは一年先輩だ。その一人に、顔馴染みの人族の娘サユリがいた。


出会った頃は、治療院の職員(スタッフ)だと思い込んでいたほどだ。患者のあしらいが上手(うま)く、治療師の補助も実に(さま)になっていた。だがそのうちに、ミリアより一年先輩の学生だと知らされた。ミリアと同じで、やはり空いた時間に見習い薬師として治療院を手伝っているのだった。


聞けばハルウシの網元の娘と言う。隣町オタルナイから出張してくる治療師の先生を長年に渡り手伝ってきて、薬師を目指すようになった。その治療師こそが、サナエ院長の長男カズラ様。つまり、ジロー君の叔父様と言うことになる。


そして網元と言えば、夏休みの終わりに魔物を追った時、ハルウシの手前で出会ったあのルメナイ様だ。あの貫禄(オーラ)(あふ)れる方が、サユリの父親なのだ。後でジローから聞いたところでは、ルメナイ様には神様が宿っていたらしい。彼女もきっと、その神様から何かを受け継いでいる。そんな気がしている。


治療院で知り合って話をするうちに、お互いに大家族の末娘であることで意気投合した。彼女は誰からも可愛がられる明るい性格で、勉強を欠かさない努力家だ。高等部では、今年の主席で卒業する才女でもある。


見た目では私の勝ちだわね、とミリアは思う。成績だって、来年の首席は私がなってみせるんだから。

サユリは美人というよりは、可愛いらしい娘だ。相手を(なご)ませる笑顔と、患者を励ます不思議な波動を持っていた。でも芯は強い、はっきりものを言う性格には才女としての片鱗を(のぞ)かせる。


雰囲気が治療院長サナエ様によく似ていて、サナエ様も彼女を教え甲斐のある愛弟子(まなでし)として見ているようだ。ミリアは、ある時 気がついた。

ジロー君の嫁候補の一人って、絶対にこの()だわ。


そう悟った後のミリアは、ますます積極的にサユリと接するようにした。

将来はジローの嫁同士、そして今でも気が合う治療院の仲間、私がこの治療院で回復術師として腕を振るう頃、きっとサユリもこの治療院を代表する薬師に育っているだろう。この()とは、きっとお互いを高め合う存在。


もしかするとジロー君も、将来はこの治療院で働いているかも知れない。カーラ、私、そしてこのサナエがジロー君を嫁として支える未来って、悪くない。だったら、今のうちから仲良くなっておかなくっちゃ。ジロー君を独占したいとは思わないし、嫁同士で張り合う必要なんてないもの。


私は貴族の生活には戻りたくない、職業婦人として将来は自立するんだわ。目標は超一流の回復術師にして高等部では魔法の特別教授クレア様よ。ミリアの決心は固かった。


 ◇ ◇ ◇


ある日の夜、ミリアは寄宿舎の多目的室に二人を呼んだ。


「この三人で顔を合わせるのは、初めてよね。カーラ、こちらはサユリさん。今日の卒業式で見たわよね。首席で卒業した方よ。」

「あ、はい。カレン校長先生の祝辞(しゅくじ)を受けて、答辞(とうじ)を読んだ方ですよね。」

「サユリさんは薬師、私たち二人は治療院の見習い仲間なの。少し前からのお友達。」

「よろしくね、カーラさん。」サユリは、にっこり微笑んだ。カーラのピコピコ動く耳や、くるくると回る大きな眼が、とても可愛いと思うサユリだ。故郷のハルウシでは、獣人族はまだ珍しい。


サユリは、今日が卒業の日だった。

学生生活の終わりと共に、近々この寄宿舎を出る。一度は故郷に帰り、その後は同じ敷地に建つサホロ治療院で正職員としての日々が待っている。


職員用の宿舎もこの敷地内にある、そして独身者の多くは学校と治療院とで共用する食堂を利用する。だから三人がまた会うこともあるのだけれど、同じ寄宿舎住まいのうちに話しておきたい。そうミリアは考えたのだ。


「ねえ、サユリ。カーラと同学年で、もうすぐ二年生になるジロー君って、知ってる?」

さあ、いよいよだ。ミリアは用件を切り出した。

(続く)

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