90話:答え
土曜日。2週間に1回、ミリアとバーンと学院のダンジョンを攻略する日だ。
急遽、何故かノエルも参加することになったけど。
「今日は、私とノエルがアリウスのためにお弁当を作って来たから」
「わ、私は料理は得意じゃないけど……一応、頑張ったんだよ」
まあ、2人がエリスに刺激されたことは想像できる。考えてみれば、これまでもミリアは俺のために弁当を作ってくれたんだろう。
「あ……だけどアリウス君。『伝言』でも伝えたけど。私がダンジョン攻略に参加することと、お弁当の話は関係ないからね。私も強くならなくちゃって思ったんだよ」
突然参加するって『伝言』が来たときは驚いたけど。ノエルにしてはめずらしく積極的で。バーンとも事前に話をして、参加することを了承して貰ったらしい。
「アリウス、俺のことは気にするなよ。他の奴と組むのは良い経験になるし。昼飯の件も、今日もガトウとジャンと一緒に食べに行く約束をしているからな」
バーンも毎回ミリアに気を遣って、街までメシを食べに行っていたんだな。バーンが人に気を遣うなんて意外だけど。まあ、こいつも良い奴だからな。
ノエルが参加するから、今日は1階層から攻略を始める。バーンもダンジョンの厳しさを理解したんだろう。文句は言わなかった。
「ノエル、右からも敵が来るぜ!」
「はい、解っています。『岩弾』!」
俺とバーンが前衛で、ノエルが後衛の魔法系アタッカー。
ミリアには今回も状況に応じて複数の役割をして貰うけど。これも良い経験になるからな。
ノエルだけレベルが低いけど。バーンとミリアが上手くサポートして、午前中のうちに4階層まで攻略した。
昼時になったので。いったん地上に戻って昼飯を食べることにする。
「アリウス、俺たちは1時間くらいで戻ると思うが。まあ、ゆっくり昼飯を食べてくれよ」
バーンはニヤリと白い歯を見せて笑うと、ガトウとジャンを連れて街の方へ歩いていく。バーンはこういうところが暑苦しいんだよな。
俺たち3人はレジャーシートのような布を広げて昼飯の準備をする。
ミリアが収納庫からバスケットを2つ取り出す。1つはミリアがいつも持って来ている大きなバスケット。もう1つは見たことのない小ぶりのバスケットだ。
「さあ、ノエル」
「う、うん……ア、アリウス君。初めて作ったから、あんまり自信がないんだけど……」
ノエルが小ぶりのバスケットを開ける。中には卵焼きとソーセージ、おにぎりが詰まっていた。
この世界に米は普通にあるけど。ロナウディア王国におにぎりを食べる習慣はない。
だけどノエルには、俺が他の国で食べたおにぎりの話をしたことがあるから。ノエルはそれを憶えていたんだろう。作り方は転生者のミリアが知っているからな。
おにぎりは形も大きさも不揃いで。卵焼きはところどころ焦げているけど。
「ノエル、食べて良いか?」
「う、うん。アリウス君が嫌じゃなければ……」
「嫌な筈がないだろう……うん、旨いな」
「ほ、本当に!」
「ああ。初めて作ったとは思えないよ」
ちょっと味が濃いけど。ノエルが一生懸命作ったんだからな。
「ノエル、良かったわね」
「うん。これもミリアのおかげだよ!」
ミリアがノエルに料理を教えたんだろう。大きい方のバスケットには唐揚げやハンバーグとか。ノエルが作ったモノと被らないおかずとサンドイッチ。あとはサラダに果物。量やバランスもノエルが作ったモノに合わせて調整した感じだ。
2人の弁当を全部平らげて。食後のデザートは俺が『収納庫』から出す。苺のパフェだ。特に今日のために用意した訳じゃないけど。弁当のお礼にと思って買っておいたんだ。
俺の『収納庫』のレベルだと完全に時間を停止できるからな。料理やデザートをそのままの状態で保存できるんだよ。
「「美味しい……」」
パフェを食べるミリアとノエルは幸せそうだ。女子は甘いモノに目がないし、デザートは別腹って言うからな。
「ねえ、アリウス。エリス殿下のことだけど。私も殿下の邪魔をするつもりはないわ。私は私のやり方で、これまで通りにアリウスの傍にいるから」
ちょっと唐突な感じだけど。タイミングを計っていたんだろう。
ミリアは同じ転生者として、俺のことを理解してくれる。俺が無自覚だって気づいたのも、ミリアのおかげだからな。
「わ、私は……私なんかがエリス殿下の邪魔をするなんて、おこがましくて言えないけど。わ、私はアリウス君と、その……もっと仲良くなりたいよ……」
ノエルは学院で最初にできた友だちだし。一番気楽に話せる相手だな。
「ミリア、ノエル、ありがとう。だけどエリスにも言ったけど。俺は恋愛とか、良く解らないからな」
解らないからって。人の気持ちを無視して良い訳じゃないけど。
「アリウスは、そのままで良いんじゃない。まあ、たまにイライラすることもあるけど。アリウスは自分がしたいことをすれば良いのよ」
俺の思考を見透かしたように、ミリアが優しく微笑む。
「相手がなんでそういうことをしたのか、考えないと相手を理解できない。アリウスは私にそう言ってくれたけど。相手を理解することと、相手に合わせることは違うわよ。少なくとも私は、アリウスに無理に合わせて欲しいとは思わないわ」
「わ、私も……アリウス君は、今のままで良いと思うよ。わ、私はそういうアリウス君が……」
真っ赤になったノエルの頭を、ミリアが慰めるように撫でる。ホント、こいつらは仲が良くなったよな。
「2人がそう言ってくれるのは嬉しいけど。解らないことを放置するのは、違うと思うからな。焦るつもりはないけど、俺は自分がどうしたいのか考えてみるよ」
考えて答えが出るとは限らない。だけど思考停止するのは逃げることになるし。
「そういうところも、アリウスらしいわよね」
全部解っているって感じで、ミリアがクスリと笑う。
ミリアもノエルも、俺の大切な友だちだからな。
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アリウス・ジルベルト 15歳
レベル:2,394
HP:25,132
MP:38,270
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