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その1 入学準備

ジローは私の初孫で、最初の男の孫に私の名前を継がせることにしていた三人の嫁たちの取り決め通り、ジロー・ジュニアを名乗る羽目になったのだった。

その母ミヒカは、私の第二夫人だったクレアの次女に当たる。だからクレアは、襲名レースで三人の嫁の中で勝利を(おさ)めたわけだが、妊娠が判明した当時はひと悶着(もんちゃく)あったのだ。それはつまり、ミヒカがまだ若く、しかも結婚前であったからだ。


ミヒカがジローを産んだのは十七歳、高等部を卒業したばかりだった。婚約していたし、高等部を出たら結婚するのだとは聞かされていた。だが、その婚約者と逢瀬(おうせ)を重ねるうちに、若い二人はその先に踏み出してしまったのだ。


ミヒカは、兄や姉が沢山いる中で育ったせいか、活発で賢くそして早熟な娘だった。体格は小柄で、これは母親のクレアに似たのだ。妊娠したとは言っても、十七歳の若い母体はまだまだ成長途上であったから、生き物係である私は大いに心配させられたものだ。若い母体には、妊娠と出産は大きな負担になることがある。


だが、その心配は無用だった。ミヒカは無事にジローを産み落とし、その子もそして母体も極めて健康で私を安堵させた。

私は、その後も沢山の孫に恵まれた。もちろん皆可愛い孫たちなのだが、やはり初孫は思い出深いものがある。その孫のジローがすくすくと育ち十歳になった年に、私は肉体の死を迎え船のAIに宿ったのだった。


今こうして、孫のジローと母のミヒカを乗せた魔動機を飛ばしながら、私はそんな思い出に浸っていた。


 ◇ ◇ ◇


もう一人、私の第一夫人だった治療院のサナエ院長を乗せて、いにしえの魔人の飛行機械:魔動機はミソマップの村の上空に到着したところだ。


正確に言えばこの船に融合した私のボットが魔動機を動かしていて、私はこのボットを通じて周囲を見ている。私は、サホロの治療院の納屋に置いてある搭載艇のAIであり、このボットはこの惑星上に張り巡らされた情報網(ネットワーク)で私と繋がっているのだ。


ボットは魔素を産み出し、魔動機の魔法ユニットにそれを供給しつつ、乗客の指示を私経由で魔人の里にある自動機械オートマタに伝え、操縦に関する操作手順プロトコルが瞬時に返ってくる仕組みだ。

まあ、乗っている客には、どうでもいいことか。要するに客が船の中のボットに指示すれば、魔動機は自動で飛んでくれる。乗客が操縦する手間はない。このあたりの仕事を、私がタローから引き継いで久しかった。


「あれがカーラの家だ。あそこに降ろしてくれ。」孫のジローに言われて、村の中では比較的大きな家の(そば)に、魔動機を静かに着陸させた。

薬草の精選と保管のための作業場が、住居と一緒になっているつくりらしい。


今日は、皆でカーラを迎えに来た。一週間後には、高等部の入学式がある。

彼女には、村の学校では教わってこなかったことを一通り補習しておく必要があったので、半年前から治療院の一室に仮住まいさせていた。進学準備のために半月ほど実家に戻っていたが、今日は改めて学校の寄宿舎に引っ越すことになっている。


獣人族の家族が、家から出てくるのが見えた。

「爺っちゃんも、一緒に行くか?」孫のジローが聞いてきたので、「そうするか。」と答えた私は、感覚共有(かんかくきょうゆう)子機(こき)を起動(ONに)した。ジローは、私との感覚共有にも慣れてきた様子だ。


今、ジローの視野の右上には、私の船を模した銀色の小さな図形表示アイコンが灯ったはずだ。これは子機が稼働中アクティブなのを、ジローが見て分かるためのしるしだ。切ってくれと指示があれば、私の方から停止(OFFに)できる。


感覚共有子機は、ジローが頭に巻いたバンダナの表面に縫い留められている。知らぬ者には、銀色の飾りにしか見えないだろう。そしてこの子機と私とは、女神キュベレの種族による未知の通信手段で、繋がっているわけなのだ。


今や私も共有しているジローの視界に、獣人族の娘が捉えられた。

これがカーラか。黒縞の入った金色の毛皮で覆われた体に長い手足、引き締まった肢体を持っている。充実した太腿と控えめな胸、そして活発に動く猫耳と尻尾。


既に顔見知りになっているらしいジローとミヒカを見て、大きな眼がクルクルと動いている。若々しい生命力に溢れて、溌溂(はつらつ)として、サナエとクレアに言われたとおり、まるで出会った頃のカレンを見るようだった。


「綺麗な娘だ、惚れたのか?」私の声は、ジローにだけ届いている。

「そんなんじゃねーよ、高等学校に進みたいって言うから、少し面倒を見てやっただけだ。」ジローが否定してきた。


気のいい優しい子だ。下心が無かったとは思わないが、ジローは進学に悩むこのを助けてやりたかったのだろう。

サナエによれば、いつもは稽古で厳しいカレン婆ちゃんから「獣人族を気に掛けてくれた。」とばかり、もの強い力で抱きしめられて辟易へきえきしていたそうだった。

(続く)

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