その2 ジローの告白
向かい合ったミリアに顔を覗き込まれて、ジローの緊張感がますます高まる。
こうして近くで見ると、本当に飛び切りの美人だよな、この先輩。この人に釣り合う男ってどんな人なんだろう、とジローは考える。
「ジロー君、パーティでは活躍してくれているわね。回復役としてとっても助かってるし、魔法も私に匹敵するし、剣技も十分。後衛を任せているけど、本当はアキラともやり合える腕だもんね。」
「はあ、まあ、有難うございます。」
「キミの性格なのかな、出しゃばらないところもいいわ。いつも冷静に全体を見てる。アキラ君と違ってね。」
「ははは、アキラは済みません。時々先輩の指示を無視してますよね、あいつ。」
「そうね。だけど腕白な弟みたいで、可愛いわ。私、末娘だからさ、ジロー君やカーラも、弟や妹ができた気がして嬉しいのよね。」
へえ〜、怒らないんだな。流石は大人のお姉さんだ、とジローは思う。
「でね、ジロー君。キミさ、敵の位置や強さが見えてるでしょ!」
ジローはギクリとした。
「私が放つ魔法も、威力が分かってるでしょ!」
またギクリとした。しまった、やりすぎたか。この前の討伐では、イレギュラーな敵が多かったからな。とジローは悔やむ。
「貴方のお婆様は、私の指導教官、あの聖母クレア様。そして亡くなったお爺様も、賢者だったって聞いたわ。キミも、きっといつかは賢者に届くでしょうね。」
「はい、だといいなって思ってますけど。」
「索敵とか鑑定の魔法、賢者の高みにあるはずだけど、もしかしてキミ使えていない? 既に。」
このお姉さんには隠せないな。爺っちゃんとの関係を正直に話すと、周りにどんな影響があるかな。頭の中で、考えがぐるぐるするジローだった。
「言えないなら、詮索しないけどさ。」じっと目を見てくるミリアさん。こんな綺麗なお姉さんに見つめられて、僕は蛇に睨まれた蛙だ。ジローは、打ち明ける決心をした。
「済みません、僕 賢者のスキルが使えます。」小さな声で言った。
「えっ、スキル? 賢者の魔法じゃあなくって、スキルなの?」
「はい、魔法を使っているのは爺っちゃんで、僕はその結果を教えてもらっています。だから、スキルって表示されるみたいです。」
「ふーん、表示されるんだ。詳しく教えてもらっても、いい?」
しばらく黙ったままのジロー。そしてジローは、ありのままを話すしかないと考えたようだ。
「僕の爺っちゃんは、死んだ後でAIに意識を移したって、知ってましたか?」
「うん、聞いたことあるわ。私達 魔族に必要な魔素を生み出してくれていて、沢山のボットの面倒を見てるんでしょ。詳しいことは分からないけど、」
「そう、それで合ってます。そして爺っちゃんとは、ボット経由で今でも話ができるんです。」
「ふーん、そうなんだ。亡くなったのに、生きてるみたいなものなのね。」
「魔獣討伐の時に呼び出しておくと、爺っちゃんが魔物の場所や強さを見せてくれます。」
「呼び出す? 見せるって、どうやって?」
「実際に見てもらった方が早いですよね。」ジローは立ち上がると、部屋の壁に並んだボットの前に行き、ミリアを手招きした。
ミリアとジローが並んで、ボットの前に座ると、
「爺っちゃん、出てきて。」とジローがボットに話しかける。ボットの表面が画面になり、そこに爺っちゃんの顔が浮かんだ。
「何だ、ジローや。おお、そこにいるのはミリアさんだったな。」
「初めまして、お祖父様。私のことをご存知なのですね。」
「ああ、嫁のクレアに頼んで貴女をパーティに誘ったのは、実はこの私なのだ。」
「まあ、そうでしたか。」
「闇属性の使い手の実力を、孫に学ばせようと思ってな。」ミリアと画面のジローは、互いに微笑みあった。
「爺っちゃん、ミリアさんに僕の賢者のスキルが見破られた。」
「なるほどな、それで私を呼んだのか。」
「不味かったかな?」
「いいや、お前がそう考えたのなら、それでいいさ。」
「だったらさ、僕に見せてくれてる魔物の地図を、今ここで見せてくれない?」
「えっ、今って、魔物なんていないじゃない。」驚くミリアだが、
「うん、爺っちゃんはね、昔のことも正確に覚えているんだよ。」ジローが言う。
「ミリアさんに気付かれたとすれば、多分この場面だろう。」とAIジローの声で、画面が切り替わった。
(続く)




