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4-72話:かつての友


「SSS級冒険者たちと『奈落(ならく)』」の『処刑人(エクスキューショナー)』とやらが徒党を組んで私を仕留めに来るだと? 好きにすれば良い。少しは私を楽しませてくれると期待したいところだな」


 魔都クリステラで、俺はアラニスにシンから聞いた話を伝えた。


 アラニスには色々と協力して貰っているから、事前に情報を伝えておこうと思ったこともある。だけど一番の理由は、シンがSS級以下の冒険者たちを巻き込まないために、アラニスと戦うことを知ったからだ。


「アリウス、おまえも私との戦いに加わるのか? おまえたちが加われば、それなりには楽しめそうだ」


「いや、俺はアラニスと戦うつもりはないよ。戦う理由がないからね。むしろシンたちを止めたいと思っている」


 俺はアラニスにシンが戦う理由と、シンの背後にいる奴らが金のためシンたちを動かしたんじゃないかと伝える。


「余計なことはするな。その者たちはあの愚かな勇者よりは強いのだろう? 私も退屈していたところだ」


 アラニスが面白がるように笑う。


「どんな理由があろうと決めたのはその者自身だ。シンとやらは本気で私に勝つつもりだと言っているのだろう? 覚悟を決めて挑む者を止めるなど無粋ではないか」 


 SSS級冒険者序列一位のシン・リヒテンベルガ―は、たぶん俺よりも強い。

 シンのレベルが解らないから言ってるんじゃない。実際に戦ってみなければ勝負は解らないし、俺だって簡単に負けるつもりはない。だけどガルドが手も足も出なかったシンから、底の知れない凄みを感じた。


 それでもシンがアラニスに勝ているとは思わない。アラニスの強さは文字通りに次元が違うからな。


「アリウス、戦いに加わらないなら傍観しているが良い。他人の戦いに口出しは不要。おまえなら、それくらいのことは理解できるだろう?」


 アラニスが言ったことが最もなのは解っている。俺が止めたところでシンは止まらないだろう。だったら俺にできることは――


※ ※ ※ ※


 この日、シンが向かったのは自由都市連合の都市の一つであるラルバの街。

 迷路のように入り組んだ旧市街。高い壁に囲まれた古びた邸宅が暗殺者集団『奈落(ならく)』の本部だ。


 ここに『奈落』の本部があることは公然の秘密(・・・・・)で、ラルバの人間が『奈落』の名前を決して口にすることはない。


 邸宅門の前には如何にもカタギじゃない筋骨隆々の門番が、堂々と武器を持って立っている。庭には番犬が放し飼いにされていると言われているが、外に聞こえて来る鳴き声は明らかに犬のモノではい。


「邪魔するぞ」


 忽然と姿を現したシンに門番が一瞬戸惑ってると、シンは素通りして邸宅に入ろうとする。


「おい、そこの呆け爺! この邸宅が誰のものか知らねえのか?」


 門番は老人の肩を掴んで止めようとするが。老人の予想外の力に引き摺られる。


「儂の顔を知らぬとは、お主は最近雇われたのか? だが人の身体に触れるときは、もう少し用心するべきじゃな」


 シンは門番の手首を掴むと容赦なく握り潰す。苦痛の叫び声を上げる門番にシンが呆れた顔をしていると、叫び声を聞きつけた『奈落』の暗殺者たちが中から飛び出して来る。


「悪いが、今の儂は年甲斐もなく血が騒いでおるんじゃ。邪魔立てするなら、全員殺してしまうかも知れんぞ」


 獰猛な笑みを浮かべるシンの全身から、溢れ出した膨大な魔力が視覚化される。


「シン・リヒテンベルガー……おい! 早く老師(グランドマスター)に知らせて来い!」


 数人が慌てて邸宅の中に戻ると、残りの暗殺者たちは張り詰めた緊張の中でシンと睨み合うことになる。


 待たされたのは五分ほどだったが、シンの実力を知る暗殺者たちは、殺意を撒き散らすシンに生きた心地がしなかった。


「貴様という奴は……本当に年甲斐もないことをしおって」


 邸宅の地下室でシンを待っていたのは、禿頭の痩せた老人だ。だが決して痩せ細っているのではなく、無駄な肉を全て削ぎ落したような身体。


 この男こそシンと共に七番目の最難関(トップクラス)ダンジョンに挑んだかつてのパーティーメンバーであり、『奈落』の創設者である『老師』バイロン・ガストレイだ。


「仕方なかろう。この年になって魔王と本気で戦うことになったんじゃからな。強者が育って来たら儂など用済みだと思っておったが……先に言っておくが、私が強者だと認めたのはガルドのことではないぞ。奴はアリウスにボコボコにされとったからのう」


 シンの言葉に、バイロンは顔をしかめる。


「貴様が他人を強者だと認めただと……それこそ老いぼれたのではないか?」


 シンの実力とプライドの高さをバイロンは嫌気がさすほど知っている。バイロンも『包帯男(バンテイジマン)』から、自分が育てた最強の『処刑人(エクスキューショナー)』であり化物と呼ばれるガルドがアリウスに敗れたと報告を受けている。


 それでもシンに掛かればガルドとて赤子のようなモノであり、ガルドを倒した程度の者をシンが認めるなどあり得ないことだ。


「のう、バイロン。儂はこんなは話をしに来たのではない。ガルドでは戦力として不足だと文句を言いに来たのじゃ」


「ならば追加で『処刑人(エクスキューショナー)』を二、三人用意しようではないか。その分の追加料金は当然支払って貰うがな」


「雑魚など何人いようと役に立たんわ。『奈落』に殺せぬ者などいないなど笑わせる」


「何だと……どうやら貴様は俺に喧嘩を売りに来たようだな!」


 バイロンの全身から魔力が溢れ出す。その魔力は明らかに異質だった。

 濃密な魔力であることはシンと変わらないが、バイロンの魔力は黒い光を放ち、まるでコールタールのように粘ついて見える。


「お主の本気の(・・・)魔力を見るのは久しぶりじゃな……のう、バイロン。ガルドを超える戦力がここにおるではないか?」


 シンはバイロンを見据えながら、全身に魔力を漲らせて完全に戦闘態勢に入る。


「それともここで儂と殺し合うか……儂は構わぬぞ」


 二つの巨大な魔力がせめぎ合う。魔力の奔流が空気を圧し潰して、まるで地震のように堅牢な石造りの地下室を振動させる。


「止めだ……貴様を殺しても一銭にもならぬ。俺を戦力として雇うつもりか? ガルドなどとは比べ物にならん額が必要だぞ」


 バイロンの言葉に、シンは収納庫(ストレージ)から革袋を取り出して投げる。この革袋はマジックバックで、中には拳大の魔石が大量に詰まっていた。


「お主を雇う金を金貨で用意するのは面倒だからのう。ガルドを雇う額の五倍にはなる筈じゃ。老いぼれ一人を雇うには十分じゃろう。バイロン、お主も魔王討伐に参加しろ」


「良かろう……『奈落』は金額次第でどんな仕事でも請け負う。金を払うなら文句はない」


 バイロンの目に怪しげな(くら)い光が宿り、口元に歪んだ笑みを浮かべる。そんなバイロンの変化を、シンは見逃さなかった。


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