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その9 仲間を呼ぶ声

爺っちゃんの船は、亜音速(あおんそく)で飛び始めた。

重力波推進で音もなく、慣性が中和されているから加速も感じない。時速は千mくらい出てるはずだけど、乗り心地は快適だ。本来は宇宙船だから、もっともっと早く飛べる。何もない宇宙空間では、亜光速(あこうそく)まだ出せるんだ。

だけど、この星の大気圏では、いつもこの程度の速度に抑えてる。地上を衝撃波(ソニックブーム)で叩きたくないからね。


狼の移動速度は、追っているボットの計測によると時速30kmほど。これは結構早い。

優雅に飛ぶ魔動機では追いつけないし、もちろん飛翔魔法でも無理だから、ゲルタン隊もこの船に乗ってもらった。ちなみにゲルタン隊が乗ってきた魔動機は、爺っちゃんが後を追わせている。

今頃は、僕を大人にしてくれたミランダさんも、この船の速度に驚いているだろうな。だって、大型竜種よりも早いんだから。


 ◇ ◇ ◇


狼の先回りをして、着陸した。

ここはちょうど森を抜けて平原が広がる場所だ、今日は北風が吹いていて海の匂いがここまで運ばれてくる。

アキラの生まれ故郷までは10kmもないはずさ。近くには、北はハルウシと南にサホロを結ぶ街道が伸びているのが見えた。まだ朝だから、行き交う荷馬車も見えないけれど。


いや、北の方角に遠く、一台の馬車が見えるな。こちらに近づいているようだ。

まずいぞ、ここで待ち受ける僕らが狼を叩くのが先か、その前にあの馬車が近くに来れば危険が及ぶかもしれない。

「あと2km、会敵(エンカウント)まで数分だ。」爺っちゃんの声が聞こえた。

僕ら一行(パーティ)とゲルタン隊は、それぞれまとまり横並びで迎え撃つ形をとった。


遠く空中にキラリと光るものがある、上空で狼を見張る小型ボットが陽の光を反射しているのだ。森が切れるあの辺り、あの下に奴がいる。

その時だ、ウオォ~ン、ウルルオォ~ンと鳴き声が聞こえた。


「狩りの開始の合図か、俺たちを見つけたな。」血気盛んなアキラが叫ぶ。

「違う! あれは戦いの遠吠(とおぼ)えじゃないよ!」カーラがそれを(さえぎ)って、するとゲラントがカーラを見つめた。

「ほう、娘よ。ではあの声には、どんな意味がある?」


カーラは、猫耳をそばだててピコピコと動かしている。場面を(わきま)えず、それを可愛いと思ってしまった僕だった。

「あれは仲間を呼ぶ声だよ。狼は集団行動するけど、はぐれてしまうこともあって、その時に仲間を呼ぶの。しかもあれは、目下(めした)の者が群れを呼ぶ声。狼の集団って、上下関係がしっかり決まっているからね。」流石にカーラは、詳しいね。


「なるほど、だとしても()せんな。」

「仲間がいるとは初耳だぞ。」爺っちゃんとゲラントの声が重なった。

「奴はこの星で一匹だけだって、爺っちゃんが言ったじゃねえか!」アキラが、爺っちゃんに(から)む。そんな事で()めてる場合かよ。


狼は、前進するのを止めたようだ。何かを待っているのか?

「どうする? こちらから近寄ってみるか?」爺っちゃんが()かしてきた。でもゲラントは、近づいてくる馬車に眼をやっている。

「立派な馬車だ、商人のものには見えん。誰が乗っているのだ?」

「えっ?」アキラが振り返る。そして声を上げた。

「あれは、網元様の馬車だ。間違いないよ、きっとルメナイ様が乗っているんだ!」


驚き、そして慌てるゲラント。

「何だと! よりによって、一番ご迷惑をかけたくないお方と、ここで出くわすとは。」無意識なんだろう、(ひげ)()きむしっている。こりゃ、ますます訳ありだぞ。


 ◇ ◇ ◇


相変わらず、狼は動きを止めたままだ。

そのうちに、馬車は僕らのところまで来てしまった。御者(ぎょしゃ)が降りてきて、扉を開ける。箱から姿を現したのは、立派な体格をした壮年の人族だった。


するとアキラが駆け寄って、男の前で(ひざまず)いた。「ルメナイ様、今年の奨学生に選んでいただいたアキラです。」

「おお、君か。覚えているよ。如何(どう)してここに?」

「はい、奴を、あの凶暴な魔物を、ここで待ち伏せているのです。」


ゲラントも、その男に近づくとアキラの横で跪いた。「親方様には、大変ご無沙汰しておりました。」

「お前はゲール、いやゲラントだったな。今は魔王国で活躍していると、アバパールから聞いていたぞ。お前の魔力が活かせて何よりだな。」

ルメナイと呼ばれた男は、ゲラントの肩に手を置いて優しく笑った。


「お前も、その魔物を追ってきたのか?」

「はい、魔王国領から追跡して(まい)った次第(しだい)。」

「凶暴なのか、その魔物は。人死(ひとじに)が出たか?」ルメナイさんは、顔をしかめて尋ねた。

(さいわい)にして死者は見ておりません。重傷者が出ましたが。そこの若者が見事に治療を(ほどこ)しました。」ゲラントが僕を指差した。


「ほう、」今度は僕を見つめるルメナイ網元、人族だから魔力はないはずなのに、何だか見透かされそうな深い目の色をしている。きっと凄い人なんだろうな、まとっている貫禄(オーラ)が、半端(はんぱ)じゃない。

「それは迷惑をかけた。私から詫びておこう。」ん? どう言う意味だ?


「君からは、我が友オタルナイの治療師カズラによく似た、いや、より強い波動を感じるな。君も賢者ジローの一族か?」ん? どうして判るの? 波動って何?

「はい、亡くなった僕の祖父が、そのジローです。」とりあえず返事をした。その爺っちゃんが、ここのボットに宿っていることは言わずにおいた。


「親方様は、今日はどうしてお出ましになられましたか?」ゲラントが問い掛けると、驚くべき返事が返ってきたのだった。

「奴に呼ばれたのだ、あれは私を(した)ってここまで来た。」

(続く)

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