その1 女神との再会
「なるほどなぁ、お前はあと数億年で神となり、新たな宇宙を産むか。」私の声は、電脳空間で呆れたように響いたことだろう。
「それまでは、この地球に住まう我らとしては、頼もしい守護者を得たということだ。」と、これは兄貴タローの声だ。
神と対話したというウルト・ゴール、今その一部始終を聞かされた。
既に超種族としての知力を取り戻したばかりか、神に頼まれて過去に戻りサナエに神託を告げたのだという。
「そうか、サナエが私を待っていてくれたのは、あの時に治療ポッドの中でお前の声を聞いたからなのだな。初耳だったぞ。」
「どうだ、儂に感謝するがいいぞ、ジローよ。」
「確かにな、サナエが支えてくれたから、今の治療院がありサホロの発展がある。しかもお前の、いやルメナイの末娘が孫のジローに嫁ぐとは。私とお前には、いろいろな因縁があるのだなぁ。」
「儂も、思ってもみないことだった。」超種族の声にも、驚きが含まれていた。
「そのサユリとやら、サナエはその娘が自分を継ぐ者だと知っているのか?」と、これはタロー兄の指摘だ。
「神から告げられた通りに伝えたまで、その娘が既に白い花を持って現れておるものか、儂には分からんよ。」
「そうか、今度サナエにそれとなく尋ねてみよう。ところでウルト・ゴール、お前は珍しく興奮しているね。」
「当然だろう、儂の心は騒いだままさ。つい最近まで、人間をやっていたものでな。お前たちこそ、儂の話をよくもすんなりと聞けたものだ。」
「いや、驚いているぞ。だがお前たち超種族は、神に近いところにいると思っていた。そんなにお前が動揺するのも、また驚きだ。」
「ふん、人間だった癖は、なかなか抜けきらんものよ。」ウルト・ゴールの言い訳が、私には微笑ましい。こいつ、本当に人間臭くなった。
「ところで、完全体に戻った儂としては、この空間がちと窮屈だ。人狼の依代の再構築が済めば、儂はこの空間を出ようと思うが。」ふーん、この広大な電脳空間でも、超種族には狭いのね。
「出て、どうする?」
「五次元に展開するのが、儂らの常態だ。この三次元時空には依代に宿って、姿を置くとしよう。そもそも内核の自動機械に憑依しているのだ、五次元展開しても儂の本体はこの時空から動かんよ。」
「分かった、ではそうしてくれ。」タロー兄がそう言って、我々は数日後の依代の仕上がりを待つことになった。
「せっかく、お近づきになれたのに、残念です。」AIソルマールが、呟いた。
◇ ◇ ◇
人狼の依代が、治療ポッドから出る時が来た。
裸の人体に、首から上には狼の頭が乗っている。見慣れれば、これはこれで風格を感じさせる生き物ではある。
その体には簡素な衣服をまとって、人狼はソルマール号の乗員控室の椅子に座り、両手を机に伸ばして寛いでいる。
そして私とタロー兄は、それぞれ傍に浮かんだ小型ボットから、これを見ている。AIソルマールも、船内カメラでこれを見ているはずだった。
機械に住む知性体となった今でも、形のある者と話すときはこの方が好ましい。私も、人間だった頃の癖が治らない。
「素晴らしい! この異種間合成体には活力が漲っている。不安定さをまったく感じないぞ、流石に三次元の肉体修復は上手いものだ。」ウルト・ゴールはご機嫌だった。
「さて、それでは残りの私も電脳空間から離れるとするか。」人狼はそう言ったが、ふと首を傾げて見せた。
「どうした?」
「いや、本来の五次元展開に戻れば、奴の気を引くだろうと考えてな。」人狼が、ふふんと小さく口を開けた。笑ったのだ。
「キュベレだな。」
「そうだ、突然この場所に儂の波動が出現すれば、超種族ならば嫌でも目に付く。だが良い機会だ、この宙域の管理者殿にも詫びなくてはならんか。」
人狼が、ふと目を閉じて「今、展開した。」と言った。
すると部屋の椅子の一つに、女神キュベレの姿が実体化した。例のゾラック16の制服を着た姿で、瞬時にだ。
「驚きました、ウルト・ゴール。復活したのですね。しかも、この有様は。」ぐるりと周囲を見渡した。
(続く)




