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その5 二度目の治療

「まずは、その怪我をした部下を治さねばな。(ふね)を運んでこよう。」爺っちゃんが、頭の中でそう言った。そう、爺っちゃんならどの魔動機のボットであろうとも、まっすぐ指示を通せるからね。


ミリア先輩が、魔族の男に聞く。「ゲラント様は、魔動機でお越しなのですか?」

「はい、ここから数kmほど南の、森の入口に置いてありますが。」

「私達の船をここに呼びました。部下の方の治療が必要です。」ミリア先輩がこの場の主導権を握ったな。


「ああ、ミリア。違うぞ。ゲラントの乗ってきた魔動機を、ここに呼んだのだ。私の言い方が悪かったな。済まん、済まん。」慌てた爺っちゃんの声だ。そうだよね、確かにその方が()()(ばや)いけどさ。だけど、どう説明するつもりなの?


「船を呼んだ? ああ、姫様方(ひめさまがた)も、魔動機でお越しですか。もう一人お仲間がおられるのですな。ですが、いつの間に連絡を取られましたか?」ゲラントは不思議そうだ。やっぱり勘違いしてるな、まあ当然だけど。


ミリア先輩は慌てて取り(つくろ)った。

「あら、ご免なさい。ゲラント様の船を動かしたのです。私たちの船ではありませんでしたわ。」

「えっ、どうしてそんな事が?」

そうだよね、僕らが実はAIの爺っちゃんと常時(リアタイ)接続してて、いつでも魔動機のボットと繋がれるなんて、判るはずがない。


「あら、それは内緒(ないしょ)にしておきましょう。それよりも、皆さんはあの魔物を追ってこられたのですね。」すかさず話題を変えようとするミリア先輩、ちょっと強引なお姫様だよね。

ゲラントは口をパクパクさせていたが、気を取り直して質問に答えることにしたらしい。おじさん、大人だね。

「はい、昨今(さっこん)噂になっておりましてな。魔王国に程近(ほどちか)い迷いの森で、獣人族の若者が襲われたのが最初だと聞いております。」

「あら、それはきっとラムザのことね。私の幼馴染(おさななじみ)、ミソマップ村の()なんです、私。」カーラが横から口を出した。


「おお、そうでしたか。その後も数回にわたって目撃されておりまして、危険な魔物であるとして私たちに調査と討伐(とうばつ)(めい)()りました。」

「かなり移動してますよね。」この辺りの地理を、僕は思い浮かべている。今、僕らがいる森はサホロの街の北西の方角、ハルウシとサホロの中間あたり。ラムザが襲われた迷いの森からは、山越えの直線距離で30kmはあるだろう。


「そうですな、ゆっくりと北上しておる様子です。」

「まずいな、それ。ここから北に進むと、森が切れて平野になる。そして、その先は俺の故郷(ふるさと)ハルウシだ。あんな狂暴な奴、俺の村に近付けたくないぜ。」アキラが心配そうだ。そうだよね、あんなのが集落に入り込んだら大変だ。


「奴の生体波動は記録済だ、今なら追える。」ここで、爺っちゃんが僕らに伝えてきた。

「ゲラント様、私たちならあの魔物を追跡できるかも知れません。ここは、共同戦線と参りませんか?」

「ほう、追えると仰る? 先程の魔法と言い、船のことと言い、今日の姫様には何やら訳ありですな。しばらくお会いしておりませんでしたが、ご立派に成長されたご様子。このゲラント、嬉しく思いますぞ。」

成長ね、僕とアキラは思わず先輩の豊かな胸に眼をやった。うん、確かにね。


 ◇ ◇ ◇


バウラは、しばらく上空から見張っていたいと、空に浮かんだままだ。確かに、光点が現れればすぐに対処できるというものだ。そして焼けた野原に、ゲラントの魔動機が静かに降下してきて、僕は急いで乗り込んだ。


船の中には、床に布団のようなものを敷いて横たわる一人の女性がいた。

「ゲラント様、お戻りなさいませ。首尾は?」その(ひと)は、僕らに気付いてフラフラと立ち上がろうとする。

「よい、立つな! 横になっておれ!」ゲラントが入口から声をかけた。


再び、身を横たえる魔族の女性。だが僕には、はっきりと見えた。

(ほお)から(あご)にかけて、焼け(ただ)れたような傷跡。そして、首と胸に巻かれた包帯には、べっとりと血が滲んでいた。これはラムザ以上の重傷かも知れないぞ。

「この少年が、治療できるそうだ。」ゲラントは、そう言って僕の背を押した。「早速(さっそく)、見てやってくれ。」


「この坊やが、治療士なのかい? 私も、ゲラント(ぐみ)回復術師(ヒーラー)さね。ある程度の治療なら、自分でやってるんだがねぇ。」その女性は、不審げに僕を(なが)める。

「奴にやられた獣人族の若者を、その場で完璧(かんぺき)に治して見せたそうだ。そこのお嬢さんによれば、な。」そう、さっきまで、僕がラムザを治療した様子を、カーラがゲラントに詳しく話していたのだ。


僕は、横たわる女性に近づいた。

「この波動、痛覚緩和(ペインリリーフ)をかけてますね。」

「おや、判るのかい。このまま魔王国まで戻って、ヨシユキ先生に治療してもらおうと思ったのさ。この深手(ふかで)は、私の手には負えないよ。」


「ヨッシー先生、爺っちゃんの一番弟子ですよね。僕は、その爺っちゃん:賢者ジローの孫ですから、似たようなものですよ。」そう言いながら、僕は両手をかざして生体探査(スキャン)を始める。よかった、骨や大きな血管までは(おか)されていない。

痛覚緩和(ペインリリーフ)もいいですけど、まずは魔物の消化液をきれいに洗い流さなきゃ。次いで解毒魔法(ディスポイズン)で、組織の分解を止めます。任せてくれますか?」


「ああ、頼んだよ、坊や。」横たわる女性は、すべて受け入れるとばかり眼を閉じた。

(続く)


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