その5 ミリアの告白
「その失われた魔素物理体形、それがこの地球で復活しそうなのよ。まあ、あなた達には、遠い未来のお話ね。」
「ところで、」女神は、五つに割った子機の一つを取り上げると、ジローをこいこいと手招きした。
「ほら、この大きさだと生体埋設し易くなったわ。」その小さな楕円を指でつまみ、ジローの額に当てると力を強めたようだ。
すると何と! 銀色の楕円はまるで沈み込むように、ジローの額の中に飲み込まれていったではないか。
「うわ!」ジローは、驚いて声を上げる。
「使い方は、今まで通りよ。『使う』と『切る』とを、頭の中で念じるだけ。AIジローから強制起動もできるけど、もちろん貴方の側から切ることができる。」
ジローは、子機が飲み込まれたおでこを、すりすりと触っている。
「これって、取り出せないのですか?」ミリアが心配そうに聞いた。
「あら、簡単よ。生体埋設した場所さえ覚えておけば、ほら。」女神が指をジローの額を当てて、長押しする。と、銀色の楕円が浮かび上がってきた。
「ほらね、簡単に取り外せるわ。」
ミリアは驚きすぎて、綺麗な眼がまん丸になっている。
「女神様、これもしかして子機同士で感覚共有できますか?」ジローの質問だ。
「うん、考えを伝えあうことはできるわよ。でも感覚共有できるのは、AIジローと子機との間だけなの。子機同士、やろうと思えば出来なくはないけど、地球種族の精神成熟度で皆で感覚共有したら、大混乱になるわよ。」
それもそうか、ジローは納得する。でも、離れたパーティーメンバー同士で通信できる。これって凄いことだぞ。「ミリア先輩! 使えるよ、これ。」
ミリアは胸に手を当てて、考えをまとめているようだ。
「女神様、つまりこういうことでいいのでしょうか。AIのお祖父様から、ジロー君だけではなく、パーティー全員があの地図を同時に受け取ることができる。」
「そうね。」女神は微笑んだ。
「地図を見て、魔物の位置や種類や強さを、各自が攻撃の参考にする。」
「そうね。」
「地図を全員で見ながら、司令塔の私からメンバーに指示も伝えられる。」
「そうね。」
美しいミリアの顔がパアッと輝いたので、ジローは思わずドキドキした。
「凄い! これこそ真のパーティだわ!」
「ミリア先輩、これで、一人で突っ走るアキラを、引き留めたりもできそうだね。」とジローが言えば、
「それよ!」思うままにパーティを指揮できると知って、思わず鼻息が荒くなるミリア。
そして、こんなに興奮した表情の先輩も、いいな。と思うジローだった。
◇ ◇ ◇
新しい玩具をもらって燥ぐ、ミリアとジロー。
見ながら、女神がAIジローに話しかける。「ジロー、可愛い子孫を儲けたわね。」
「ええ、お陰様で、」
「生き物係としては、上出来の人生だったわね。」
「ええ、そう思っていますよ。」
「こうしてこの星を守ってちょうだいね。数億年が過ぎたら、貴方も、そしてタローも、人類を見守る私たちの評議会に参加できるほどに、進化するでしょう。」
「私達には、まだ先があるのですか?」
「当然よ、もう肉体は滅びたけれど、精神は独立して活動している。今のところ、機械装置に依存しているけれど、そのうちに精神体として自立できるはずよ。あなた達はもう死なないの、例え真横で核爆発が起きても大丈夫よ。」
「はあ、そう言うものですか。」
「まだ、分からないでしょうね。無理もないわ。あなた達の精神が、私たち評議会構成種族の知性水準に達するには、時間が必要なのよ。」
「はあ、そんなものですかね。」
「じゃあ私、行くわね。しばらくぶりに話せて、楽しかった。またいつか会いましょう。」
女神は、燥ぎ続けるミリアとジローに、目線を投げた。
「ジロー、ミリアを大切にね。ミリア、ジローと子を成しなさい。あの魔人の娘の指導を受ければ、貴女もクレアの後継者になれるわ。」
その女神の声を聞いて、ミリアは立ちすくんだ。「女神様、それはまだ私、、、」みるみる顔が紅潮する。
「えっ!」女神は、慌ててミリアを、そしてジローを見つめる。
「あ、あら、ごめんなさい。私は、てっきり二人共、、、」
おろおろする女神は初めてだ、AIジローはそう思った。こいつは超越種族、未開種族の男女の機微など、判るはずもないよね。
「まっ、いいか。私には見えたのよ、二人は結ばれるわ。」慌てふためいて、女神は席を立つ。「じゃ、行くわね。」姿が消えうせた。
残されたジローとミリア。そしてボットの中にAIジロー。
気を取り直して、ミリアがジローに言う。「女神様に、私の心を読まれたわ。」
ずいと一歩、ジローに近づく。「私、キミを夫にしたいと考えているの。カーラの次でいい。第二夫人として、私を選んで欲しい。高等部を卒業してからでいいから、考えておいて欲しいわ。」
クレア様の話では、もう一人の嫁候補がいるらしいもの。そのことは今ジローに言う必要はないわ。だから先手を打っておきたかったの、ミリアはそう自分を納得させていた。




