その2 魔導士ミリア
今から一年前、ある魔導士の卵が高等部に進学していた。
魔族の娘で、ミリアと言う。どこか見覚えのある顔立ちだと思ったら、あのキラ侯爵家を兄から譲られて継いだ弟クリムの儲けた末娘なのだった。
群竜の牧場に注力したいとの無理を通し、護国卿の地位を弟に継がせた我が友ギラン。
生き物が好きで私の親友だった彼は、今では実業家として名が売れている。これは、魔族では珍しいことだ。
魔人族の遺産たる群竜の卵と肉は、キラ侯爵領特産のブランド品だ。サホロの町でも人気だが、サワダ商会の手で海辺の町にも運ばれ、生産基地のある領地では牧場の数も増えたと聞いた。
そして護国卿を継いだクリムは、魔力の高い娘を妻に迎えて、側室も含めて数人の子を成した。そもそもキラ侯爵家そのものが、魔力の高い血筋だ。いや正確に言えば、魔素の汲み上げ量が多い家系で、しかも立場上 魔法鍛錬の機会には大いに恵まれているのだ。
正妻の末娘ミリアも、強大な魔素の持ち主として生まれ、兄や姉たちと競うように魔法の習得に取り組んできた。有望な魔導士として評価されもしたが、今の世の中は魔法の需要がそれほど多くない。そのまま国に留まれば、どこぞの貴族に嫁ぐ人生が待っていたはずだ。
だがミリアは、もっとこの世界を知りたかった。
伯父のギランは商売柄 人族との交流も多かったし、優しいマサエ伯母は人族で、子供の頃から人族の里の話を聞いてミリアは育った。
人族の里ならば、電気や土木の技術者、そして商隊護衛など魔導士の出番は多いと聞く。彼女は外の世界に憧れを抱き、それを叶える絶好の機会がサホロの高等部への進学だったのだ。
◇ ◇ ◇
高等部に進んだ彼女は、そこで私の第二夫人だったクレアの教えを受けることとなった。そもそもが、この聖母にして現代魔王のアビオン様の妹たるクレアは、ミリアにも遠い親戚に当たる。護国卿は、遠く王家の血筋に連なるからだ。
高等部の教育課程では、剣技と魔法は選択制だ。
剣技の授業を選択するものが、圧倒的に多い。人族のほとんどが魔力を持たず、獣人族の生徒でも生活魔法がわずかに使える程度の者が多いのだ。
だが魔族の中には、魔法に磨きをかけたい生徒もいる。そのために、クレアを筆頭に教授陣が揃っていて、求める生徒には高度な魔法教育が行われていた。
ミリアを導くクレアが、ある日ボットに私を呼び出して言ったことがある。
「逸材が見つかりました。彼女には、授業の傍ら治療院に呼んで光属性を学ばせます。光属性の練度を高めれば、賢者に届く日も遠くはないでしょう。」
クレアに、後継者が現れたのだ。
ミリアはここ一年で、人族相手に回復魔法の腕を上げてきたと聞いている。つまり光属性の習得が進んでいるのだ。クレアの見込み通り、生まれついての強力な闇属性波動が、育ってきた光属性の波動と共鳴し合う時期も近いだろう。
◇ ◇ ◇
高等部に進学した可愛い孫のジローが、冒険に出るためにパーティを組みたいと言い出した。そこで私はクレアに頼む形で、今は二年生となったこのミリアをジローに引き合わせたものだ。
ミリアには、もちろん魔導士として参加してもらう、そしてパーティではリーダー役になるだろう。
この時期の若者は、女性の方が大人である。生物学的に見ても、思春期に達するのは女性が二年ほど早いのだから。
孫のジローは剣士として前衛で戦えるし、魔術師や回復術師として後衛も務まるはずだ。贔屓目で見れば、ジローにリーダーをやらせてみたいと、爺っちゃんとしては考える。
しかし、ミリアは一歳年上で、侯爵令嬢として気位も高い。しかも末娘だから、兄姉にもまれて如才ない性格のようだ。実際にパーティとして動き出せば、リーダーは自ずとミリアに決まるだろう。
まあ、それでいい。
魔法は、なにより実戦で鍛えるべし。これは私の経験から来る持論だ。ミリアと言う優秀な闇属性の遣い手を傍に見て、孫のジローには経験を積ませてやろう。私とクレアの血を引いているのだ、この子も二十歳前には賢者として目覚めるのだろう。
可愛い孫には、つい期待してしまうな。
おっと、これは三人の嫁や娘のミヒカには言えない、私だけの秘密だ。
(続く)




