その3 ジローの打ち明け話
「青い点は、お前たち。赤い点は魔物を表している。」画面に表示された地図に、AIジローが説明を重ねた。
「前衛の青二つは、カーラとアキラ。後ろにお前とミリアさんがいるのが判るかな?」
これを見たミリアは、すぐにあの場面を思い出したようだ。
「その向こうの赤い三つが、魔物なのですね。そして、横にも赤が一つ。そうか、ジロー君はこれを見ていたのか。」
「そうだ、ジローの目を通して私も状況を見ている。魔物の位置が知れれば、魔物の種類とその活力も判る。これを私からジローに伝えているのだ。」
と、前衛の青の一つが飛び出した。アキラがミリアの指示を聞かずに、深追いしたのだ。それに反応して、横に潜んでいた赤が、その青に向けて殺到する。
白く輝く壁がその赤の行手を阻み、そしてその赤に炎の魔法が着弾した。ミリアが防御の盾を展開し、ジローが炎の魔法を撃ったのだ。
「すごい! これって上空から見下ろした地図なんですね。そうか、だからジロー君は、すぐに魔法を撃てたのね。」
「そう! 僕と爺っちゃんは感覚共有していて、爺っちゃんは索敵魔法と鑑定魔法で魔物を調べて僕に教えてくれる。」
「感覚共有? つまりジロー君の見聞きしたことがお祖父様にも伝わるし、お祖父様の声やこの地図がジロー君に届くってことね。これも賢者の魔法ですか? そんな魔法があるなんて、初めて聞きました!」
「知っての通り、探索と鑑定は賢者の魔法の初歩だ。だがジローとの感覚共有は、これは魔法ではないのだ。いま話しているこのボットと同じでな、科学技術で作られた機械の働きなのだ。」
「その機械は、このボットと同じで沢山あるのですか? だったら私も欲しいです。」ミリアは目を輝かせた。
ボットに映ったAIジローが、苦笑いを浮かべる。
「今の時代は、ボットは私の母星からいくらでも手に入るようになった。しかし残念ながら、この感覚共有の機械はジローに持たせている一台だけなのだ。済まないな。」
「爺っちゃんがこの星に落ちてきた時に、女神様から贈られたものなんだよね。」
ジローが説明を付け加えた。「ほら、これだよ。」そう言って帽子の裏側に仕込んだ、銀色に輝く金属の楕円形の小さな板をミリアに見せた。
「僕がこの機械で爺っちゃんと話せることは、誰も知らないんだ。だから、」
「判ったわ、内緒にしておいてあげる。」ミリアは約束した。
「もう一つ、ミリアさんのもあればいいんだけどね。この地図をミリアさんが見ることができれば、パーティの司令塔としては便利だよね。」
「パーティの人数分が揃えば、なおいいわね。」
「そうね、私はお祖父様からのこの地図を見られない。けれどジロー君に見えているなら、それを私が受け取ることができるかもしれないわ。」ミリアは、考え込む様子を見せた。
しばらくして、にんまり笑ってジローを見る。少し妖艶な顔で微笑むミリアに、ジローはドギマギした。
「ジロー君、服従の魔法って知ってる?」
「えっ、魔族に伝わる闇魔法の秘術でしょ。クレア婆ちゃんから聞いたことあるよ。」
「そう、今では使える者も少ない、古代から伝わる禁呪。私ね、古代魔法の解析が趣味なのよね。」
「その魔法が、どうかした?」
「私、ある程度は使えるの、服従の魔法。」
「えっ、何それ? 怖い!」
「あの術式は、双方向で働くの。支配する対象からは奪い、こちらからは命ずる、二つの術式の合わせ技なのよ。」
「それって、僕を服従させて地図の情報を伝えさせる、とかですか?」
この綺麗なお姉さんになら、征服されてもいいかも。いやいや、そんなわけにはいかないか。ジローの心が一瞬動いたかもしれなかった。
「対象から全てを奪うから、服従魔法は難しいの。でもこの場合は、この地図の視覚情報だけ。術式を大幅に省略できるわ。ジロー君が同意してくれれば、私がそれを読み取るのは可能かもしれない。」
「魔獣との戦いの間、ずっと僕を服従させておくことができますか?」
「そうよねぇ、流石にそれは無理だわねぇ。」
「状況の変化、つまり地図の更新ごとに服従魔法を掛け直しって、大変ですよ。」
「そうよねぇ、やっぱり無理かぁ。」
どうやら僕を服従させる計画は諦めてくれたみたいだな、ジローは安心して、少し残念な気もした。
ジローは、ポケットからスマホを取り出して、ミリアの前に置いた。
「ほら、これが爺っちゃんから貰った機械です、スマホって言うんだ。これは爺っちゃんの母星で作られた物だけど、さっきの女神様の機械はこのスマホの子機として働くみたい。」
置かれたスマホの画面には、アイコンが並んでいた。
「あら、可愛い。これが女神様なの?」そう言いながら、ミリアの指がアイコンに触れた。
「あっ、触っちゃダメ!」と叫んだジローの声も間に合わず、タップ音と共に相手の声がした。
「あら、久しぶり。ジローなの? 今はヒマしているから、行くわね!」
そして、多目的室に女神キュベレが実体化した。
(続く)




