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その8 一匹狼

「奴を追う方法を、考えてみた。」

爺っちゃんの声が、僕の横に浮かんだ小型ボットからも聞こえている。これはつまり、朝早くから合流したゲラント隊の面々六人にも、聞かせてるんだ。僕らの一行(パーティ)の頭の中には、同じ声が届いているからね。

「生体波動が追えなくなった、つまり奴は新たな体を得たと考えるべきだ。」


「魔法で焼かれて、奴はまた大きくなろうとするはずだ。そこで、あのウサギの身体と同じか、それよりも大きな陸上動物を探そうと思う。」

「どうして陸上動物なのさ? ひょっとしたら鳥でも食べて、今は鳥の形をしているかも知れないぜ。」アキラが、混ぜっかえした。

「奴の攻撃を見たところでは、高くは飛び上がれない。たまたま地上に降りた鳥を(つか)まえたとしても、ウサギの身体より大きな鳥は(まれ)だ。その選択肢はなかろうよ。」爺っちゃんが、冷静に応じた。


「ある程度の大きさを持つ動物の生体波動を、ボットを展開させて(そら)から探る。もちろん人間や竜族の波動は、除いておこう。多くの動物が検出されるだろうが、その中で直線的に北を目指すものだけに着目(ちゃくもく)するのだ。これで、かなり絞り込める。」

「そんなことができるのですか。」ゲラントが髭を撫ぜながら、驚いた表情(かお)だ。


「確かに、目的をもって真っ直ぐ動く動物は少ないよね、多分。」僕は納得する、流石(さすが)に爺っちゃんは頭がいい。

「その目的が、まだ分からないのだけれど、」と、ミリア先輩。

「海を目指している、とか?」これはカーラだ。尻尾がふらふらと揺れているのは、考え事をしているときの癖だ。サホロに来てから大好きになったという、海で捕れる魚のことでも考えているのかしら? 僕はその可愛い尻尾に、つい目を奪われる。


「やっぱり、俺の故郷(むら)に向かってる気がしてきたぜ。」アキラが顔をしかめたら、それを見たミランダ姉さんが尋ねてきた。

「ハルウシだな、君の故郷(むら)には何があるの?」

「昔はただの街道沿いの村だったけど、俺の村が大きくなってくっついて、今では一つになった。ちょっとした漁師町だぜ、沢山の人が住んでいてルメナイ網元が(おさ)めてる。それと缶詰工場と、そうだ発電所もあるぜ。」

「缶詰工場に発電所か、ウサギ野郎の目的じゃない気がするな。」僕は直感のままを言葉にした。


「ルメナイ様か。私としても、もちろん魔王国としても、あの方の村に迷惑をかけたくない。なんとかその前に、奴を排除したいものだが、」

「おじさん、俺達の網元を知ってるのか?」

「ああ、昔な。世話になったことがあるのだよ。」遠い目をするゲラント、こりゃ何だか訳ありだな。


 ◇ ◇ ◇


爺っちゃんの船が、沢山のボットを尻から吐き出した。一斉に空に舞い上がる。これから地上に生体波動の網をかけるんだ。

「画面に出すぞ。」地面に置いた大型ボットの上面には、地図が浮かび上がる。たちまち画面は、赤い光で埋め尽くされた。


「うわあ、いるいる。これ、全部が動物なのか?」

「そうだ、おおよそウサギより大きな哺乳類などを探知している。」

「これはっ!」ゲラントが絶句している。「探索魔法より、(はる)かに(すぐ)れておりますな。これが科学技術というものですか!」


「解析を加えるぞ、北に向かう光点だけを残す。」しばらくすると、赤い光点が見る見る減り始めた。一定時間継続して北に向かう光点だけが残る、奴を示しているらしき候補がどんどん絞られていく。しばらく眺めるうちに、赤い光点は三つになっていた。

「よし、良かろう。これからは個々にボットで追跡する。」


やがてボットから動画が送られてきた。ボットの画面が三分割されて、上空から見下ろした画像が表示される。一頭は暴君熊(タイラントベア)、もう一頭は赤色狐(あかいきつね)、そして最後にみどりの、いや灰色狼だった。この中の一匹が、あのウサギ野郎が姿を変えたやつなのか。


「カーラ、野生動物に一番詳しいのは貴女(あなた)だわ。どう思う?」ミリア先輩がカーラの意見を聞く、子供の頃から森の動物に馴染んでいるもんね。

「私なら狼を疑うわ、普通は群れで行動する、単独行動は変だよ。(つがい)を探してる若い個体なら一匹もありだけど、これは大きい。成獣に見える。」

「この熊はでかいよな。体が小さくなったウサギ野郎が、こんな奴を食えたとは思えないぜ。」アキラの指摘は(もっと)もだと、僕も思うよ。



「この時間帯なら、熊も狐も巣に戻る時間だわ。直線的に移動していても、不思議はない。だけど狼が一匹だけで、しかも真っ直ぐに動いているのは怪しいわ。」なるほどね。動物を良く知るカーラの意見には、説得力があると思ったさ。


「よし、ではこの狼を追うことにしよう。念のために、(ほか)の二匹にもボットの見張りは付けておく。」爺っちゃんは、船のハッチをパカリと開けた。

僕ら四人は操縦室に直行だ、そしてゲラント隊には悪いけど、またバウラと一緒に貨物室に入ってもらった。


だって、この船の操縦室は狭い、本来は一人か二人用なんだ。でも後部の貨物室は、収容してあった大量の探査ボットを今は数機しか積んでいないので余裕がある。

いつもなら、この空間はバウラ専用なんだけど、ここなら六人が詰め込める。


窓はないけど、積んであるボットの表面に、爺っちゃんが外の様子を映し出してくれると思うよ、うん。

(続く)

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