その3 連携実験
とりあえず仲間全員で、子機を生体埋設してみた。嫌がっていたアキラも、レベルアップのためだからと僕が説得したさ。
カーラと、彼女を乗せる飛竜のバウラは、興味津々だ。
ミリア先輩が、二人の額に子機を押し当てた。カーラの毛皮のおでこにも、バウラの鱗の並んだおでこにも、銀色の楕円形は染み込むように沈んで見えなくなった。これで全員の埋設が終わったな。
まずは四人と一匹で、相互通信をやってみる。頭の前側を意識して「使う」と考えると、埋設された子機が軽くブンと振動したのが分かった。
やがて視野の真ん中上側には、顔のアイコンが四つ並ぶ。よーし、仲間も接続中になったぞ。
「じゃあ、私からやってみるわね。」『皆んな、聞こえてる?』ミリア先輩の顔のアイコンが明るく灯り、頭の中で声が響く。
耳で聞くより、何だか凄く、その、生々しいってやつだ。頭に沁み込むみたいで、耳元で囁かれたみたいで、温かな吐息を感じたみたいで、僕はゾクっとした。
いけない、やっぱり昨日の後遺症だ。参ったな、先輩の声に毎回こうも反応してたら、身が持たないぞ。
「わあ、凄い! こんなにはっきり聞こえるのね!」この声はカーラだ。カーラの顔のアイコンが、明るくなった。
頭の中に響いた声がとっても可愛く感じて、僕は心がざわざわとした。まずいな、これも引きずっている。
でも、どうにか心を落ち着かせて、声が震えないように、僕は返事をしてみる。
「よーく、聞こえてますよ、先輩。」僕の顔のアイコンも、明るくなった。
「俺も聞こえてるぜ。」これはアキラ、アイコンが灯る。弾むような声だ、案外と嬉しそうじゃないか。
「私も聞こえる!」バウラのアイコンも灯り、頭に届くその声は、いつも通りの深い響きを伴っていた。
互いの声が聞けて、仲間は驚きそして喜んでいる。僕もひとまず安心だ。そうしたら、爺っちゃんのアイコンが灯っていないのに、頭の中で声がした。
「これは仲間には内緒で、お前だけに話している。どうしたジロー? 体調に異常が見られる。心拍数と血圧が上がっている。声も震えているぞ。」
感覚共有しているのだ、爺っちゃんには隠せない。僕は正直に答えたさ。
「ミリア先輩とカーラの声が直接届くから、なんだかドキドキしちゃってさ。昨日あんなこと言われたばかりだろ、僕 意識してしまっているみたいだ。」
「ふーむ、思慮深いお前も、年頃の男の子だというわけだ。まあ無理もなかろうよ。」爺っちゃんは、愉快そうだ。
「初めての交信で、ミリアもカーラも言葉に感情が乗ってしまっている。慣れてくれば二人も、力まずに話せるようになる。そうなれば、これは単なる交信手段だ、お前を動揺させることもなくなるだろう。」
「だといいんだけどさ、僕 こんなに女の子を意識したことなかったよ。」
「ふふん、それが生き物の思春期というものだ。お前も、大人に向けて成長している証だよ。この時期は、男も女も互いに将来の番を求め始める。生き物の体が、そうできているのだからな。」
◇ ◇ ◇
いちいち女の子の声に反応してドギマギしている、だけど僕らの歳なら当たり前だと聞かされて、なんだか納得した。心が静かになった気がした。
「おっ、体調が落ち着いたな。では、そろそろ私を登場させてもらおうか。」さっそく爺っちゃんに、次を急かされてしまった。
僕は、深呼吸する。
「皆んな、通じたようだね。じゃあこれから、爺っちゃんに入ってもらうよ!」と言うそばから、視野の右上に銀色の楕円がポカリと灯った。これは僕にはお馴染みの、爺っちゃんの船を模したアイコンだ。
「改めて、ごきげんよう、諸君。」爺っちゃんの声が、頭の中に聞こえた。
これは全員に届いている。爺っちゃんは、僕には個人的にも声をかけてくれるけど、いつもはあくまでも仲間全員に話しかけているように振舞ってくれる。有難う!爺っちゃん。
「私は、生きていた頃は賢者の端くれだった。今でも私の身体、つまり船の周囲には魔法を発現することができる。そして、諸君らと繋がっている時には、私の組んだ術式を感覚共有することで、諸君らに私の魔法を体現してもらうことができる。」爺っちゃんの言葉に、ミリア先輩がニッコリ頷いた。
ははあ、さては昨日から今の今まで、きっと何度も実験を繰り返したに違いない。そう僕は思ったのさ。
(続く)




