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89話:自問


 エリスには、冒険者の中にも俺と仲の良い女子がいないか訊かれた。

 とりあえず、仲が良いのはジェシカで。あとは師匠のセレナくらいだって答えたら。


「アリウスの師匠って言うと、たぶんSSS級冒険者のセレナ・オスタリカのことよね。それは盲点だったわ」


 なんてエリスは言っていたけど。セレナは俺を完全に子ども扱いして、全然相手にしていないからな。


 他にも女子の冒険者の知り合いのことを訊かれたから。マルシアとサラ、あとは最近ヘルガたちに絡まれてメシを奢るハメになったことを教えた。何故かエリスにジト目をされたけどな。


 エリスが好意を向けてくれることは、素直に嬉しいけど。

 俺には家族や友だちとして大切に思うことと、異性として大切なことの違いが良く解らない。

 俺は本気で人を好きになったことがないから。人を好きになるって気持ちが解らないんだろう。


※ ※ ※ ※


 『魔神の牢獄』4階層に出現するのは『雷光の魔神』。稲妻そのものが具現したような全長20m級の偽神(デミフィーンド)だ。


 近づくだけで帯電して全身を焼かれるから、防御魔法は必須だ。俺は圧縮した『絶対防壁アブソリュートシールド』纏って対抗する。


 それでも『絶対防壁』をガリガリ削られるから、繰り返し発動する。

 攻撃も魔力を全開にしないと、『雷光の魔神』は一撃じゃ仕留め切れない。


 予測で動くと予想外の動きに反応できないから。加速した思考で『雷光の魔神』が攻撃すると同時に回避する。


 やっぱり俺はダンジョンを攻略しているときが1番楽しい。ギリギリの戦いを続ける濃縮した時間は、生きてるって感じがするんだよ。


 ダンジョンの戦いは実力が全てだ。戦いに全神経を集中して、勝つことだけを考える。

 俺は結局、戦闘狂なんだよな。


※ ※ ※ ※


 木曜の午後から1日半。俺は眠らないで『魔神の牢獄』に挑み続けた。


 これは逃避行動なのかと自問する。だけど違うと断言できる。

 エリスたちには悪いけど、俺は恋愛するよりも強くなりたいんだよ。

 

「なんだよ? アリウスが浮かない顔をしてるなんて、めずらしいな」


 カーネルの街の冒険者ギルドで、ゲイルに声を掛けられる。

 今日、ジェシカたちは泊まり掛けて『ギュネイの迷宮』を攻略しているからいない。


 ゲイルに言われて、自分がしかめっ面をしていることに気づく。

 恋愛するよりも強くなりたいは本心だけど。人の気持ちを無視するような真似をして良いのかとも思っている。


「別に何でもない。俺だって機嫌が悪いときくらいあるよ」


「いや、機嫌が悪いって言うかよ……まあ、良いか。アリウス、今日はとことん飲もうぜ」


「ゲイルはいつもガンガン飲んでいるだろう」


 まあ、こいつなりに俺を慰めようとしてるみたいだからな。文句を言うのは悪いか。

 俺はゲイルに勧められるままにグラスの酒を飲み干す。


「アリウスさん。ほら、グラスが空いているよ」


 ツインテール女子のヘルガが、俺のグラスに酒を注ぐ。

 こいつはさっきから、ゲイルたちがグラスを空ける度に酒を注いで回っている。なんか体育会系のノリだな。


「ヘルガは下働きもするって言ってたけど。ゲイル、おまえはこんなことまでさせているのか?」


「いや、ヘルガが自主的にやってるんだぜ。なあ?」


「 ああ。ゲイルさんたちには世話になってるからな。これくらいしねえと」


 ヘルガは早速ゲイルたちのパーティー『我狼』に入って『ギュネイの大迷宮』をしているらしい。

 まあ、ゲイルたちとはレベル差があるから。完全にゲイルたちが面倒を見てやっている形だな。


 ちなみに『我狼』のメンバーは、ヘルガ以外20代後半の男5人の構成で。魔法も使うけど、5人全員が前衛として戦える。


「まだパーティーを組んだばかりだけどよ。ヘルガは筋が良いな。たぶん強くなれるぜ」


「ゲイルさん、良いこと言うじゃねえか。まあ、飲んでくれよ」


「ゲイル、あまり調子の良いことを言うなよ。ヘルガが強くなるには、まずは生き残らなくちゃな」


 ヘルガたちの戦い方は危なっかしいからな。相手の力を見極めるところから始めないと。


「アリウス、俺たちが付いているんだ。ヘルガを簡単に死なせるかよ」


「まあ、おまえたちがそれなりに強いことは解ってるけど。ヘルガを上手く導いてやれよ」


 強い奴と一緒にいれば強くなれる訳じゃない。自分が強いと勘違いすれば足元を掬われる。


 その点、グレイとセレナは滅茶苦茶厳しかったけど。どうすれば俺が強くなるか、知り尽くしていたからな。

 まあ、ここはゲイルたちのお手並み拝見ってところだ。


「で。アリウスは何に悩んでいるんだ? お兄さんに相談してみろよ」


「何がお兄さんだ。酒ばかり飲んでるゲイルは、すっかりオッサンだろう」


「オッサンはひでえな。だがこれでもアリウスより長く生きてるんだぜ。それなりの経験はしているさ」


 前世の25年と足すと、俺の方が年上だけどな。ゲイルは良い奴だから、本当に心配してくれているんだろう。


「ゲイル。悪いけど、これは俺自身の問題だからな。人に相談するような話じゃないんだよ」


 どうすれば良いか。答えは解らないけど。自分の頭で考えるしかない。

 人に答えを訊いても、それは俺の答えじゃないし。安易に答えを求めるのは、あいつらに対して失礼だと思う。


「だったら、思いきり悩めよ。悩むことは決して無駄にならないからな」


「ゲイルの癖に。たまには真面(まとも)なことを言うんだな」


 軽口を叩きながら、内心でゲイルに感謝する。

 今日はどんなに酒を飲んでも、酔いそうにないな。


※ ※ ※ ※


アリウス・ジルベルト 15歳

レベル:2,394

HP:25,132

MP:38,270


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