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4-76話:バイロンの正体


「エイジ君!」


 魔力の波動に焼かれるエイジ。ジュリアは自分が焼かれるのも構わずにエイジを掴んで『短距離転移(ディメンジョンムーブ)』を発動する。


「『完全治癒(パーフェクトヒール)』!」


裁き(ソードオブ)の剣(ジャスティス)』を失って全身ボロボロだったけど、ジュリアの魔法でエイジは回復する。エイジは気づいていないみたいだけど、エイジのHPで死ななかったのはアラニスが手加減したからだ。


 エイジは『収納庫(ストレージ)』から予備の剣を取り出すと、再びアラニスの元に向かおうとする。


「エイジ君、これ以上無茶をしないで! 魔王アラニスは私たちが叶う相手じゃないわ」


「勝てる勝てないの問題じゃない! ジュリア、俺に構うな!」


 エイジはジュリアを振り切ると、アラニスの元に突っ込んで行く。


「エイジ、お主では戦力にならん。邪魔だから下がれ!」


「シン師匠、幾ら師匠の言葉でもこれだけは譲れない!」


 シンとバイロン、オルテガとガルドの四人を相手にしながら、アラニスは呆れ果てた顔をする。


「自分が生かされたことにも気づかないとは、君の愚かさには興ざめしたよ」


 アラニスがエイジに向けて黒い魔力の塊を放つ。魔力の塊はエイジ命中すると一気に膨張してエイジを飲み込む。


 そして再び凝縮して魔力が消えたとき――エイジは消滅していた。


「エイジ……死に急ぎおって……」


 シンが奥歯を噛みしめて、魔王アラニスを睨む。


「嘘……エイジ君……」


 呆然とするジュリア。このとき、ジュリアの背後にバイロンが『短距離転移(ディメンジョンムーブ)』する。


「チッ……肉壁にすらならぬ役立たずが。貴様は少しは役に立て!」


 バイロンがジュリアに触れると、コールタールのように粘つく異質な魔力がジュリアを包む。


「うっ……」


 まるでバイロンの魔力が侵食したかのように、シュリアの全身が黒く染まって目が虚ろになる。


「バイロン、お主……トチ狂いおって! そのような真似を許した憶えはないぞ!」


「シン、貴様は何を甘いことを言っておる? この女も魔王を倒しに来たのだろう? 俺が上手く使ってやるわ!」


 虚ろな目のジュリアが加速してアラニスに突っ込んで行く。


「精神操作系魔法……という訳じゃないみたいだね。魔力が魂まで侵食しているのか」


 ジュリアの武器は刺突剣(エストック)。高速の突きがアラニスに襲い掛かる。バイロンの魔力が影響しているのか、ジュリアの動きは確実に速くなっている。だけどアラニスにすれば、それなりに速くなった(・・・・・・・・・・)程度だろう。


 ジュリアが参戦してバイロンが戻ってきたことで五対一になったけど、戦況は全く変わらない。五人の攻撃をアラニスは余裕で躱し続ける。


「チッ……こんなモノでは届かぬか。おい、貴様(・・)の魔力をもっと寄こせ!」


 コールタールのように粘つく魔力がバイロンの全身を包むと、突然バイロンは苦しそうに呻き声を上げる。


「き、貴様……どういうつもり『人間風情が()の魔力を支配しようなどと思い上がるからだ。我がおまえの身体を使ってやろう!』」


 バイロンの目に(くら)い光が宿って、口元に歪んだ笑みが浮かぶ。この瞬間、バイロンのレベルとステ―タスが大幅に上昇した。


「魔王如き(・・)が……我の力を見せてやろう!」


 バイロンの身体から黒い触手が無数に伸びてアラニスに襲い掛かる。その速度はこれまでのバイロンの比じゃない。触手はどこまでも伸びて全方向からアラニスに迫る。


「なるほど……この男は自分の身体を依り代にして、魔界の存在である君(・・・・・・・・・)と契約したということか。なかなか面白いことを考えるね」


 それでもアラニスは全ての触手を躱しながら縦横無尽に動き回る。


「魔力を制御できずに君に取り込まれたこの男は笑えないけど、人間の身体が君の魔力にどこまで耐えられるかな?」


 アラニスは冷ややかな目でバイロンを見る。バイロンの全身は血管が浮き上がって、そこら中から流血している。


 魔界の存在とか、アラニスが言ったことを理解できた訳じゃないけど、神に力を与えられた勇者や魔王が存在する世界なら、こういう(・・・・)奴がいても不思議じゃないだろう。


「ほう……貴様は我が何者か解っているようだな。だがこいつの身体が持つうちに、貴様を殺すだけの話だ」


 アラニスが触手を躱し続けると、躱した触手がそのまま伸びてシンたちに襲い掛かる。


「てめえ……どういうつもりだ!」


 ガルドは全ての触手を躱し切れずに、戦斧で受けようとするけど。


「ガルド、迂闊に触るな! 魔力に侵食されるぞ!」


 シンの言葉に、ガルドは大きく跳び退いて触手を躱す。


「おい……洒落にならねえぞ! バイロン、俺はてめえの道具になった憶えはねえ!」


「ガルド、何を言っても無駄じゃ。そやつはもうバイロンではない!」


「クソ爺、どういうことだ?」


「おそらくバイロンは禁呪を使って魔界の存在と契約したんじゃ。だが制御できずに、飲み込まれおった……今の此奴は魔界の存在そのものということじゃ」


 シンはバイロンが何をしたのか気づいているみたいだな。だけど魔界の存在だろうと、実体があるなら――


「君のやり方は気に入らないね。そろそろ躱すのも飽きたから終わりにしよう」


 アラニスはまるで物を見るようにバイロンだった存在を見る。


「終わりにするだと? 魔王とはいえ、所詮は魔族風情が――」


 バイロンだった存在が言い終わることはできなかった。

 突然何かによって地面に叩き落とされて、圧し潰された身体がミンチになって広がったからだ。



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