4-73話:出陣
シンがロナウディア王国に来てから約一ヶ月後。シン率いるSSS級冒険者たちと『奈落』」の『処刑人』による合同部隊が、アラニス討伐に向かうために『魔族の領域』に集結している。
俺とグレイとセレナがここにいるのは、シンが日時と場所を教えて来たからだ。
今回参戦するSSS冒険視野はシンとエイジに、シンが言ってい序列二位のオルテガ・グランツ。そしてもう一人――
「アリウス、あんたに会うのは五年ぶり? 結構良い男になったじゃない」
肩まで伸ばしたドレッドヘアーに褐色の肌。鍛え上げられた筋肉質な二〇代半ばの女子は、SSS級冒険者序列第七位のジュリア・エストリア。
ジュリアに会うのは俺がSSS級冒険者になって、グレイとセレナと一緒に挨拶したとき以来だ。
「ジュリアさん、揶揄わないでくれよ。ジュリアさんから見たら、俺なんてまだ子供だろう」
「あら、そんなことはないわよ。アリウスはもう立派なSSS級冒険者だわ。あんたの無駄な肉がない鍛え上げられた筋肉。腹筋もバッキバキじゃない!」
ジュリアはそう言いながら、当然のようにボディタッチしてくる。いや、別に変な意図はない。ジュリアは筋肉至上主義なんだよ。
「ジュリア、軽口を言っている暇はないだろう。魔王と戦う準備はできているんだろうな? それにアリウスは魔王側の人間だ。馴れ合うな」
エイジが不機嫌に言うけど。
「エイジ君は固いなあ。気を張り詰めたからって、魔王に勝てる訳じゃないだろう?」
ジュリアは豪快に笑い飛ばす。男勝りでさっぱりした性格のジュリアが言うと、全然嫌みに感じない。
「アリウス。おまえがここに来たのは、気が変わって魔王討伐に加わることにしたのか? それとも魔王の側に立って俺たちと戦うつもりか? 返答次第では――」
エイジが俺を睨んで剣に手を掛ける。
「俺が殺してえのは魔王じゃねえ……アリウス、てめえだ!」
ガルドが禍々しい巨大な戦斧を握り締めて戦闘態勢をとる。二人の全身から放たれる殺意と膨大な魔力。戦う気満々だな。
「まったくお主らは……良い加減にしろ。アリウスたちは儂が呼んだんじゃ。アリウスが一度口にしたことを撤回するとは思わんし、そんなつもりは毛頭なかろう」
シンが視線だけで二人を制する。
「シンの爺さん、こいつらを呼んだ理由は何だ?」
漆黒の鎧を纏う隻眼の男が研ぎ澄した刃物のような眼光を向ける。こいつがオルテガ・グランツ。エイジやガルドのようにあからさまに敵意を向けて来る訳じゃないけど、いつでも戦闘態勢に入れるように全く隙がない。
「立会人という名目で首輪をつけるためじゃと言えば、アリウスたちが怒るかも知れんがのう。要は此奴ら万が一にも悪さをせんように、姿が見える場所に置いておこうという訳じゃ」
シンは俺たちが『魔王の代理人』だということを知っている。俺たちがアラニス側として参戦しないように釘を刺したということか?
いや、強制された訳じゃないから来なくても良かった。シンは俺たちに戦いを見届けさせるつもりだろう。
「それにしても……この前会ったときから一月足らずでまた強くなったのう。アリウスだけじゃない。グレイ、セレナ、お主らも……」
この一ヶ月、俺はいつものようにソロで、グレイとセレナは二人で最難関ダンジョンを攻略していた。何が起きても対応できるように、もっと強くなることが一番だと思ったからだ。
シンを止められないなら、シンの背後にいる奴を突き止めて手を打つ。そう思ってエリクとエリス、アリサにも協力して貰って情報収集を続けた。
勿論、俺とグレイセレナも情報屋を使って情報を集めたけど、結局辿り着けるのは冒険者ギルド本部までだった。
シンとオルテガにエイジとジュリアにガルド。これだけでも結構なメンバーだけど、カ俺が一番気になるのは、さっきからずっと黙っている不気味な老人だ。
『アリウスはん、魔王アラニス討伐に『奈落』の老師バイロン・ガストレイが参戦するで』
バイロン・ガストレイは『奈落』の創設者であり絶対的な支配者だ。バイロンの一言で『奈落』の暗殺者たちは自分が死ぬことも厭わずに絶対服従する。ガルドが言いなりになるとは思わないけど。
とても老人とは思えない無駄な肉を削ぎ落したように鍛え上げられた身体に、漆黒のグロテスクアーマーを纏って、武器は両手持ちのフランベルジュ。
そんな外見よりも俺が気になるのは、『鑑定』してもこいつのスキルが見えないことだ。バイロンのレベルとステータスは見えているし。レベルが圧倒的に高い訳じゃない。何か特殊なスキルを持っているんだろうけど、このパターンは初めてだ。
そしてもう一つ、バイロンの魔力の色――色と言うのは言葉の綾で魔力の波長のことだ。人間と魔族、魔物の魔力はそれぞれ独特の波長を持っている。
だけどバイロンの魔力は人間の魔力に、俺の知らない魔力が混じっている感じだ。