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4-71話:強さの意味


「おい、ジジイ。いつもで俺をこんな茶番につき合わせるつもりだ? 魔王討伐に参戦しねえなら殺しても構わねえだろう。アリウス、てめえは俺がぶっ殺す!」


 テーブルを叩いて立ち上がったガルドに、シンが呆れた顔をする。


「ガルド、お主も学習しない奴じゃのう。また儂に動きを封じられたいようじゃな」


「クソジジイが……てめえの相手をする気はねえぜ! おいアリウス、てめえとの決着はまだ着いていねえだろうが! ジジイの陰に隠れて逃げるつもりか?」


 自分勝手なこと言っているガルドに、グレイとセレナも呆れている。エイジはシンをクソジジイ呼ばわりしたガルドを睨みつけて剣に手を掛けるけど、シンが鋭い眼光を向けて止める。


「ガルド、お主のことも魔王討伐の戦力として数えておったが、ここまで協調性がないと使い物にならんな……邪魔になるなら、ここで殺してしまうか?」


 シンが殺意を向けると一瞬で空気が変わる。シンの魔力は研ぎ澄まされた刀――いや、どこまでも伸びる針のイメージか。


 一点に収束させた計り知れない膨大な魔力は、どんなモノでもナノ単位で正確に貫く。対抗するにはシン以上の膨大な魔力か、シンに匹敵する正確な魔力操作が必要だろう。


 シンは本気だ。魔王アラニス討伐の邪魔になると判断したらガルドを殺してしまうだろう。


 ガルドは『奈落(ならく)』の『処刑人(エクスキューショナー)』だから、これまでに大量の人間を殺しただろう。グランブレイド帝国の帝都で、俺のことも殺そうとした。だからシンがガルドを殺すことを止める理由はない。


「シンさん、俺はガルドと戦っても構わないよ」


 意外だと思ったのか、ここにいる全員が俺の発言に注目する。


 別にガルドのためじゃない。戦いの邪魔になるならガルドを殺しても構わないけど、SS級以下の冒険者を犠牲にしないためにシンがアラニスと戦うなら、シンたちが生き残れる(・・・・・)確率を少しでも上げるためにガルドに役に立って貰おうと思っただけだ。


 シンのレベルもアラニスのレベルも解らない俺には二人の実力は測れない。だけど感覚的な話で構わないなら――アラニスの強さは次元が違う。


「アリウスが構わんと言うなら儂に異存はないが……グレイ、セレナ、お主らも文句はないのだな?」


「ああ、シンさん。アリウスが考えていることは大体解っているぜ」


「そうね。シンさんにとっては面白くない話だと思うけど」


 グレイとセレナもアラニスに会っているし、俺と同じように考えているんだろう。


「そうか……魔王アラニスとはそれほどの存在なのか? ならば尚更お主らも共に戦えとは言わんが……儂もこの年になって魂が滾る戦いができるとは思っておらんかった」


 エリクとエリスは状況を察するのが上手いから、何のことか解っていないのはガルドとエイジだけだろう。


「おいソクジジシイ……結局、俺はアリウスと戦って構わねえってことだな?」


「ああ、そうじゃったな……ガルド、戦うのは構わん。今のアリウスとお主の格の違いを思い知るが良い」


「何だと……ふざけるんじゃねえ! このガルド様がアリウスをぶっ殺すところを見ていやがれ!」


 さすがに街中で戦う訳にいかないから、俺たちは港湾都市ゼスタから二kmほど離れた荒野まで移動する。


「アリウス、てめえと戦ってから……俺は徹底的に鍛え直した。てめえなんざ、このガルド様の足元にも及ばないことを見せつけてやるぜ!」


 ガルドが言っていることは嘘じゃないだろう。グランブレイド帝国の帝都で戦ったときよりもかなりレベルが上がっている。


 ガルドの全身から放たれる膨大な魔力。こいつは天才型で感覚だけで魔力を操るタイプだ。だけどそもそも魔力が膨大で感覚だけで操作しても魔力の最適化ができる――ガルドと戦ったときの俺はそう思った。だけど魔力操作の精度に限界はないからな。


「アリウス、てめえは絶対にぶっ殺してやる!」


 ガルドが禍々しい戦斧に魔力を集束させて一瞬で距離を詰める。音速の二倍を余裕で超える速度で狙いも正確だ。だけど只それだけのことで、ガルドよりも速く動けば躱せる。


 俺は最小限の動きだけでガルドの攻撃を躱すと、カウンターとして青の剣の柄を顔面に叩き込む。今の俺が本気で攻撃したらガルドを殺してしまうからだ――


 ガルドは確かに強くなった。だけど俺はグランブレイド帝国から戻ってから二つの最難関(トップクラス)ダンジョンをソロで完全攻略して今は六番目に挑んでいる。つまり俺の方がガルドよりもさらに強くなったってことだ。


 一撃でガルドの意識を奪う。今のレベルとステータスの差を考えれば当然だろう。


「アリウス、お主の年齢年を考えれば本当に末恐ろしいのう。じゃが、魔王討伐にお主が参戦しないのは正解かも知れんな。将来に希望が持てる……グレイ、セレナ、お主らに儂が言うようなことでないと承知しておるが、ここまで良く導いたのう」


「俺とセレナが師匠なのは間違いねえが、俺たちが手出ししたのは途中まで。そこからはアリウスが勝手に強くなったんだぜ」


「シンさん、私とグレイはアリウスに追い抜かれないように必死なのよ」


 二人の言葉にシンが好々爺のように笑う。


「アリウスにも気を遣わせたようじゃのう……儂は魔王アラニスと戦う以上、勝つつもりじゃ。じゃが結果がどうなろうと犠牲を最小限に留めることを最優先にすると約束しよう」


 そう言うとシンは意識のないガルドを背負って、エイジと一緒に立ち去った。



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