その3 遺産譲渡
大小二つの物が、置いてあった。
「大きな方はスマホと言って、いつでもどこでも私と話ができる機械だ。」前方の画面から、爺っちゃんが言う。
「キカイって何だ?」
「ある仕事をさせるために、人間が作った仕組みのことだな。」
「ふーん。」
「話ができるだけではないぞ。それを持ったお前と私で、感覚を共有できるアプリが入っている。」
「それって、どういうことだ?」
「その銀色の小さなものを、お前の頭の近くで起動させれば、いつでも私と繋がる事ができる。」
「爺っちゃんと繋がると、何かいいことがあるのか?」
「お前が見て、聞いて、感じたことが、私にも伝わる。二人の考えを、互いに伝えあうこともできる。」
「僕を助けてくれるってこと?」
「そうだな、例えば魔獣と戦っているとしよう。私のボットを上空に飛ばしておけば、周囲の様子をお前に知らせることができるだろう。」
「ふーん、よく判らないな。」
「実際にやって見せよう。その子機を、お前の頭に近付けてみなさい。」
僕はたまたま持っていたハンカチにその薄い金属製の子機を包むと、バンダナよろしく頭に巻いてみた。
「爺っちゃん、これでいいか?」
「次に、スマホの感覚共有アプリを起動するのだ。頭の絵があるだろう。」
僕は、子機を包んだハンカチを頭に巻いたまま、スマホにある頭の絵を押した。おっ!ハンカチの中の子機が、ブンと振動した。動作中になったみたいだ。
「よーし、やってみるぞ。お前たちの一行が、魔獣に取り囲まれているとしようか。」爺っちゃんの声が、僕の頭の中で聞こえるようになった。そして僕の視野に、薄く地図のようなものが被さった。
「真ん中の明るい青い点が、ジローお前だ。周辺の青い点はお前の仲間、そして赤い点は敵の位置を示している。」
なるほどこれは便利かも! 僕はワクワクしてきたぞ。
「敵の強さの情報を、これに乗せてみるぞ。強い敵を濃くしよう。」
赤い点のそれぞれに、色の濃淡ができた。中でも一つが、明るく輝いている。
「例えば、これが敵のボスだ。最初にこいつを倒す、またはこいつに注意しながら周囲から片付けて、最後に仲間で力を合わせる。いろいろな作戦が立てられるだろう。」
「これって、実戦で役立ちそうだな。凄いぞ、爺っちゃん!」
「そうだろう。私もこうして、タローに助けてもらっていたものだ。」
「そうか、爺っちゃんとタローは、そんな関係だったんだな。」
「そのスマホには、収納のアプリも入っている。これも昔、女神からもらった贈り物だ。」
「収納って、あの何でも入れておける魔法だな。僕も使えるようになるの?」爺っちゃんが生きている頃に何度も見た、とても不思議な魔法だったっけ。
「スマホの画面に、倉庫の絵があるだろう。それを押してみろ!」爺っちゃんに言われるままに、僕はその絵を指で叩いた。
すると、白く輝くフォルダがスマホから立体投影されて、目の前に浮かび上がった。
フォルダには、「武器」「装備」「アイテム」「大事なもの」と書いてある。
そのほかに「ウィル」「ヨシユキ」「ギラン」「子供たち」そして「スロキューテニ」と書かれた、形の違うファイルもあった。
これは名前だよな。最初の三人なら見当がついた。三人とも爺っちゃんの知り合いで、僕も何度か会ったことがある。最後のスロキューテニって人は、知らないな。変な名前だけど、誰なんだろう?
「人の名前が書かれたフォルダは、触らないようにな。」爺っちゃんに、そう釘を刺された。
「お前に剣を授けよう。そこの『武器』に触ってみろ。」
言われた通りに手を伸ばすと、そのフォルダから「杖」「剣」「弓」「盾」「その他の武器」のフォルダが、ポンポンポポポンと現れた。そうそう、爺っちゃんがこうして操作していたのを、僕は思い出した。
「今度は『剣』に触れてみろ。」
すると「大剣」「片手剣」「小剣」フォルダが現れた。
「その『片手剣』の一番上に入れてある。」
触れると、今度はフォルダではなく、実物の剣を小さくした絵のようなものが、ずらずらと目の前に並んだ。
そろそろと一番上の剣の絵に、手を差し入れた。すると僕の手は、剣の実物を握っていた。そうか、収納魔法は、こうして使うのか。
柄を握って、鞘からスラリと抜いてみる。とても美しい剣だった。
(続く)




