65話:カウントダウン
状態異常耐性も、レベルが上がれば勝手に上がるモノじゃないんだよ。
耐性を上げるには、魔力で身体に負荷を掛けるのが1番効率的だな。
あとは毒なら毒、麻痺なら麻痺を何度も受けることで耐性が上がる。
だけどこっちは上手くやらないと、耐性が上がる前に死ぬけどな。
「バーンはこれまで護衛と一緒に戦って来たんだよな。だから、そもそもヤバい状況になることがなかったんだろう。それに何かあれば、護衛が何とかしたんじゃないのか」
「……」
ミリアに麻痺を回復して貰ったバーンは、渋い顔をしている。
まあ、これまで戦うことに自信があったのに。弱いと思っていたグールに負けたんだからな。
「なあ、アリウス。俺は自惚れていたみたいだな。力に自信があるからって良い気になって、とんだ笑い者だ」
バーンは悔しそうに奥歯を噛み締める。だけど目は死んでいない。
「アリウス、教えてくれ! 俺はどうしたら強くなれる? 強くなるためなら、俺は何だってやるぜ!」
さすがはバーンだ。そう来なくちゃな。
「まずは基本からだな。バーンは剣と盾のオーソドックスなスタイルだから。躱せるモノは躱して、あとは剣と盾で受ける。範囲攻撃とか避けるのが難しい攻撃もあるけど。まずはダメージを受けないように戦うことが基本だよ」
バーンは剣のスキルが高いけど攻撃に全振りしているからな。バランスが悪いんだよ。
「回避に剣と盾の防御系スキルを磨けよ。バーンは元々ステータスが高いんだから、防御系スキルを磨けば十分戦えると思うよ。やり方はジャンとガトウに頭を下げて教えて貰えよ。あの2人はおまえが思っているよりも、ずっと強いからな」
バーンは気づいていないみたいだけど。ジャンとガトウがしっかりしているから、バーンが無茶をしても問題にならなかったんだろう。
「ああ、そうだな。あいつらに基本をキッチリ教えて貰うぜ」
バーンは自分が認めたことには素直に従うからな。これでとりあえずは問題ないだろう。
ここまではバーンの話ばかりになったけど。
「ミリアは周りが見えているし、判断力もあるよな。臨機応変に行動ができているし、このまま鍛えていけば良いと思うよ」
ミリアは回復役をこなしながら、常に周囲に気を配って必要な行動を選択していたからな。とりあえず冒険者としては十分合格だろう。
「でも、それって一般的なレベルならって話よね。アリウスの感覚で、私に足りないところを教えてよ」
ミリアは普通の冒険者じゃ満足できないみたいだな。
「ミリアが上を目指すなら、魔力をもっと効率良く正確に操作できるようにならないとな。
俺も師匠に言われたけど、魔法を憶えるのはあくまでもスタートラインなんだよ。威力と精度を上げないと実戦じゃ使い物にならないからな。
まあ、これは武器で戦うときも同じことが言えるけどさ」
最後の部分にバーンが食いつく。
「なあ、アリウス。武器で戦うときの魔力操作のコツを教えてくれよ」
「バーン殿下、今は私がアリウスと話しているんですよ」
ミリアは相手がバーンでも一歩も引かない。まあ、そういう奴だよな。
「ねえ、アリウス。魔力を上手く操作できるようになるには、何をしたら良いの?」
「これはバーンにも言えることだけど。まずは魔力を発動するときに、魔力の流れを意識することだな。魔力の流れを認識できるようになったら、次は魔力を意識的に操作するんだよ。
まあ、口で言うのは簡単だけど。一朝一夕にできるようになるモノじゃないからな」
バーンもミリアも俺の言葉を真剣に聞いている。本気で強くなりたいんだな。
「とにかく毎日魔力が尽きるまで繰り返し練習するしかないよ。だけど漫然と練習するだけじゃダメだからな。1つ1つのことを何のためにやるのか。明確に意識してやるんだよ」
グレイとセレナに魔力操作の基本を叩き込まれた頃のことを思い出すよ。本当に毎日魔力が尽きるまで練習したからな。
まあ、今でも俺の魔力操作は完璧には程遠いけどな。魔力操作に限界はないんだよ。
だから結局のところは、どこまで目指すかってことだ。バーンとミリアがどこまでできるようになるかは解らないけど。魔力を意識しながら魔法やスキルを発動することで、ステータスやレベルの向上に繋がるからな。魔力操作に挑戦することは、決して無駄にはならないだろう。
とりあえず、2人にはこれからしばらく自主練をして貰って。2週間後に再び学院のダンジョンに挑む約束をした。
※ ※ ※ ※
翌週になって。俺は最難関ダンジョン『魔神の牢獄』攻略中心の生活を続けている。
学院の授業にもそれなりに出ているけど。寝ている時間を除けば、週の半分は『魔神の牢獄』に挑んでいる感じだな。
ミリアがノエルに会いたいって話は、ノエル本人に伝えたけど。今は試験が近いから勉強に集中したいと言われて断られたんだよな。
まあ、来週の試験が終わったタイミングで、ノエルにはもう一度話してみるか。
木曜日の夜。俺は『魔神の牢獄』に挑んだ後に、カーネルの街でジェシカたちと一緒に夕飯を食べた。
ジェシカと出掛けた日のことは、あれからマルシアと何か話をした訳じゃないけど。
「ジェシカはアリウス君の前だと、本当にポンコツだよね」
「もう、マルシア。だから余計なことを言わないでよ!」
マルシアの態度は相変わらずっていうか。完全に開き直っている感じだよな。
ジェシカを大切に想っていることは認めるけど。だからって揶揄うことを止めるつもりはないってね。
まあ、マルシアが急に態度を変えるとは思ってなかったけど。俺とジェシカを強引にくっ付けようとまではしなくなったからな。
マルシアともこれまで通りに付き合えそうだな。
アランとジェシカのことも、あれからアランと何も話していない。アランまで巻き込んだことは悪いと思っているよ。だけど俺の方から触れるようなことじゃないからな。
ジェシカたちとの食事を終えて、学院の寮に戻ったのは午前0時よりも少し前だ。
学院に通うようになってから暫くの間は、真面目に門限を守っていたけど。最近はそこまで真面目に守っていないんだよ。
部屋に転移魔法で直行するし。万が一バレたとしても、今さらって感じだからな。
だけどこんな時間に帰ったせいで、奴の存在に気づくのが少し遅くなったんだよ。
転移魔法で部屋に戻った瞬間。俺の『索敵』に反応があった。
俺が常時『索敵』を発動しているのは、グレイとセレナと一緒にいた頃から習慣みたいなものだよ。一瞬でも気を抜いて死ぬのは馬鹿だと散々言われたからな。
俺の『索敵』の効果範囲は5km以上あるけど。王都は広いからな。奴の居場所が効果範囲内だったのは幸運だったかもな。
『認識阻害』と『透明化』を発動して。俺が向かった先は、王都の冒険者ギルドだ。
酒場が併設された冒険ギルドは24時間営業だからな。こんな時間でも、それなりの数の冒険者がいた。
他の冒険者は仲間と話しているけど。カウンターの端の席に1人で座って、憮然とした顔で酒を飲んでいる冒険者がいる。
背中で束ねた長い黒髪と深い青の瞳の30代前半の美丈夫。190cmを超える長身で、無駄な肉を削ぎ落したように鍛え上げた身体。
SSS級冒険者のこいつのことを、俺はそれなりに良く知っているけど。なんで王都にいるんだよ?
おまえは魔王のところにいたんじゃないのか――なあ、カールハインツ・シュタインヘルト。
※ ※ ※ ※
アリウス・ジルベルト 15歳
レベル:????
HP:?????
MP:?????