その6 アキラの疑問
「貴女には、魔族の血も流れているのね。」とミリア先輩。
「はい、遠い祖先が魔族との混血だったって、聞いたことがあります。」
「混血度合いから見て、カーラのお母様の四代前が魔族だったと言うことだろう。君の魔素量が多いのは、そのためだな。」爺っちゃんが、すかさず計算してくれた。
「でも、ミリア先輩やジローの魔素量より、ずっと少ないわ。」カーラは不満そうだ。
「いやいやカーラよ、魔素量が全てではない。私は人族で、女神に強化されても魔素量は三万くらいだった。それでも賢者をしていたのだからな。」
「じゃあ私にも、賢者のスキルが使えるようになりますか?」
「魔法を常用しない君には、すぐには無理だろうよ。だが、これだけの魔素量があることが分かったのだ。これからは君にも、いろいろな魔法を体験させてやろう。」
ミリアが、優しくカーラの手を取った。「まずは魔素の流れを知り、魔法術式が理解できるようになることね。頑張ってみて。」
「さて最後にバウラだが、実は私も飛竜の状態表示は見たことがない。どこまで分かるものか?」
切り替わった表示は、ずいぶんあっさりしていた。
・名前:バウラ
・活力:412,435
・魔素量:836,694
・装備品:感覚共有子機
「やはり、情報量が少ないな。」と爺っちゃん。
「活力と魔素量は、私たちと一桁違うのですね。」とミリア先輩が目を見張る。
確かに、俺達の十倍の数値だ。まだ子供のバウラだ、大人の飛竜はどれほど多いのだろう。そして飛竜のレベルは、賢者の鑑定魔法でも見られないようだ。いやそもそも、飛竜に職能ってあるのかしら。
そして気が付けば、アキラが怪訝な顔をしていた。
「どうだアキラ、初めて見た自分と皆んなのステイタスは?」と聞いてみる。
「おお、俺の活力は歳相応だと分かった。俺は魔法が使えないから、魔素量がゼロなのも納得だ。でも、この職能レベルって、どうなっているのさ?」
悔しいけど、僕が説明してやるか。
「剣士Lv.21だったよな、僕はLv.20、カーラはLv.19だったろ。僕らよりお前のレベルが上、つまり簡単に言えば俺達より強いってことさ。実際に手合わせしても、お前が勝つことが多いから、妥当だと思うけど、」
「賢者の鑑定魔法だから、詳しく見えるって言ったよな。そして、賢者でなくても魔法が使えれば、自分のステイタスだけなら見られるんだろ。」
「ああ、そうだ。」
「これが、賢者の魔法だと言われれば、納得できなくもない。でも、賢者じゃなくても自分でレベルが判るのは、不思議だと思ってさ。」
「どういう意味だ?」僕は、アキラの言葉が今一つ理解できない。
「つまりだな、活力や魔素量なら、大きさが見えれば数字にしやすいと思うわけだ。だが職能レベルとなると、そう簡単にいかないだろ。職能って、剣士とか魔導士とかいろいろあるだろ。どうやって選ばれるのさ? そもそもレベルって、どうやって決まるんだ? まるで誰かが決めているみたいじゃないか。」
アキラは地元から奨学生として選ばれるくらいだから、頭も悪くはない。
「そういうものなんだよ、経験値が積み重なれば、レベルアップするだろ。」と答えた僕だけど、なるほど確かにな。レベルアップには、経験値だけではなくその他の条件もある。レベルって、確かにそう単純なものじゃないんだ。
「その指摘は、考慮に値するな。」爺っちゃんが厳かに言った。
「状態表示と唱えただけで、自分で職能が判り、レベルまで判る。私も師匠に教えられて、今の今まで疑問に感じたことはなかったが。」
ふーん、言われてみればそうか。確かに「状態表示」は、不思議な魔法だ。
一般に魔法は、術式を意識して組む必要があるけど、この「状態表示」は念じるだけだ。
頭の中で唱えれば、その裏で何かの術式が動く気配がして、すぐに自分の数値やレベルが目前に見えるのだ。
物心がついたころ、僕も父からこれを教えられた。僕には、最初から剣士と魔導士の職能があったっけ。
父は人族だが、少しは魔法を使う。僕はこれを教わって以来、剣も魔法も職能レベルが上がるのを励みにしてきたんだ。
訓練すれば、経験値を得れば、レベルは上がる。当たり前のことだと思っていた。だけど、剣の強さって様々だし、魔法だって各種属性がある。
魔導士の初歩では、四元素魔法が均等に使えないと、経験値を満たしていてもレベルは上がらなかったはずだよね。
「きっと誰かが決めた基準が、何処かにあるのさ。それと照らし合わせて、初めて自分のレベルが判る。レベルって、自分で決めることじゃないだろ。」
「何処かに書いてあって、それを魔法で見てるって言いたいのかよ。」
「まあ、そんなところだ。」言ったアキラも、それ以上の言葉は繋がらなかった。
「爺っちゃん、どう思う?」僕は、そう聞いてみた。きっと爺っちゃんなら、判っているはずさ。




