71話:試験
「それで、アリウスはん。魔王に会った感想はどうや?」
魔王アラニスに会った2日後。俺は王都の古びた喫茶店でアリサに会っている。
アリサを『伝言』に登録していたから呼び出すのは簡単だったし。アリサも魔王の動きを掴んでいただろうから、俺から連絡が来ることは予想していただろう。
だけど2日後になったのは、シュタインヘルトのせいで週末が潰れたからだ。
あいつとアラニスが帰った後、俺は最難関ダンジョン『魔神の牢獄』に直行した。
俺より強い奴が幾らでもいることが解ったんだからな。それが楽しくて、ダンジョンで延々と戦っていたのは仕方ないだろう。
「アラニスは食えないけど面白い奴だな。なあ、アリサ。おまえはアラニスと同等かあいつよりも強い奴を、他にも知っているのか?」
アリサは『防音』を発動済みだ。俺とアリサの会話は他の奴に聞こえていない。
「アリウスはん、楽しそうやな。そういう反応か……まあ、予想はしとったけどな。うちは魔王以外にも強い奴のことを知っとるけど。いくらアリウスはんでも、タダでは教えられんな」
アリサは揶揄うように笑う。アリサとアラニスはちょっと似ているかもな。
だけど考えていることや、やり方は全然違う。アリサは相手を翻弄して上手く立ち回ろうとするけど、アラニスは他人のことなんて関係ないって感じだからな。
「とりあえず、今は強い奴がいるって解っただけで良いや。俺は別にそいつらを倒したい訳じゃないからな。だけど勇者の名前が真っ先に出ないってことは、勇者はそこまで強くないってことだろう」
「アリウスはんは察しが良くて助かるわ。だけどうちを呼び出したってことは、勇者アベルに会う気になったってことやろ?」
「まあ、その通りだけどな。勇者が強くなくても『勇者の心』は面倒なスキルだし。アラニスと戦おうって奴に興味が湧いたんだよ」
この世界のスキルは鍛錬や実戦の中で習得するものなのに、勇者はスキルを他人に与えられる。しかも与えるのは狂戦士になるようなスキルだし。
勇者がアラニスの実力を把握しているのかも知っておきたい。アリサが勇者にキチンと説明しているか解らないからな。
「アリウスはんの都合が良ければ、直ぐにセッティングさせて貰うわ」
「いや、俺としては来週の後半が良いな。勇者にも準備が必要だろうし、俺も今週は忙しいんだよ」
勇者の出方も知りたいから、ゆっくり準備して貰った方が良いだろう。
こっちとしても明日から学院で初めての試験が始まるからな。まあ、試験自体は本当にどうでも良いんだけど。
試験期間中は午前で授業が終わるし、試験の後は来週の火曜日まで休みだからな。
土曜日はミリアとバーンと学院のダンジョンに行く約束をしているけど。それ以外は全部『魔神の牢獄』の攻略に当てるつもりなんだよ。
「アリウスはんが何を考えているのか、大体想像がつくわ」
アリサが呆れた顔をする。まあ、俺がやることを本当の意味で理解してくれるのは、グレイとセレナくらいだからな。
「ほな、日程が決まったら『伝言』で連絡するわ」
そう言うとアリサは、含み笑いをして帰って行った。
※ ※ ※ ※
水、木、金と学院の試験で。今日は土曜日だ。試験の結果は試験休みの後、来週の水曜日に発表される。
「考えてみれば、おまえたちが自主練していたこの2週間は、試験直前と試験期間中だよな。試験の方は大丈夫だったのか?」
「アリウス、このタイミングで言うの? だけど問題ないわよ。私は普段から勉強しているし。こう言ったら何だけど、学院の授業なんて実技以外は余裕だから」
ミリアも転生者だからな。前世の大学とかに比べれば、学院の授業のレベルは決して高くない。ミリアが前世でどんなことをしていたのかは知らないけど。この口ぶりだと、本当に余裕なんだろうな。
「俺も問題ないぜ。留学生の俺には学院の試験なんて関係ないからな」
バーンの『問題ない』は別の意味だな。王国の貴族が家督を継ぐには学院を卒業することが必須だけど。バーンはグランブレイド帝国の皇子だから関係ない。
だけど帝国の皇子が学院を卒業できなかったら、問題になるんじゃないのか?
バーンの護衛のジャンとガトウを見ると、苦笑いしている。やっぱりバーンにはもう少し勉強もさせないとな。
「とりあえず今日は、5階層に直行するけど。バーン、解っているだろうが。前回みたいに突っ走るなよ」
「ああ、勿論解っているぜ。俺だって成長したからな。自主練の成果をアリウスに見せてやるぜ」
バーンはこの2週間、ジャンとガトウに鍛えて貰った筈だけど。『鑑定』したらそれなりに真面目に鍛錬したみたいだから期待できるな。
「ミリア、今日のダンジョン攻略が終わったら、少し付き合ってくれないか。ノエルの件で話があるんだよ」
ミリアはノエルに会いたいと言っていたからな。前回は試験前だからとノエルに断られたけど。
「アリウス。もしかして、ノエルに会えるの?」
「ああ、そういうことだよ。だけどノエルは人見知りだからな。ちょっと作戦と言うか、俺に考えがあるんだよ」
そんなに大袈裟なことじゃないけどな。
「解ったわ。アリウス、ありがとう。ノエルに会えるだけで楽しみよ」
「ミリアに礼を言われるようなことじゃないし。ちょっと気が早いと思うけどな。まあ、まずは学院のダンジョンを攻略するか」
俺たちはダンジョンの転移ポイントを使って、5階層に向かった。
※ ※ ※ ※
アリウス・ジルベルト 15歳
レベル:2,221
HP:23,288
MP:35,496
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