394話:検証
前世と思われる世界と、俺たちの世界の時間の流れる速さは明らかに違う。
おそらく俺たちの世界の方が5倍以上時間が流れる速度が速い。前世の世界に行くときは時間の管理が重要になる。
あとはこっちの世界と連絡を取る手段を確保することだ。前世の世界にいるときに、みんなに何かあっても連絡手段がないと駆けつけることができない。
「『異世界転移門』を解析して再現したの? アリウス、面白いことをしているじゃない」
セレナに話したら直ぐに相談に乗ってくれた。セレナは魔法と魔導具のスペシャリストだから、相談するには最適の相手だろう。
天界や魔界にいるときも『伝言』で連絡することができたけど、天界と魔界は『神たちのルール』で分けられているだけで、この世界と繋がっているから問題なかった。
だけど前世はこの世界と隔絶しているから、普通の魔法じゃ二つの世界を結ぶことはできない。
「結構な魔力量が必要だけど『異世界転移門』を開きっぱなしておけば理論的には可能じゃない。アリウスの魔力量なら可能じゃないかしら?」
魔力量的には問題ないけど『異世界転移門』を開きっぱなしにしたら、偶然誰かが入ってしまうかも知れない。俺が異世界転移の加害者になる可能性があるってことだ。
この問題は『異世界転移門』の両側を『|絶対防壁』で塞いで、『認識疎外』と『透明化』で隠すことで解決した。
とりあえず何度か試行錯誤することになったけど、世界を跨いで『伝言』で連絡することができた。
『異世界転移門』を開いたままにするだけだと『伝言』は届かなかった。
だけど二つの世界を通信ケーブルで繋ぐイメージで『異世界転移門』に魔力を流し続けると『伝言』が届くようになった。
さらに副産物として『異世界転移門』を開いている間、二つの世界は繋がっているから、時間の流れが同期することが解った。これで時間の速さに関する問題も解決できた。
そもそも俺が何でこんなことをしているかというと、始めた理由は単純に知的好奇心からだ。
だけど今世界に多発している異世界転移で、急増している異世界転移者の問題を解決する手段になる可能性がある。
今のところ異世界転移者たちは大きな問題を起こしていないけど、異世界転移者の力を利用しようとしている奴も多い。
異世界転移者たちは強制的に転移させらたから、元の世界に戻る方法があれば戻りたいと思う奴は多いだろう。
だけどその前に前世と思われる世界について、もっと詳しく調べる必要がある。
前世のSF小説やアニメで定番の並行世界や、世界線の分岐が存在していて、異世界転移者がいた本来いた世界と、俺が『異世界転移門』で繋げた世界は異なるかも知れない。
とりあえず連絡手段と時間の流れの問題は解決したから、時間を掛けて調べることにするか。
※ ※ ※ ※
「アリウスがやることだから問題ことは解っているけど……ちょっと緊張するわね」
今、俺はミリアと二人で『異世界転移門』の前にいる。
ミリアは俺と同じ転生者だから、前世の世界に行ってみたいだろう。そう思って誘ったら二つ返事で行くとことになった。
期間は一泊二日の予定。その間、俺とミリアの子供は他のみんなに見て貰うことになった。話をしたら子供たちも一緒に行きたいと言っていたけど、さすがに子供を連れて行くのは時期尚早だろう。
「ミリアには事前に伝えたけど、向こうの世界でも魔力や魔法は普通に使えるからな」
これは最初に検証したことだ。『異世界転移門』自体が魔法だから使えない可能性は低いけど、何があるか解らないから一通り検証した。
まずは前世の世界に実際に行く前に、簡単な命令を実行するゴーレムを送り込んだ。魔力が使えないとゴーレムは動かないし、ゴーレムに魔導具を仕込んで魔法が使えることも検証した。
結構大掛かりな仕掛けが必要だったけど、魔導具に『異世界転移門』を仕込んで、向こうの世界から確実に戻れることも試した。
「前世の世界で魔力が使えるなんて、なんか不思議な感じね。確実に前世の世界かどうか解らないって話だけど」
「俺とミリアの実家があることは確認したけど、会って話をした訳じゃないからな」
「別にそこまでしなくて良いんじゃない? 私たちは転生したから前世の家族とは関係ないから」
ミリアがこんなことを言うのは、俺の母親がすでに死んでいて、父親とはずっと会っていなかったことを知っているからだ。
「ミリア、気を遣ってくれて嬉しいよ。だけどミリアは俺のことは気にしないで、もし可能なら前世の家族と会ってみたら良いよ」
「……そうね、状況次第になるけど。まずは前世の世界を楽しむわよ。アリウスと2人きりの旅行なんて初めだし、凄く楽しみだわ!」
ミリアが本当に楽しそうで、俺も嬉しくなる。
「じゃあ、行こうか」
俺とミリアは『異世界転移門』に入った。




