その2 僕のレベルアップ
夕方、僕は自室に戻ってきた。
僕の動きと体温を感知して、天井に据えられた面発光体が部屋を明るく照らした。
この灯りは、僕が生まれた頃にこの街に普及したと聞かされた。今では当たり前の電気照明だけど、これがなかった頃は不便だっただろうなと、いつも思う。
持っていた鞄を勉強机の上に置いて、ベッドに寝転がる。
「状態表示!」と念じる。
・名前:ジローjr.
・年齢:15歳
・活力:25,000
・魔素:79,000
・主職能:剣士Lv.19
・副職能:魔導士Lv.20
魔力の大小にかかわらず、誰でも自分の状態表示を見ることができる。これは、この世界のお約束だ。ただし、まったく魔力を持たない人もいて、その場合はもちろん見ることができない。人族に多くって、サナエ婆ちゃんがそうだ。
でもレベルは、ちゃんと存在している。サナエ婆ちゃんは、薬師のレベルが70を超えていると聞いたことがある。クレア婆ちゃんみたいに、賢者や聖母なら他人の状態表示を見ることができるんだ。鑑定魔法って言ったかな。
サナエ婆ちゃんは、まだ六十歳になっていない。年齢よりレベルが高いのは、その人の素質と努力によるらしい。サナエ婆ちゃんは、回復魔法が上手だった爺っちゃんの助手をしていたそうだから、爺っちゃんを助けて治療院を回していくのに、若い頃から薬師の勉強を頑張ったんだろうな、きっと。
僕は、子供の頃から魔法が使えたから、もちろん自分の状態表示を見ることができる。僕のHPは最大で45,000くらいだから、今は半分くらいに減っている。たった今まで剣術の稽古をしていて、疲れたんだ。でも、ご飯を食べてぐっすり寝れば元通りだ。
MPは満タンで80,000越えだから、あまり減ってない。今日はたいして魔法を使わなかったし、剣術の稽古では魔法剣は使っちゃいけないことになっている。
ふうと、ため息が出た。
去年、念願の魔導士Lv.20に届いたところで、主職能を剣士に切り替えて稽古を重ねてきた。これで経験値は、剣士の職能に回る。剣士Lv.20まで、もう少しのはずなんだ。でも、なかなか届かない。
賢者の鑑定魔法なら、あとどのくらいでレベルアップするか見当がつくんだけど、またクレア婆ちゃんに頼りたくない。僕は、もどかしい想いで一杯だ。
僕はこの春に高等部に進学する、今は中等部の三年生だ。その中等部では剣術で僕の相手になる者は少ない。だから稽古では、指導教官でもある父上から「高等部の学生と組むよう」に指示されていた。
中等部から高等部は、体もそして技も大きく成長する時期だ。僕は小柄だから、相手が高等部だと大きくて強すぎて、勝てない日々が続いていた。
勝てなければ、大きな経験値にはならない。勝つことが必要なんだ。だからと言って、弱い中等部の生徒と戦って、勝ちを稼ぐのは僕の矜持が許さない。
こうなれば、魔物を狩りに行こうか。次から次に湧いてくる魔物を倒せば、経験値は稼ぎ放題だ。そんな事を考えていたら居ても立ってもいられなくなって、僕は机の上に置かれたボットに「爺っちゃん!」と声をかけた。
ボットが動作中になり、表面に爺っちゃんの顔が浮かぶ。
「どうした、ジロー。この時間だと稽古が終わったばかりだな。」
「僕、ダンジョンに行きたい! 今度の休みに、連れて行ってくれよ?」
爺っちゃんの顔がニヤリとした。焦っている僕を、お見通しのようだ。「そろそろ、そんなことを言い出すだろうと思っていたぞ。」
「もう待てないよ! 早く剣士Lv.20になりたいんだ!」
爺っちゃんは考えるそぶりを見せたが、しばらくすると「今から私の船においで。」と言ってくれた。
夕食には、まだ時間がある。
僕は部屋を出ると、学校職員の宿舎にある自宅から治療院につながっている共同浴場に走った。この温泉の反対側のドアから納屋に入る事ができて、そこに爺っちゃんの船が置いてある。それを知る人は多くない。
船に近寄るとハッチが開いた。中に入る。
この船に乗り込むのは久し振りだ。
もちろんこの船も飛べるけど、いつも移動には魔動機を使う。この船はこの場所にいて、近くの洞窟に住む飛竜たちや学校に集う魔族のために、魔素を産み出している。そして、爺っちゃんの魂を移したAIは、この船の機関部にある。
操縦室に入ると、前方の壁に爺っちゃんの顔が映って僕を待っていた。「そこに座れ。」と言われるままに、真ん中にある椅子に腰かける。
「そろそろ良い頃合いだと思ってな、これをお前に渡しておこう。」
操縦席の制御卓には、手の平に乗るくらいの大小二つの物が置かれていた。
(続く)




