その2 感覚共有子機
「この画面に写っているのは、死んだ僕の爺っちゃん。体は死んだけど、治療院の納屋に置いてある船の頭脳、AIって言うんだけど、その中で今でも生きているんだ。全てのボットは、このAIと繋がっているから、僕のこのボットに限らず、どのボットから呼びかけても爺っちゃんはこうして出てきてくれる。」
「呼びかけるのがジローじゃなくっても、お祖父様は出てきてくれるのかしら?」カーラがボットを覗き込んだ。
「もちろんだ、これからはいつでも呼んでくれていい。私も死んでから六年、今となっては私を呼ぶのは三人の嫁と子供たち、そして孫はこのジローくらいのものなのだ。」画面の爺っちゃんが、すぐに返事をした。少し嬉しそうだね。
僕は、かねての予定通り、仲間に説明を始める。
「そして僕は、ボットがなくても爺っちゃんと話ができる。ほら、この機械さ。」そう言って、ポケットからスマホを取り出して、机の上に置いた。仲間が物珍しそうに、スマホを見た。
「この機械の中に、女神様の贈り物: 感覚共有アプリが入っている。これを『入り』にしておけば、僕と爺っちゃんはいつでも話ができる。いや、それ以上だな。僕の見たもの、聞いたもの全てが爺っちゃんに伝わるし、僕には爺っちゃんからの声や情報をもらえるのさ。感覚の共有、つまり双方向ってやつだ。」
「そして今日の本題はこれさ。」僕はまた、ポケットから今度は女神様が分割した子機を取り出すと、スマホの横にパチリパチリパチリと三つ並べた。
「今言った『感覚共有アプリ』用の子機さ、これも女神様の贈り物だよ。この銀色の楕円形がスマホと繋がることで、この子機の持ち主も爺っちゃんと話ができるようになる。」
ここでカーラが、驚いた顔をした。
「えっ、さっき双方向って言ったよね。それってつまり、この三つの銀色を持った私たちが、全員お祖父様と繋がるの? お祖父様って、三人と同時に別々の話ができるわけ?」
おっ、カーラは飲み込みが早いな。やっぱり頭もいいんだよな、この娘。そこも好きなところなんだよな、僕。ああ、やっぱり意識してるかも。
「うん、いい質問だけど、爺っちゃんはさ、無数にあるボットを全部制御しているんだよ。三人と同時に、しかも別々なことを話すのなんて、簡単なのさ。ねっ、爺っちゃん。」
にこにこ笑って聞いていたミリア先輩が、言う。
「そうなんですって、驚くわよね。そしてね、その銀色 三つじゃなくって五つあるのよね。実はね。」
ミリア先輩は、細くて長い形のいい指を自分のおでこに当てた。しばらくして、銀色の楕円形が浮かび上がる。それを手に取った。
「ほら、私はもう持ってるの。そしてジロー君もね。だから全部で五つ。」
アキラが、派手に驚いてみせる。
「ええっ、この銀色 そうやって使うのかよ。いやだよ俺、気持ち悪い。」
「先輩! それって痛くないの?」カーラも、少し引き気味だ。
ミリア先輩はニッと笑う。余裕のある大人の女の笑いって感じだな、僕は何だかゾクッとした。また、意識してるな、僕。
「まったく痛みはないわ、取り込んでしまえば違和感もない。そして、お祖父様と繋がることで、私たちには素晴らしい利益があるの。やらない手はないよ、カーラ。」
いけない、先輩に主導権を奪われないうちに、説明に戻ろうか。
「そう、この子機は僕らのパーティの全員に配れる。ミリア先輩と僕は、もう持っている。この三つは、カーラと、カーラを乗せるバウラ、そしてアキラのものさ。」
ここでまたもや、アキラが大声を出した。
「ええっ~! いやだよ俺。だいたいジローの爺っちゃんと繋がって、何がいいのさ。」
ふふん、だが僕にはアキラが気に入る自信があるのだ。
「アキラ、爺っちゃんは魔物の位置と強さを、とっても分かり易く地図で教えてくれるんだ。魔物を狩り放題だ、剣士のレベルが上がるぞ。」
「えっ、地図って何だよ。レベルが上がるって、どうしてさ。」そーら、アキラが食いついてきた。こいつもレベル上げが大好きな奴だからな。
「昨日の地図を見せてよ、爺っちゃん!」
その後は、まあ僕の予想した通りに進んだわけだ。爺っちゃんが見せてくれる魔物の地図は、確かに便利なことを皆が理解したんだ。
「しかもだ、子機を持った俺たち同士で、離れていても会話ができるって言ったら、どうだ? 凄いと思わないか?」
「離れててもって、本当か? そんなことができるのかよ。」
ここですかさず、カーラが突っ込んだ。
「アキラが、ミリア先輩の指示を聞かずに突っ走るのを、防げそうじゃない!」
「へっ、俺だって、相手が見えてれば無茶はしないぜ。そうか、戦いの最中に仲間の声がちゃんと聞こえるとすれば、連携が取れるよな。」
へえ~、アキラが連携を口にするとは意外だった。こいつもただの腕白剣士ではないんだな。僕は、そんな事を考えた。
(続く)




