その6 初めての
怪我の痛みで疲れ切った顔だけど、もともとは綺麗なお姉さんだ。歳は僕より十くらい上かな。
ミリア先輩も綺麗だけど、見比べれば先輩はまだ美少女の類いだ。この女性には、整った顔立ちに均整の取れた体、大人の女性の成熟した美しさがあった。
包帯を解いて現れた胸のふくらみも、ミリア先輩に負けず豊かで形もいいみたい。そんな見事なおっぱいが、おぞましく傷ついているのが気の毒だった。
僕は水属性で細かな霧を作り出すと、風属性で患部に吹き付けていく。傷を丁寧に洗って、蛋白分解酵素を含んだ魔物の消化液を流し落とすのだ。
「次に解毒魔法に移ります。痛覚緩和は、維持できますか? 僕の方でやってもいいですけど?」
「ああ、頼めるなら、そうしておくれ。朝から半日かけ続けだ、正直疲れてるのさ。」
「分かりました、それでは。」僕は闇属性の波動を練り始める。患部に周囲からの光を収斂させて闇に転じていく。
「見事な手際だ、ジローや。」爺っちゃんが褒めてくれた。
ふう、とお姉さんが溜息を吐いた。
「坊や、人族のくせに、こんなに闇の波動が使えるなんて! あんた、私より数段上の実力だ。お陰で楽になったよ。」
「このジロー君のお祖母様は、あの聖母クレア様ですもの。魔素量も、そんじょそこらの魔族より大きいわ。」ミリア先輩が威張ってる。はいはい、でも僕より先輩の方が、魔素量もレベルも上ですけどね。
「何と、クレア様! 我らがお仕えするオーレス様の姉君じゃあないか。そうかい、坊やは王家の血を引いているのか。こりゃ、恐れ多いことだねぇ。」僕の治療を受けながら、お姉さんは魂消た表情をしてみせた。
◇ ◇ ◇
「ここの治療はジローに任せよう。私たちは、先程の魔物を追おうではないか?」爺っちゃんの声が頭の中に聞こえた。そうだよね、必要なら離れていても、爺っちゃんの賢者のスキルで治療ができる僕だ。
「そうだね、生体波動で追跡できるのなら、早めに追いかけた方がいいよ。」僕は治療で手を動かしながら、子機から仲間だけに話しかけた。
ミリア先輩がゲラントに向き直る。
「ゲラント様、ここはジローに任せましょう。私たちの船で、魔物を追跡いたしませんか?」
ゲラントは、治療を施す僕とお姉さんを交互に見下ろす。
「ミランダ、それで良いか? 傷の具合はどうなのだ?」
「はい、隊長。この坊やの魔法は本物です。だいぶ楽になりましたから、隊長は魔物を追ってください。」
「分かった。では、そうさせてもらおうか。」
僕とこの女性、ミランダさんって言うんだね、二人を残して皆はこの魔動機から降りていく。
「アキラ、無茶するなよ! ミリア先輩の指示をよく聞くんだぞ!」俺は、仲間の背中に声をかけた。
「おう、今度は飛び出さねぇよ。」アキラは僕に背を向けたまま、片手を振って船から出て行った。
◇ ◇ ◇
よし、解毒魔法が終わった。次は、いよいよ傷んだ組織を修復していく。
「幸い、骨までは侵されていません。これから筋肉と上皮組織に、傷の修復魔法をかけていきます。」ラムザで一度経験した施術だから、今回は僕一人でもやれそうだ。まずは溶かされた筋肉繊維に対処する。
筋肉が修復できたら、これを筋膜で丁寧に覆っていく。周囲の組織に合わせて、今度は表皮下に脂肪層の復元を始めた。引き締まった体をしていても、ミランダさんは女性だから、ラムザに比べれば脂肪層は厚めだな。
脂肪組織を盛って、その上に表皮を張っていく。うん、我ながら上出来だ。豊かで形の良いおっぱいが、目の前にあった。
そうしたら、急に僕は恥ずかしくなった。こんな綺麗なおっぱいを、僕はしげしげと見つめていた。場面によっては、手を触れさえしたのだ。頬が熱くなるのが分かった。そんな僕を、ミランダさんは面白そうな表情で見ていた。
僕は気を取り直して、ミランダさんの胸を布で覆う。本当は、もっと見ていたかったけど。
次いで、頬と顎の傷に取り掛かる。ここは、そんなに消化液を浴びなかったみたいだ。傷は浅い、だけど丁寧に施術していく。女性の顔に、傷跡を残すわけにはいかないからね。
二時間ほどかかっただろうか。全ての施術が終わった。ミランダさんは立ち上がると、うーんと伸びをした。ああっ、そんな恰好をすると、豊かな胸が零れそうですよ。彼女はそのまま、魔動機の端にある部屋のドアを開けて、中に消えた。
しばらくして戻ったミランダさん、シャワーを浴びてきたね。部屋には鏡もあったはずだから、傷の治り具合も確かめたのだろう。
「すっかり元通りだ、有難うね、坊や。これは、お礼をしなけりゃねぇ。」そう言うなり、さっきまで横たわっていた布団に、いきなり物凄い力で僕は押し倒された。
「何、するんですか!」
「私は、ゲラント隊では楯騎士と回復術師の兼任でね。力では、坊やに負けないよ。」形のいい二つの丘を顔面に押し付けられて、僕は息が詰まる。
「初めてかい? 優しくしてあげるよ。」次いで、強烈な接吻を喰らって、僕はクラクラした。戸惑う僕、だけど僕の身体は正直に反応していた。
「ほらほら、女に恥をかかせるもんじゃない。」綺麗なお姉さんにギュウと抱き締められて、僕の男に火が付いた。
僕は慌てて、感覚共有子機を切りにした。遅かったなと思いながら、、、
(続く)




